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第8話 置いていけの言葉に泣く


 ガチャガチャ⋯⋯──


「駄目だ、また閉じ込められたよ」


 何度目の罠か。船室らしき小部屋の扉を開き、中に入ると扉が開かなくなる。部屋中が真暗になったかと思うと、ガスが噴き出したり魔物が現れたりと、仕掛けが豊富だ。


 幸い鍛冶師のメニーニが、鉱山で使う為の防塵防毒マスクを持たせてくれたおかげで害はなかった。


 侵入者を閉じ込めてしまえば「ゴーストシップ」側が勝ち⋯⋯そのような場所なので、先を急ぐのならば無視する方が良いのだろう。


「レガト⋯⋯罠だってわかっていても入るのやめようよ」


「ベトベトのスライムみたいな部屋は絶対入らないよ!」


「私を生贄に、お宝持って帰ろうとしたわね?!」


 ろくに室内の様子を調べもせずに突入するレガトに、三人のパーティー仲間から苦情が入る。カルナなどはベネーレを庇い、腐った泥水が粘着性を持ったような魔物、マッドヘドラーにより、べっとりした腐手で腕を握られ泣きそうになっていた。


「ここへ来た目的をわすれていないかい。僕らはお宝集めに来たんだ。罠とわかっていても宝があるのならば、回収しないと」


 レガトにもクランの金欠を解消しなければならない使命がある。常に最新装備で冒険の安全性を高めているので、仲間達もそれは重々承知している。


小部屋に入るだけで、ちょっとした金額になりそうな道具や高級な装飾品など見つかる。売れば高そうな品物が、簡単に手に入るのだ。逃すわけにはいかなかった。


「それに⋯⋯呪いとかかかっているかもしれないから、身につけるのは禁止しただろう」


 品物を取ると罠が発動する仕掛けもあった。試しに身につけてみると、魔物が襲って来るものもあり、カルナが受けた泥水はベネーレのとばっちりを受けた形だ。


 そのベネーレも、すっかり怯えてレガトが出した泥よけのマントを握ってはなさなくなった。このメンバーには、高く売れそうな品や魔法の道具を鑑定出来るものがいない。価値を知るには実際試すのが早いのだが、あまりにもトラップが多いのでやめようと決まったのだ。


「探検から戻った際には、お兄様に資金援助を要請するわ」


 ベネーレが冒険者の現実を知り、帝国からの援助を引き出す事を約束した。怖さよりも、冒険者たちの資金のなさに驚いたようだ。


「それなら無理はやめよう。魔力を見て、魔法の道具関連はわかるから、お金、貴金属、魔法の道具以外はパスしよう」


「それにしても酷い汚れと臭いだね。ダンジョンごと浄化した方が早いくらいだね」


 下卑た海賊の、汚れた魂が吸収されているせいなのか、罠に品がないようにレガトは感じているようだった。


「見て、レガト。下に行ける階段あるよ」


 仲間の後から小部屋に入ろうとしたカルナが、その横の空間にある階下へ続く入口を見つけた。


「一応ダンジョンだからいくつかの層になっているって事かな。だとすると、魔物の種類や強さが変わるかもしれないね」


 探索を進めていく内に、最後の小部屋の先に下の階へ降りる階段が見つかる。それに回収したアイテムで袋がいっぱいになった。魔法の収納をつかえばまだまだ探索は続けられるのだが、体力や気力は回復しない。


「ねぇ、ランタンの明かりの色が急に赤っぽくなったんだけど?」


 それを知らせる警報のように、ベネーレの持つランタンの光の色が変化した。


「それは時間もわからないからね。袋がいっぱいになるか、一定時間で引き返すつもりだったのさ」


 探索班を分けた時に、各パーティーのリーダーには同じ指示をしている。階下は環境や魔物の種類が違うのか、獣が低く唸るような声が響いて来た。


「名残り惜しいが、いったん引き返そう。少し休んで、まだ探索する元気があるようなら次回の探索班に加わってもらうよ」


 レガト達が来た道を戻りかけたその時、奥の壁から複数の足音が響いて来た。


「壁の中⋯⋯?」


 レガトはベネーレ達を自分の背後に下がらせて、警戒をする。


 バリバリバリバリ────


 男の怒声と、力づくに壁を破る音が響く。知っている声。ただレガトは、警戒を解かない。違う班のメンバーと船内のダンジョンで遭遇する可能性があるのはわかっていた。しかし正常な状態かどうかまでわからない。少し様子を見る必要があった。



「────レガト、貴方たちもいたの?」

 

