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第5話 ならず者達の流儀


 レガトたちは『海賊島』と呼ばれる、ならずもの達のアジトのある島に上陸した。海戦で大敗した海賊達の生き残りは逃げ出したが、彼らはまだ拿捕を諦めていないだろう。


 海戦に敗れ海賊達が逃げ出した海賊船は、レーナが嬉々として回収していた。汚れや損傷の激しいものもあったが、少し直して囮にするようだ。


「親子だよね〜」

「どうやって改修してるんだろう」


「信じられない魔力量!」


 海賊船を鹵獲して仕舞い込んでいく銀級魔法使いを見て、慣れた感のある双子と違い、もうみんな驚かないけれど皇妹ベネーレが口を開け唖然としていた。その目は名の知れた金級冒険者達よりもやばい人を見る目であったという。


 レガトは船を動かすゴブリンスターク達に命じて、上陸場所を大小の海賊船の集まる港から別の場所へ変える。海賊船の密集する港に船を停めるのが面倒になったようだ。


「こっちの船を拿捕しようにもさ、母さんの魔法でしまえるんだけどね」


 船を用意も、収納もレカの母レーナの魔法で可能だ。無駄に海賊達に襲われずに済む。レガトは幽霊船の情報を集めに来たのを忘れたわけではなかった。


「使い捨ての下っ端より、島に残っていた連中の方が立場は上っぽいからね」


「情報を得てから、どのみち海の藻屑にするのでしょう」


 レガトの考えはお見通しだとばかりにシャリアーナが肩をすくめる。


「それに欲しい情報は幽霊船の話だけではないよね」


「さすがシャリアーナ、リモニカ、鋭いね」


「どういう事だい?」

「もっと詳しく教えてよ」


 シャリアーナの言葉を引き継ぐようなリモニカの発言に、レガトが悪い笑顔になる。双子のハープとホープは話についていけず、レガトに説明を求めた。


「海賊達の情報は海賊達が持っているだろう?」


 内海には海賊達の拠点が点在する。小さなものも含めると、確認されているだけでも三百以上はあると言われている。沿岸部の冒険者ギルドに寄せられている苦情や依頼はほんの一部に過ぎない。


 しかし海賊達は国家とは別の独自の縄張りや情報網を持っている。海賊同士争い合う事もしばしばあったが、ならず者にはならず者の秩序が成り立っていた。


「ここは三千人くらいの海賊達が集まるアジトのようだね」


 レガトは海戦後に残る敵船や遠目に見える闇市の様子を見て、大まかに海賊の人数を予想した。


 停泊する海賊船のいくつかは、内海から外洋沿岸あたりまで出れそうな大きめのものもあった。帝国や内海沿岸だけで稼ぎつづけるのは難しいのだろう。


「国もギルドも賊徒も世知辛さは変わらないもんだね」


「もう少し大きい所なら市場の屋根もきちんとした街があって、海賊専門のギルドもあるらしいわよ」


 先に船を降りて皆が降りて来るのを待つ間、レガトのぼやきにシャリアーナがシーリスで得た情報を話してくれた。


 良い海賊というわけではないけれど、海の事は海の専門家の需要が高い。船乗りは仕込めても海図を描くものや船の修理、大型の魚や海の魔物などを捌き加工するには知識も必要だからだ。


 レガト達は陸地と違い、魔法により海の上で生活するために必要な部分をすっ飛ばしてしまっている。レーナがいなければ、冒険者ギルドからそうした海の専門家へと回されただろう。航海に出るどころか無駄に駆けずり回り、徒労に終わっていた。



 双子を先頭にしてレガト達は闇市のある港へ向かう。海賊というならず者集団の溜まり場へと向かうのが不安な仲間達も、陽気な双子のバカバカしいお喋りに釣られてくれる。


 レガト達の船が島へ近づいても海賊達は追って来なかった。援軍も含めて相当な数を沈めたせいもあるだろうが、海戦の損害を計算に入れての余裕にも取れ、さすがのレガトも警戒していた。

 


 実際闇市まで来ると、小屋とも屋台にも見える酒場では大勢の酔っ払いが騒いでいた。冒険者のように、海賊達も同じ島にいくつかグループが存在している。


「争いになるのは縄張りが一緒の所なんだね」


「内海で暴れるのと外洋に出る海戦は協力関係にあるみたい」


「利があれば敵対してても手を組んで事にあたるのは傭兵と変わらないわね」


「利に転ぶにしても、旗色を鮮明にした後の裏切りはしないようだ」


 賊徒にも流儀がある。筋を通せばならず者同士助け合う事もするのだ。相手を出し抜き手柄もお宝も独り占めしたがる輩は、冒険者や貴族にもいて、大多数の人間は嫌悪し辟易しているように、海賊たちもまた自分達の目と鼻の先で好き勝手に荒らされるのは許さないだけの事だった。


「全部相手にして追跡され続けていると、お宝探しの邪魔だし面倒だからね。」


 話せば分かる相手には目的を伝えて邪魔をさせないようにする。棲み分けが出来ていて、沿岸部に近いこのアジトに拠点を構えている連中ならば、話は通じるはず⋯⋯レガトは海戦や港の船の多様さから、そう考えていた。


