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ラブソングス

文句があるなら俺より魔力が上になってから言えですって? 承知いたしました。

作者: 間咲正樹

「ホラ、見ろよお前ら。俺は遂に炎魔法も習得したぜ」


 王立魔法学園のとある朝。

 私の婚約者であるエグモント様が、教室の隅で取り巻きたちにドヤ顔をしながら、手から炎を出した。

 取り巻きはそんなエグモント様を、「さすがエグモント様!」とか「そこにシビれる! あこがれるゥ!」と過剰に持ち上げている。

 ……やれやれ。

 私は右腕の古びたブレスレットを軽く撫でてから、エグモント様に声を掛ける。


「エグモント様」

「アン? 何だよアデーレ。俺に何か用か?」

「何か用かじゃありません。何度言えばおわかりいただけるのですか。教室内での魔法の使用は校則で禁止されてるのですよ。まして炎魔法なんて。火事になったらどう責任を取るおつもりなのですか?」

「……チッ、相変わらずうるせぇな。『白魔色(しろましょく)』のお前が、『赤魔色(あかましょく)』の俺に文句を言う資格があると思ってるのか?」

「……!」


 エグモント様がゴミを見るような目で、私を見下ろしてくる。

 ……またこれだ。

 魔法を使う際の魔力の色で、魔力量はランク付けされている。

 下から白・青・黄・緑・赤・虹の順で、赤魔色のエグモント様は上から二番目の上級ランク。

 白魔色の私は最低ランクなのだ。


「いいか? この魔法学園じゃ魔力が全てだ。文句があるなら、お前もせめて緑魔色くらいにはなってみるんだな。まあ、才能のないお前じゃ、一生かかっても無理だろうけどよ。ハハハハハ」

「ギャハハハハ」

「ヒヒヒヒヒヒ」


 エグモント様と取り巻きが、私を指差しながら下品な笑い声を上げる。

 ……クッ。


「安心しろよアデーレ。お前のことは赤魔色のこの俺が、一生養ってやる。結婚したらお前は家のことだけやってりゃいいんだ。だからさっさとこの魔法学園は退学して、花嫁修業にでも時間を使ったほうが、有意義ってもんだぜ」

「ヒュー! エグモント様、男らしぃ!」

「マジカッケェっす、エグモント様!」


 どこがよ。


「随分楽しそうだね?」

「っ!? ベ、ベルンハルト様……!」


 その時だった。

 我が国の筆頭公爵家の令息であり、この学園で数少ない『虹魔色(にじましょく)』でもあるベルンハルト様が、にこやかな笑みを浮かべながら、エグモント様の肩にポンと手を置かれた。


「エグモント、教室内での魔法の使用は校則で禁止されてるよ。赤魔色なのに、そんなことも知らなかったのかい?」

「あっ……うぐ……!」


 権力でも魔力でもベルンハルト様には足元にも及ばないエグモント様は、顔を真っ赤にしながら奥歯を嚙みしめている。


「……クッ、行くぞお前ら」

「あ、はい」

「うっす」


 エグモント様は肩で風を切りながら、取り巻きたちと教室から出て行かれた。

 うわぁ、何てダサいのかしら。


「フフ、彼が婚約者だなんて、君も大変だね、アデーレ」


 ベルンハルト様が肩をすくめる。


「……いえ、貴族の家に生まれた以上、覚悟していたことですから」


 貴族の婚姻は大半が政略結婚。

 どれだけ婚約者の人間性に問題があろうと、私に拒否権などないのだから……。


「まして白魔色(底辺)の私では、赤魔色(エグモント様)にはとても敵いませんし」

「……果たしてそうかな?」

「――!」


 ベルンハルト様が私のブレスレットを見つめながら、意味深な笑顔を浮かべる。

 ま、まさかこの人……!


