第4話 王子の想い人は推しじゃない?
次の日また目覚めると、同じくベッドの上から侍女を呼び、昨日の出来事を聞くと、侍女はまたかといった様子で淡々と答えてくれた。
(よし!今日もちゃんと日は続いてる、巻き戻ってない!)
私は1人でサッサと身支度を整え食事を終えると、呆気に取られる侍女にまた外に出てくるねと伝え屋敷を出る。
「ん〜…いい気持ち!」
外は青空で白い鳥も羽ばたいていて、本当にまるでアニメのような世界だった。
「さ!私は早くローズに会いに行って、昨日のこと聞かなきゃ!」
私は、つばの大きい白いハットを被りギュッと掴みと、また馬車に乗り込みローズの元へと急ぐ。
◇◇◇
「ローズ〜っ!」
ジャンハ公爵家に着き用件を言うと、すぐにローズのいる庭園へと案内された。
さすが、疑われもせずスムーズに通されるのは、親友ならでは!
色とりどりの花が咲き誇る庭園の中心で、ローズは花をボーッと見つめていたが、私の声に驚いてハッとこちらを振り向く。
「椿…いらっしゃい。今日も朝早くから私の所に来てくれるなんて、ふふっ、嬉しいけれど、ちゃんとご飯は食べたの?」
口に手を当てて微笑むローズは、私のいる方と足早に向かってくる。
「食べてるよ。でもローズに早く会いたくて、急いで食べてきちゃった」
「えぇっ、もう〜喉に詰まらせちゃうよ、気をつけて、ね?」
(感激〜…!!)
私は顔を背けると、手でガッツポーズをする。推しに心配されることの幸せで、胸が熱くなる。心の中では、嬉し泣きで号泣案件だ。
気持ちが嬉しさでギュッとなるのを、なんとか抑えながら、可愛い推しローズの顔を見る。
「あの…そういえば、昨日はどうだった?アリオン王子との…」
「あっ……えっと、それは…」
ローズはすぐに顔を真っ赤にし、視線を下に向け、恥ずかしそうに胸の前で両手をギュッと握る。心なしか少し、もじもじしているようにも見える。
(あらっ、これは…もしかして一歩進展した!?)
期待を込めながら、ローズを見つめると、ローズは節目がちだった瞳をパチリと開け、はにかみながら私をじっと見つめる。
「すごく良かった…の…王子の…」
「うん、王子の……!?」
「王子の……」
(うん、その先は——!!)
「狩の腕前…」
「……え?」
「アリオン王子、乗馬もさることながら、狩がとてもお上手で、あのお姿が今でも忘れられないわ。ずっと見ていたい気持ちになってしまって…あっ…でも、もし王子とお付き合いできたら、今後ずっと見られるのよね、あの姿…」
「う…うん、、そうだねぇ…あ、あとは何か思い出に残ったこととか、いつもと変わったこととかー…あった?」
「変わったこと?いいえ、特になかったわよ。狩りに同行して、その後、馬車で帰ってきただけだもの」
「帰り…!アリオン王子は、送ってくれたんでしょ?馬車で帰ってきたときは、どうだった?車内で2人きりだったんでしょ?…王子とは、かなり親密に慣れたんじゃない?」
「うん、そうなの。アリオン王子と庭園の話をしたり、それから王子の狩の話を聞いたり、とても楽しかったわ!」
「そ…そうなのね…!あとは、他には…?」
「他って?お話ししていただけよ」
「そっか…!で、次はいつ会うかとか約束はした?」
「次の約束はしてないわ。アリオン王子もお忙しそうで、またこちらから連絡しますって言ってくださったわ。本当、紳士的な方…」
色々思い出して感動が込み上げてきたのか、両手を胸の前で組み、潤んだ瞳で空を見上げるローズ。私は推しの幸せそうな姿に嬉しい反面、また何も進展していなさそうな様子にガックリと肩を落とす。
(せっかく、2人が親密になれる機会をつくったのに、付き合うことにすら進展しないなんて…)
がっかりした私だったが、ふと思い直す。
(そうだ、あれだわ、きっと3回目の法則。現実の世界でも共通の、きっとあれね!)
そう、告白は3回目で、的な暗黙の法則。
もしかしたら、アリオン王子も同じように3回目を待っているのかもしれない…!
だとしたら!
(私が、3回目を強制的にマッチングしなければならない——!)