 壁を破って現れた大男を押しのけ、剣士スーリヤが声をかけて来た。壁を破った大男は大剣使いのリグ。シャリアーナの従者、いわゆる脳筋男だ。


「通路が行き止まりになった瞬間に、閉じ込められたのよ。そしたらリグが壁を破るって言って力づくで⋯⋯」


「壁を破らないと、催涙ガスで目をやられていたんだよ」


 スーリヤやリグが、目に涙を溜めていたのはガスのせいで、再会の感動ではなかったようだ。戻る壁が頑丈で破るのが難しく、逃げ場がないとわかったリグの咄嗟の判断だったらしい。


 簡単に話を聞くと、レガト達と違い、彼らのたどって来た通路は罠だらけ。それも突破に時間のかかるものはかりだったようだ。


「お姫様もいるし、僕らはいったん戻る事にしたよ。そっちはどうする?」


「俺達もレガトたちの道から一緒に戻るとするよ」


 慣れない立ち回りやメンバー編成による、精神的な疲弊が大きかったのだろう。リグは先へ行きたがるスーリヤを抑えて、現状を踏まえた意見を伝えた。脳筋とバカにされがちだが、仲間の様子をよくみている証だろう。


 一緒になった帰り道、レガトはリグの戦いっぶりや指示に対するスーリヤの愚痴をずっと聞かされる事になった。


「⋯⋯ひっ?!」


 帰路といっても魔物は消えたわけではない。突然現れたグールメイズに、マーシャが声をあげた。先ほどのグールメイズが潰れたような、かなりグロテスクな見た目になっていた。頭だけの腐乱した魔物の集団がいた。


 異臭と呪詛で近くの生者に張り付き引き込む、生理的な怖気をもたらす。簡単に倒せていたように見えて、かなりしつこい。


「カルナ、君は浄化の矢を。マーシャ、ベネーレと背中合わせに身を守って。スーリはリグと他の二人と背後を!」


 人数が増えたためか、戦闘をするには通路が狭く感じる。逆に人数に余裕があるので、飛び道具も使える。一度通った道でもレイス系などは、どこからでも現れるため油断は出来ない。魔物の出現には慣れたものだが、レガト達は慎重に歩む事を忘れなかった。


 留守番をしているレーナ達の所へ戻ると、他のパーティーもすでに戻っていた。レガト達が戻ると安堵の表情を浮かべる。


 魔法の盾使いである守備力の高い双子のハープやホープは、慣れないリーダー役に疲弊が大きくてヘタっていた。リグも二人の傍に座り込み、休息がてらリーダーの体験者同士の交流を行う。


「休憩を挟んで、探索へ出発する。メンバーは先に述べていたように余力あるものから選ぶ。もちろん僕は行くぞ」


「私もいくわ。あとのメンバーは、体力の配分を考えてレガトが決めて」


 アリルはレガトに探索へ加わる事を提案した。レガトは母レーナの横に、彼女が呼び出した優秀な? メイドのヒルテがいるのをみて納得した。この二人がいるのならば、留守は大丈夫だろうと思い、レガトはアリルの参加を承諾した。


「次の探索メンバーは僕、アリルさん、リモニカ、スーリヤ、メニーニ、シャリアーナ、ソーマ、カルジア、ライナで行くよ。留守番のメンバーは母さんの指示を聞き、安全を確保して休んでおいてくれ」

 

 探索ルートは一番先に進めていたシャリアーナのパーティーの道を行くことになった。聡明なリモニカやシャリアーナの二人は、リーダー役をパーティーの他のメンバーに代行させ消耗を避けていた。また階下の入り口を発見すると、強行せずに偵察だけ済ませて無理せず戻っていたのだ。