「ハッハー、なんちゃって。こういう意味深な台詞、一回言ってみたかったんだよね」

「はぁ……」


 ベルンハルト様はひらひらと手を振りながら、自分の席に戻って行った。

 ……相変わらず、食えない人だわ。




「えー、今日は転校生を紹介します。さあ、自己紹介を」

「あ、はい! シュレーゲル男爵家の次女の、カルラと申します。どうぞよろしくお願いします」

「「「――!!」」」


 カルラさんがお辞儀をした瞬間、主に男子生徒たちが一斉に目を見張り、ゴクリと唾を飲む気配がした。

 カルラさんが桁外れの美少女だったうえに、まるで牛みたいな豊満な胸を持っていたからだろう。

 思わず自分の貧相な胸を触り、胸囲の格差社会にうんざりする……。


「……へえ」

「……!」


 その時だった。

 私の隣の席のエグモント様が、カルラさんを見て口端を吊り上げた。

 私の中で、黒い靄のようなものがじわじわ広がっていく感覚がした――。




「ねえ、カルラ」

「? はい?」


 その日の放課後。

 一人で帰ろうとしていたカルラさんに、エグモント様が声を掛けた。

 エグモント様……?


「君はまだこの学園に来たばかりで、いろいろと不慣れだろ? よかったら俺が、この学園を案内してやるよ」

「え、よろしいんですか!? でも……」


 カルラさんが窺うような視線を、私に向けてきた。

 最初にカルラさんにクラスメイト全員がした自己紹介で、私とエグモント様が婚約者だということは言ったので、気にしたのだろう。


「ああ、アデーレのことなら気にすんなよ。あいつは所詮白魔色なんだから。ちなみにカルラ、君の魔色は?」

「あ、ええと、一応緑魔色です」


 ……なっ!


「へえ! そりゃ大したもんだ! ちなみに俺は赤魔色。つい最近、炎魔法も習得したんだ」


 エグモント様は性懲りもなく、教室内で手から炎を出した。


「わあ、凄いですねエグモント様! 赤魔色なうえ、習得が難しい炎魔法まで!」


 カルラさんが手をパチパチ叩きながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 そのたびにカルラさんの豊満な胸がゆっさゆさ揺れて、それを見たエグモント様は床に届きそうなくらい鼻を伸ばした。

 こ、この二人は……。


「と、いうわけだからさ、行こうぜ、カルラ」

「はい!」


 二人は仲睦まじく、並んで教室から出て行った。

 何が「と、いうわけ」なのよ。

 文脈が繋がってないじゃない。

 ――私の中の黒い靄が、どんどんと膨らんでいく……。




 そしてカルラさんが転校して来てから、一ヶ月ほどが経ったある日。


「……なあ、いいだろカルラ」

「ふふ、こんなところで。本当に悪いお方ですね」


 ――!

 放課後に私が一人で渡り廊下を歩いていると、校舎裏のほうから、エグモント様とカルラさんの声が聞こえてきた。

 こ、これは――!!

 この瞬間、私の中を黒い靄が埋め尽くした。

 逸る心臓を必死に抑えながら、そっと校舎裏を覗き見ると、そこには――。


「ん」

「……ん!」


 ――!!

 濃厚なキスを交わしている、二人の姿が――。

 あ、あぁ……。


「っ!? 誰だッ! ――ああ、何だアデーレか」


 浮気現場を婚約者に目撃されたというのに、エグモント様にはまったく悪びれた様子はないどころか、いつものゴミを見るような目を私に向けてきた。


「まあ、どうせいつかは俺から言うつもりだったから、却って手間が省けたな。――見ての通りだ。俺とカルラは愛し合ってる」


 エグモント様はカルラさんの肩に、ドヤ顔で手を回した。


「ごめんなさいアデーレ様! アデーレ様には申し訳ないとは思ってるんですが、私はどうしてもエグモント様のことが好きなんです!」


 何を白々しい。

 本当に申し訳ないと思ってるなら、人の婚約者を寝取るような真似、するわけないじゃない。


「まあ、とはいえ安心しろよアデーレ。お前とは()()()()()()()()()()()()だ」

「…………は?」


 エグモント様……?

