表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷鳴の残響 -Requiem of Arcline-  作者: 海鳴雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/54

第18話 帰還の閃光

夜明けは、まだ訪れていなかった。

 黒煙が空を覆い、瓦礫の街が静かに息を潜めている。

 崩壊した〈北区魔導塔〉――その残骸の中で、菅峰美玲はひとり立ち尽くしていた。


 服は焦げ、手は傷だらけ。それでも、彼女の目は決して揺らがなかった。

 「……昴、悠介……どこにいるの……」


 周囲には瓦礫の山、そして焦げついた地面。

 結界の痕跡は完全に消え、魔力の残滓だけが漂っている。

 美玲は膝をつき、地面に手を当てた。

 ――水の流れを感じ取る魔力探知。


 「……反応がない……まさか、二人とも……」

 その瞬間、胸の奥がひび割れたように痛んだ。


 あの雷鳴を、もう一度聞きたい。

 あの人の声を、もう一度――。


 「まだ……終わらせない」

 美玲は涙を拭い、水の魔法陣を展開した。

 蒼い光が瓦礫の上を這い、空へと昇っていく。

 それはまるで、空を呼ぶ祈りのようだった。


 * * *


 ――蒼の虚空。

 崩れゆく世界の中で、昴と悠介の体は光の中に包まれていた。


 「行くぞ、悠介!」

 「おう……もう、迷わねえ」


 手を強く握り合う。

 雷と炎――二つの魔力が絡み合い、ひとつの光となる。

 エーテルの亀裂が開き、現実世界の気配が流れ込む。


 「帰ろう、俺たちの場所へ!」


 昴の叫びと共に、雷鳴が轟いた。


 * * *


 その瞬間、現実世界の空が裂けた。

 夜空を引き裂くような蒼白い閃光が走り、街全体を照らす。

 美玲は顔を上げ、息を呑んだ。


 「……あれは……!」


 雷光の中心――瓦礫の中央に、二つの人影が現れる。

 ひとりは、雷を纏う男。

 もうひとりは、炎を失った影。


 「――昴っ!!」

 美玲は駆け出した。


 光が収まり、昴が膝をつく。

 息は荒く、全身に焦げ跡が残っている。

 その隣で、悠介がゆっくりと立ち上がった。

 かつての紅の瞳は、今や穏やかな橙に変わっていた。


 「……帰ってきたな」

 昴が微笑む。

 悠介は空を見上げ、小さく笑った。

 「どうやら……地獄行きは、もう少し先みたいだ」


 美玲が駆け寄り、昴の胸に飛び込む。

 「もう、二度と……勝手に消えたりしないで……!」

 「……悪い。約束するよ」

 昴の腕が、美玲を包み込む。

 その温もりに、美玲の涙が滲んだ。


 悠介は少し離れた場所で、静かに二人を見つめていた。

 彼の胸中にも、言葉にならない何かが残っていた。


 だが――その穏やかな一瞬は、すぐに終わる。


 瓦礫の向こうから、爆音が響いた。

 燃え上がる炎。紅蓮の旗。


 「……紅蓮団!?」

 颯真が走り寄ってくる。顔は煤にまみれ、肩を負傷していた。

 「悠介が消えたあと、残党が勝手に動き出した! いまや暴走状態だ!」


 「悠介、あんたの部下たち……!」

 美玲の声に、悠介は顔をしかめた。

 「俺の命令を無視して動くやつらがいる……“黒衣の導師”か」


 「黒衣の導師?」昴が問う。

 「あいつは紅蓮団の副首領だ。俺が理想を見失ったとき、組織を支えてきた。

 だが……あいつは本気で、人間を滅ぼそうとしている」


 風が吹き、焦げた旗が揺れる。

 夜明け前の赤光の中で、瓦礫の街が再び戦場に変わろうとしていた。


 「悠介。行こう」

 昴の声は静かだった。

 「お前が作った炎なら、お前自身で終わらせるんだ」


 悠介は一瞬だけ沈黙し、そしてうなずいた。

 「……わかった。俺の過ちの後始末は、俺がやる」


 その横顔を見て、美玲は小さく息を吐いた。

 「……二人とも、本当に似てるね」

 「え?」昴が目を瞬かせる。

 美玲は微笑んだ。

 「信じるもののために、無茶ばかりするところが」


 昴と悠介が、互いに視線を交わす。

 雷と炎――二つの力が、再び並び立つ。


 「敵は紅蓮団。目的は人類の殲滅計画阻止」

 「つまり……共闘だな」

 昴が頷く。

 「もう一度、一緒に戦おう。今度こそ、本当の意味で」


 悠介が、笑った。

 「いいだろう。……俺は、二度と間違えねぇ」


 夜が明け始める。

 瓦礫の上に立つ三人を、光が照らす。

 雷が低く唸り、炎が小さく瞬く。

 その光は、もう破壊の色ではなく――希望の色だった。


 「行こう。次の戦場へ」

 昴の声が、朝焼けに溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