 三度目の探索に行けるかどうかは不明だ。ダンジョンでは何が起こるかわからないから、休めるときに休ませておきたいのがレガトの本音だった。


 レガトは選定したメンバーと共に「ゴースト・シップ」の探索を再開する。


「下の階は魔物の反応が少なく感じたよ」


「リモニカの言う通りよ。それと造りは上と似ているけれど、下の階層の方が明るいわ」


 リモニカとシャリアーナの偵察した情報を元に、剣士スーリヤと鍛冶師メニーニがパーティーの先頭となって、階下へと降りてゆく。


「薄暗いけれど、確かによく見えるね」


 スーリヤが先に階段を降りて、皆のために周囲の警戒を始めた。夜闇の中でも敵を捉える彼女の瞳は、油断なくあたりを窺う。


「時間と邪霊をわかるようにするわ」


 メニーニは各パーティーに渡した物より小型のランタンを取り出し、明かりを調整して、腰の紐にくくりつけた。


 生命の灯知と呼ぶ探知機らしく、時間を測るのにも使える。鉱山に潜る事の多い鍛冶師らしい魔法のアイテムだった。


「ここら情景的に、昼間の船内のようなダンジョンって所か」


 シャリアーナを挟むようにレガトとリモニカが階段を降りた。彼女達二人の見た通りのダンジョンの様子に、レガトは違和感を探るように見渡した。


 レガト達の後ろには竜喚師カルジアを守るソーマとライナが続く。最後に階下へ降りたのは剣聖アリルだ。


 下の階層には船内ダンジョンサハギンマージやエアロシャークなど、海の魔物や空の魔物も出て来た。


「壁から生えて来るのは厄介ね」


「でも魔物の数が極端に少ない気がしない?」


「待って、大きい反応を感じる」


 アーリーゲーターという鰐の魔物をさらに大きく強い感じにしたヘルゲーターが現れた。通路いっぱいの巨体。その凶暴な魔物が、水魔法で流されるように突撃してきたのだ。


 大きな口を開き、侵入者たる冒険者達を丸ごと齧ろうと足元を揺るがす。


「水が重い」


 水流の強さに加えて、大地の魔法による重力負荷で、獲物を沈めて喰らうつもりなのだ。


 ゴッシャーン!! 


 鈍い重量のある音が水流より大きな音を響かせる。


「エアロシャークより泳ぎうまいとかさ、生意気だよ!!」


 再び暑い皮を叩きつける音が鳴る。迫る大口を、先頭にいたメニーニが水流をものともせずにハンマーを振るい、馬鹿力で顎を撃ち抜き弾き返したのだ。


 ヘルゲーターの複合魔法により、砂のように水分に重さがある。少しでも足を取られると流され動きが鈍り、大きな口にあっという間に喰われそうだった。


「リモニカ、弓で牽制を! ソーマ達はアリルさんの位置までさがれ」


 メニーニにはじかれたヘルゲーターは怒り狂って水流を増やし再び突進する。レガトの指示を聞く前に、ソーマやカルジア達が流されたが、アリルがすぐに救出していた。


 魔法で水流に抵抗しながら、スーリヤがヘルゲーターの裏へ回る。魔物を容易く切り裂くはずの斬撃は、ほんの少し表皮を裂いただけで弾かれた。


 冒険者達を手強いと感じたヘルゲーターは、通路を水で埋め尽くし大地の魔法を重ねた。水圧死を狙ったようだが、おかげで魔物自身の巨体は魔法の影響を受けずに浮く。


 スーリヤが苦手な水魔法で推力を生み、巨体の下へ潜り込むと剣を突き立てた。それを待っていたシャリアーナが傷口に魔法を打ち込み、ヘルゲーターを倒した。


「まったく、びしょ濡れだよ」


「頭だけで、私達三人軽々だね」


 ライナが魔力解除を行い、仲間達を水圧から解放する。


「二階層目でこれか。先が思いやられるな」


「鰐系の皮は高く売れるけど、どうする?」


「荷物が嵩むから、高く売れる部分の皮と魔晶石だけ取ろう」


 話しながらも、手早く解体しているリモニカとメニーニ。


 鰐系の素材は高く売れるので喜ばしいが、もっと広い所で他の魔物と協力して現れたのなら面倒だろうと皆が思った。

 

 鰐系の魔物は強い。だがお宝満載な魔物でもある。何度も来れるなら余さず回収したい所だった。しかし今回は時間に限りがあるので、贅沢刈りとなった。魔物は魔晶石だけ抜いて、欲しい素材や高い部材だけ取り出し、なるべく時間をかけずに進む。


「まったく、この階層が湿っぽいのはこの魔物が出るせいね」


「レガト、全部は無理だよ。諦めて」 


 ホールらしき空間に出た。広い所は避けたかったレガトの嫌な予感が当たり、ヘルゲーター五体が待ち伏せしていた。


 シャリアーナが水の魔法で皆の服を吸水して乾かす間に、回収作業を行っていた。厚みのある鰐皮を余分に剥ぎ取ろうとするレガトを見つけ、リモニカが窘めていた。


 広い部屋が続く。レイニーキャンサーはヘルゲーターより大きく、水と泡の魔法で「星竜の翼」の精鋭を苦しめる。魔力の高い個体は水量も多い。レガト達は危うく溺れて窒息しかけた。


 グールメイズまでもが巨大化し、やたらと数が多く疲弊させられた。アリルの浄化の力がなければ簡単に突破出来ず、撤退を余儀なくされていただろう。


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