 何を仰ってるんですか、あなたは……?


「俺とお前の婚約は、家同士が決めたものだからな。その責任はしっかり果たすさ。――だからカルラには、第二夫人になってもらう」


 ……なっ!?

 だ、第二夫人、ですって……!?

 ……確かに我が国では、()()重婚は認められてはいる。

 だが、重婚が盛んだったのは何百年も前の話で、昨今では重婚している家庭は滅多にない。

 何故なら重婚をされた側の家は、自分の大事な娘――ひいては自分たちの家全体を軽く見られたという認識になるからだ。

 それではとても円満な親戚関係は築けないのは自明。

 まともな精神を持っていたら、堂々と重婚をしたいなんて宣言するわけはないのだ……。


「……カルラさん、あなたは本当にそれでいいんですか? エグモント様のことが好きなら、普通は独占したいと思うはずでは?」

「い、いえいえいえ! 滅相もありません! 私みたいな身分の低い娘が、エグモント様の第二夫人にしていただけるだけでも、身に余る光栄ですし!」


 ……確かにそれはそうかもしれないわね。

 男爵家の次女であるカルラさんでは、本来なら伯爵家の嫡男であるエグモント様との結婚は、夢のまた夢だもの。


「オイオイ、そんなに謙遜するなよカルラ。お前は緑魔色なんだからさ。白魔色(底辺)のアデーレなんかよりも、お前のほうがよっぽど魔法学園(ここ)じゃ立場は上なんだぜ?」

「そ、そうですかねえ」


 エグモント様におだてられたカルラさんは、満更でもなさそうだ。

 ……実際心の底では、白魔色(底辺)である私を見下していたからこそ、堂々と私からエグモント様を寝取ったのだろう。


「と、いうわけだ。これから俺たちはここでしっぽり愛を育むんだから、そろそろ空気読んで、どっか行ってくれよ」


 何が「と、いうわけ」なのよ。

 文脈が繋がってないじゃない――!!


「…………フザけるな」

「……アン? 気のせいか? 俺には今、お前が『フザけるな』って言ったように聞こえたんだが」

「――だからそう言ったのよ! このドヤ顔イキり浮気野郎がッ!」

「なっ!? テ、テメェッ!!?」


 ドヤ顔イキり浮気野郎は、顔を真っ赤にしながら激高した。

 フン、この程度の煽りで逆上するなんて、ホントガキね。


「ちょっと! 無礼ですよアデーレ様! 白魔色の分際で、赤魔色のエグモント様に盾突くなんてッ!」


 今度はカルラさんの態度が豹変した。

 ハッ、本性を現したわねこの牛乳(うしちち)ビッチが。

 やっぱりアンタも内心じゃ、白魔色()のことを下に見てたんじゃない。


「そ、そうだ! カルラの言う通りだ! 文句が言いたいんだったら、俺より魔力が上になってから言うんだな、この白魔色(底辺)がッ!」

「……承知いたしました」

「……アン?」

「わかったって言ったのよ。そこまで言うなら、()()で白黒つけましょうよ」

「――!? ……へえ、そりゃおもしれーな」


 エグモントの顔が、嗜虐的に歪んだ。


「吐いた唾飲むなよアデーレ! もう今更引き返せねぇからなぁ!」

「ええ、上等よ」

「ハッハー、随分楽しそうなことやってるねぇ」

「「「――!!?」」」


 その時だった。

 いつの間にか私の背後に、ベルンハルト様が立っていた。

 ま、まったく気配を感じなかった……。

 何者なのこの人……。


「決闘となれば立会人が必要だろう? その役目、僕が引き受けようじゃないか」


 っ!?

 ベルンハルト様が、立会人を……!?