 それでも海賊は海戦だ。信用出来ないのは変わらない。ただ、まともな海賊ならばレガト達にちょっかいを出すのは控えると思っていた。


「⋯⋯人って宙を舞うのね」


「⋯⋯話し合うのではなかったの?」


 シャリアーナとベネーレ、人質にされそうになった皇族の二人が、呆れた目で見つめる。その視線の先には、剣聖アリルと彼女を師と仰ぐ剣騎スーリヤの背中がある。彼女達の前には倒した海賊達が、綺麗に人の山となって積まれていた。


 手加減したのか丁寧に並べて積まれた海賊達は、まだ息がある。部下たちが束になってもたった二人の剣士に軽くあしらわれる様を見て、一番奥に陣取る頭目らしき男達の顔が青ざめていた。


 穏便に話し合いを擦るつもりでいたレガトは、海賊達の説得方法をやんわりした威圧へ変える。海でも陸でも力の差を見せつけてからの猫撫声。それはそれで冒険者らしくてレガトは満足そうな表情を浮かべていた。


「僕達の目的は君達の討伐ではなくて、幽霊船の探索なんだ。情報さえくれるのならば、ここでの出会いはなかった事にしてもいいと思っているんだよ」


 言葉だけでは何とでも言える、頭目達は震えを止めて互いに目配せをした。海賊達にもいくつかのグループがあり、一番偉そうな海賊が立ち上がってレガトの前へと来た。


「帝国は俺達を見逃すと言うことで、間違いないのか?」


「君達がこれからすっごい悪事を行い被害が出るとしても、()()は関知しないだけだよ。何なら潰したい競合相手を紹介してくれると助かるかな」


 ニヤリと不敵に笑うレガト。幼さを残す青年のわかりやすい駆け引きに、海賊達が引いた。断れば容赦なく殺す⋯⋯露骨にそう告げられたようなものだった。


 海賊は依頼がかかった特別な相手でもないと、捕縛しても報酬は安いとレガト達はギルドで調べているので知っている。名のある海賊団でも、捕らえるより殲滅した方がよいといわれる。これは輸送コストや維持費が関係していて、陸と違って詰める食料や人員に限りがあるためだろう。


「ゴブリンやオークって、わんさか湧くものね」


「私はこんな連中捉えて世話するの嫌よ」


 シャリアーナとベネーレが酷い事を言うのを無視して、レガトは海賊達から話しを聞き出す。皇族である彼女達が、むさいおっさん海賊達の世話をするのは拷問に等しいと、さすがのレガトも想像したくなかったようだ。


「この島からさらに南へ二日進むと、海竜の巣と呼ばれる大渦に出くわすようになる。その先に霧が立ちこめる海域が見え始めれば当たりだ」


「俺達は商船専門だが、兄ちゃんらが稼ぎたいのなら、その手前の島へ寄るといい」


 人攫いを中心に行う海賊達や、冒険者達や怪しい連中とつるんだりする海賊達の情報を聞き出す事に成功した。ここの海賊達は交易船を襲う。金品の他に高値の付きそうな人物を見つけると、確保し人買い専門のギルドへ売るという。


 海賊達から簡素な海図まで手に入れたレガトは、リモニカとシャリアーナ、アリルを残して仲間達を先に酒場の外へと行かせた。レーナと竜喚士カルジアがいれば、島の人間も手出しを躊躇うだろう。


「兄ちゃんらは帰らないのか」


 部下を叩きのめされ、自分達より若い冒険者達に、海賊達が舐められっ放しで終わるはずがない。レガトの悪い笑顔の瞳が冷静なのを見て、リモニカとシャリアーナはため息をついた。


「まあ舐められたまま大人しく帰せば、海賊稼業廃業だろうからね。人数減らせば乗って来ると思ったよ」


 酒場の従業員も含めた全ての人間が海賊の仲間達だった。彼らは彼らで戦力をずっと観察していたようだ。アリルの強さは圧倒的だが、リーダーのレガト、皇女シャリアーナさえ人質に取れば勝てると踏んだようだ。


「容赦なくやったわね」


「気前良く正しい情報くれるのは、あげるつもりがないに等しい⋯⋯お約束だよね」


 襲って来た海賊達と、意識のない海賊達をまとめて始末した後というのに、レガトは妙に嬉しそうだった。


「ハープ達やベネーレには刺激が強い光景ね」


 リモニカがレガトの意図を察するとシャリアーナも頷く。しょせん海賊は海賊だ。彼らの中で秩序があり、流儀や仁義があろうとも、厄介者の犯罪者には違いない。


「賊徒の改心なんて幻想よ。狂徒なんて人の話を端から聞く気なかったものだから」


 過去に、人攫いの邪教徒の拠点を潰しまくったアリルが言うと説得力がある。


「害獣駆除の判断は、被害者と安全な場所に住まう輩とで違うだろうけどね」


 幽霊船が人々の怨みから存在すると言うのならば、海戦と、この惨劇で生じた海賊達の怨みも追加されることだろう。そこへ向かうつもりのレガト達に怨みの刃が雨のように降るかもしれない。


「呪い殺されないためにも、善行積んでおかないと」


「悲しいくらい鋭い嗅覚だよね、レガト」


「リモニカはともかく私まで残されたの、まだ納得いかない」


 再びニヤリと笑うレガト。海賊達の言葉から、この島にお宝があると気がついたのだ。そのレガトに仲間達が口々に騒ぐが、彼の耳には届いていないだろう。



 海賊達の居住地には粗末な小屋がいくつかあった。その中の少し大きめの建物には、海賊達が貯め込んだお宝と、人質が捉えられていた。

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