まだ思い出にふけるローズの隣で、私は1人メラメラと闘志を燃やす。
「ローズ、ごめんね!私、ちょっとやらなきゃいけないことができちゃって、もう帰るね!」
「えっ!?もう帰るの!?…今来たばかりじゃない…寂しい…」
悲しそうな顔で視線を落とすローズ。長くてフサフサしたまつ毛が、大きな瞳に影を落とす。
「ローズ…」
推しの悲しい顔なんて見たくない!させたくない!…でも…、このまま小説のとおり話が進むと、ローズは死んでしまう。
推しが死ぬのはもっと嫌…!
そのためには、今は耐えないと…!!
「ごめんね!また明日来るから!」
後ろ髪を引かれる思いでローズを振り切り、私はそのままアリオン王子の元へと向かう。
◇◇◇
「アポなしで2日連続で来るのは、流石のアリオン王子もお怒りになるかしら…?」
私はゆっくりと馬車を降りると、アリオン王子の住む城を見上げる。
城の方へと近付くと、昨日と同様に門番が2人立っており、その門番に目だけでギロッと睨まれる。
(ですよね〜、またお前かって感じですよね〜)
私はつくり笑顔を崩さず、丁寧に門番に尋ねる。
「あの…アリオン殿下は…」
「お約束は!ありますか」
「それは……」
「私が呼んだ」
声のした方を振り向くと、城の2階からアリオン王子がこちらを見下ろしていた。
「椿嬢を私の元へ通せ」
「はっ!!」
呆気なく私は城内へと入ることができたが、頭の中は混乱しまくっている。
(約束はしてないのに…アリオン王子は、私を助けてくれたの…?でも、なんで…?)
頭の中で自問自答している間に、2階へと通されあっという間にアリオン王子のいる部屋へと入れられた。
ギギ…バタン
部屋の扉が閉められると、部屋の中には私とアリオン王子の2人だけ。
アリオン王子は椅子に座り頬杖をついたまま、私をじっと見つめていて何も話さない。
(どうしよう…たぶんこれは絶対お怒りモー…)
「なぜ、私からの手紙を無視するのですか」
「…はい…?」
「既に3通送っていますが。1度も返さずにいながら、約束の取り付け無しに2日連続でここへやって来る。しかもそのうちの1日は、ローズ嬢を連れてくるだけでなく、側まで来たからと嘘をでっち上げ、彼女を私に押し付けた。いったい、どういうつもりですか」
(えっ…嘘だったのがバレてる?!なんで…?ううん、それより…!)
「押し付けただなんて…!私の推し…じゃない、私の親友のローズに失礼ですわ。殿下もローズのことを想ってくださっていると思っておりましたが、そのような言い方をされるとは、失望いたしました」
アリオン王子の顔を真っ直ぐに見つめ、ハッキリとそう言ったが、椅子に座るアリオン王子のすぐ後ろの大きな窓から入る日の光のせいで、アリオン王子の顔がハッキリと見えない。
推しのことを悪く言われて失望したのは本当だし、それと同時に怒りが湧いてきたからなのか、はたまた嘘がバレていたことによる恐怖からなのか、手と脚の震えが止まらない。
「そうか」
アリオン王子はガタッと椅子から立ち上がると、扉前に立つ私のそばへと近付き、目の前だ止まった。
逆光を浴びて立つ姿は、まるで山のように大きく威圧感がある。
ローズに王子との仲を斡旋して遠巻きに見ていたときには不思議とあまり感じなかったが、1対1で向き合うと分かる。やはりアリオン王子は…
イケメンだ。
背が高く骨格もいいからか、無言で立たれるだけでも威圧感があるが、それよりも何よりもその端正な顔と手足が長くバランスの良い身体と、全体的に心が奪われる。
(作中の椿も、アリオン王子と結婚した後は幸せそうだったしな…)
私は思わずうっとりと眺めてしまっていると、急にアリオン王子が私の両手を握り、驚いた私は思わず体全体をビクッとさせてしまう。
「手が小刻みに震えている。私が怖いか?」
「いえ…」
アリオン王子はその綺麗な形の目で、私をじっと見つめながら私の腰に手を伸ばし優しく引き寄せる。
「手紙の返事が来ないことで、毎日どんなに打ちひしがれて君のことを考えていたか。昨日も私の所へ来てくれたのかと…、だがローズ嬢を置いて帰ってしまうし、私の気持ちを弄ばれているようで辛かった…」
(…もてあそぶ!?私が!?…はい!?)
「だが、もうそんなことはいい。今日は1人で会いに来てくれて嬉しい」
「…きゃっ」
アリオン王子が大きな背中を丸めて優しく抱きしめてきたことで、私はもう訳がわからず大混乱だ。
(小説ではこんな展開なかったよね…!?えっ、これって、アリオン王子が私のことを好き…ってことだよね?!なんで!?)