「ハッ、そいつはいい。是非お願いしますよベルンハルト様。この白魔色(底辺)が、後でごちゃごちゃ言わねえよーにね」

「その台詞、そっくりそのままお返しするわ」

「ハッハー、それでは交渉成立だね。じゃあ場所を変えようか。ここじゃ何だからね」


 鼻歌交じりに、ベルンハルト様は校庭のほうに歩き出した。

 ……随分楽しそうね、この人。




「オイ、決闘ってマジかよ!」

「エグモント様とアデーレがやるらしいぜ!」

「エグモント様ー! そんな白魔色(底辺)女、わからせてやってくださーい!」


 私たちが校庭に来ると、騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まって来て、あっという間に人だかりが出来た。

 みんな毎日同じことの繰り返しの学園生活に退屈しているので、降って湧いた貴重な決闘(イベント事)に、色めき立っているのだろう。

 まあいいわ。

 証人(ギャラリー)は多いに越したことはないもの。


「な、何事ですか、これは!?」


 そんな中、私たちのクラス担任の先生も駆けつけた。


「ああ、これはちょうどよかった。今からアデーレとエグモントが、互いのプライドを賭けて決闘を執り行うことになったんですよ」


 先生にベルンハルト様が説明する。


「け、決闘!?」

「ええ、承認してくださいますよね、先生?」

「で、ですが……! もし大怪我をしてしまったら、学園長に何と説明したらいいか……」


 日和見主義の先生は、保身を考えて目を泳がせている。


「その点は心配要りません。後で僕のほうから叔父上にはちゃんと説明しておきますから、先生が責任を問われることはないとお約束いたしますよ」


 この魔法学園の学園長先生は、ベルンハルト様の叔父に当たる方なのだ。


「あぁ……まぁ……、そういうことでしたら、今回は特別に……承認しましょう」


 先生は渋々といった感じで、首を縦に振った。

 どの道筆頭公爵家の令息であるベルンハルト様にこう言われてしまっては、先生の立場ではノーとは言えないのだろう。


「ありがとうございます。――さて、これにて正式にこの決闘は受理された! 両人とも、心と身体と魔力の準備はよろしいかな?」

「ああ、俺はいつでもいいですよ」

「私もです」

「「「わあああああああああああああああ」」」


 ギャラリーたちから歓声が上がる。

 中にはどっちが勝つか賭けてる連中までいる。

 やれやれ、吞気なものね。


「それでは最初に、勝った際の相手に対する要求を確認しておこう。まずはアデーレ、君は勝ったらエグモントに何を要求する?」

「はい、私はこの男との婚約の破棄と――浮気をしたことに対する相応の慰謝料を請求します」


 私はドヤ顔イキり浮気野郎(エグモント)にビシッと指を差した。


「チッ」


 するとドヤ顔イキり浮気野郎(エグモント)は、顔を醜く歪めながら舌打ちをした。


「うんうん、なるほどなるほど。よーくわかったよ。では次にエグモント、君は勝ったらアデーレに何を要求する?」

「ハハッ、そうですねえ、まずはカルラを第二夫人にするのを認めることと――」

「ヒュー! 第二夫人だってよ! さすがエグモント様!」

「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」


 例によって取り巻きたちがエグモントを持ち上げる。

 こいつらいつも同じことばっかやってて、よく飽きないわね。


「あとは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですね。白魔色(底辺)赤魔色(上級)にナメた態度を取ってると、世の中の秩序が乱れますしね」


 何が秩序よ。

 自分が浮気で散々秩序を乱しておいて、とんだダブスタもあったもんだわ。


「よろしい。両人とも、今の要求に不満はないかな?」

「ありません」

「俺もありませんよ。どーせ俺が勝つんですから」


 それはどうかしらね。


「オーケー。では最後にルール確認だ。とはいえルールは至ってシンプル。降参するか、僕が戦闘不能と判断したほうが負け。それ以外は何でもアリの実戦形式だ。――よろしいかな?」

「待ってくださいベルンハルト様。その、『降参』っていうのは、ルールから外してもらえませんか?」


 ……コイツ。


「ちょっと怪我したくらいで降参されちゃ、面白くありませんからねぇ。イイ機会だから徹底的に、どっちの立場が上なのかってことを、コイツに()()()()てやりたいんですよ」


 エグモントはいやらしく口角を上げる。

 ……ホント、真正のクズね、コイツは。


「ふうん。エグモントはこう言ってるけど、君はどうする、アデーレ」

「ええ、私もそれで構いません」


 ちょっと怪我したくらいで降参されちゃ面白くないってのは、私も同意見だもの。


「ハッハー、オーキードーキー! それではこれにて全ての準備は整った! 両人とも――構え」


 エグモントが右の手のひらを前方に突き出す。

 ――私は右腕の古びたブレスレットを、そっと外した。


「エグモント様ー! 頑張ってくださーい!」


 牛乳(うしちち)ビッチがぴょんぴょん飛び跳ね、その牛乳(うしちち)をだらしなく揺らす。


「ああ、見ててくれよカルラ! 俺の雄姿を!」


 何よその倒置法は。


「――はじめッ!」

「覚悟しろ、白魔色(底辺)がぁ!」


 エグモントの右の手のひらから、赤い魔力が溢れる。


「灰にしろ血で濡れた過去を

 焼き尽くせ色のない未来を

 ()べろ 喚け 烙印を刻め

 懺悔の炎が瞼を下げる

 ――獄炎魔法【貪る太陽(アグニ)】」


「「「――!!!」」」


 エグモントの手のひらから放たれた獄炎の火球が、私に襲い掛かってきた。

 ふうん、赤魔色なだけあって、そこそこの火力ね。

 ――でも、私の敵じゃないわ。

 私は敢えてエグモントの【貪る太陽(アグニ)】を、真正面から受けた。


「ハハハハハ!!! 早くも決着だなぁ! 安心しろよアデーレ! ギリギリ死なない程度に、手加減してやったからよぉ!」

「それはどーも。まあ私は、この10倍の火力があっても問題なかったけど」

「「「――!!?」」」

「な、なにィ!?」


 途端、エグモントの顔が青ざめた。

 さもありなん。

 モロに【貪る太陽(アグニ)】を喰らったはずの私の身体や服には、焦げ跡一つ付いていなかったからだ。


「バ、バカな……! 有り得ねぇ……!! いったいどんなトリックを使いやがった!?」

「別に? 大したことはしてないわ。私の魔力をあなたの【貪る太陽(アグニ)】にぶつけて、相殺しただけよ」

「相殺……だと……!? フザけるなッ! 白魔色(底辺)の魔力で、俺の【貪る太陽(アグニ)】が相殺できるわけねぇだろッ!!」

「頭だけじゃなく、目も悪くなったの? よおく見てごらんなさいよ、()()()()()

「何……? ――なっ!?」


 エグモントもやっと気付いたらしい。

 私の全身から立ち上っている魔力が、()()であることに。

 そもそも白魔色の私が決闘を挑んだ時点で、おかしいと思わなかったのかしら。

 つくづくおめでたい男ね。


「そ、そんな……!! どうして……!!」

「……私はね、『魔力過剰放出症』なのよ」

「――!!?」


 エグモントの顔が、絶望でぐにゃりと歪んだ。

 ――人間は運動をする際、無意識のうちに力をセーブしている。

 肉体の限界を超えた運動をしてしまうと、最悪筋肉が断裂してしまうこともあるからだ。

 そしてこれは、魔法においても同様のことが言える。

 一度に過剰な魔力を放出すると身体に負荷が掛かってしまうので、通常魔力というのは、当人の肉体強度以上には出せない。

 ……だが、幼い頃から魔力を鍛えるのが大好きだった私は、その毎日の過酷な魔力トレーニングの弊害で、魔力放出をセーブする機能が壊れてしまったらしい。

 こうして『魔力過剰放出症』になってしまった私は、普段はこの魔力放出を抑える効果を持つブレスレットを身に着けていないと、まともな生活を送れない身体になってしまったのである。

 ――でも、こうしてブレスレットを外して本来の力を解放した私なら、魔力は虹魔色に相当する。

 今の私にとっては赤魔色程度の相手なんて、蟻を踏み潰すようなものよ――。


「……へえ」

「……!」


 その時だった。

 ベルンハルト様がまるで新しいオモチャを見付けたみたいな顔を、私に向けてきた。

 ――私の背筋を悪寒が走る。

 い、いや、今は目の前の決闘に集中よ――!


「さて、覚悟はいいかしら、ドヤ顔イキり浮気野郎さん?」


 私は右の手のひらを、ドヤ顔イキり浮気野郎(エグモント)に向ける。


「ま、待ってくれッ!? 降参だ降参ッ! お、俺が悪かったから、どうか許してくれッ!」

「おやおやエグモント? 君が自分から言ったんじゃないか。『降参』はルールから外してくれ、とね」

「ベ、ベルンハルト様……!!?」


 うん、確かに言ってたわよね。

 これぞ墓穴を掘るってやつね。


「神が覗けば穴が空き

 天使が飛べば花が舞う」


「た、頼むアデーレ!! 謝るからッ!! もう二度と逆らわないからぁあああッッ!!!」


 ダメよ、許さないわ。

 イイ機会だから徹底的に、どっちの立場が上なのかってことを、()()()()ておかないとね。


「廻れ 踊れ 祈りを捧げろ

 光の道が天へと続く

 ――光線魔法【聖歌の轍(ルーグ)】」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 私の手のひらから放たれた虹色の極太の光線が、エグモントに直撃した。

 【聖歌の轍(ルーグ)】は魔法使いが最初に覚える初歩的な攻撃魔法で、本来なら直径は拳ほどしかなく、大した威力はないのだけれど、虹魔色の私が使えば、これだけの圧倒的な火力が出るのだ。


「あ……あが……が…………」


 全身が黒焦げのアフロヘア―になったエグモントは、その場に崩れ落ちた。

 安心なさい、ギリギリ死なない程度に手加減してあげたから。


「エ、エグモント様ァ!!」

「エグモント様ッ!!」

「エグモント様ァ!!」

「うわあああああ、俺の学食一ヶ月分があああああああ!!!」


 カルラと取り巻きたちが、顔を絶望で染めながらエグモントに駆け寄る。

 どうやらエグモントの勝利に学食一ヶ月分を賭けていた生徒もいたらしく、頭を抱えている。

 ドンマイ。


「うっ……!?」


 その時だった。

 立っていられないほどのめまいが襲ってきて、後ろに倒れそうになった。

 クッ、久しぶりに魔力を解放したから……!?


「おっと、危ない危ない」

「っ!? ベルンハルト様!?」


 が、そんな私を、後ろからベルンハルト様が支えてくださった。

 大分離れたところにいたはずなのに、いつの間に背後に!?

 ……もしかしてこれ、ベルンハルト様の魔法なのかしら?


「ハッハー、見事だったよアデーレ。瞬間的な魔力放出量だけでいったら、僕以上かもしれないね。――実に興味深いよ」

「――!?」


 ベルンハルト様が研究対象を前にしたマッドサイエンティストみたいな目で、私を見つめている。

 ……どうやら私の学園生活は、今後も前途多難らしい。



拙作、『12歳の侯爵令息からプロポーズされたので、諦めさせるために到底達成できない条件を3つも出したら、6年後全部達成してきた!?』がcomic スピラ様より2025年10月16日に発売された『一途に溺愛されて、幸せを掴み取ってみせますわ!異世界アンソロジーコミック 11巻』に収録されています。

よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)

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― 新着の感想 ―
本当に格好良かったです。 そして何よりも清々しかったです。 楽しい物語ありがとうございました。
制御ブレスレットを外すのは、本気の力を見せる覚悟の姿!……わかります! 虹色の極太光線で敵をブッ飛ばすのは、魔女っ子&プ○キュアの奥義!……わかります! 今回もパワーワードがダイヤモンドのように砕け…
拝読させていただきました。 明らかに格下と思われる者が無謀な勝負を挑んできた段階で違和感はなかったんですかね。 自信過剰って怖い。
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