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第4話 海戦、会戦、開戦!


 双炎の魔女レーナの魔法で浮かんだ船体は、人目を避けて上空高く上がり、そのまま内海へと向かった。そして陸地から離れ他の船が見当たらない場所に着水した。


「ずっと飛んでいった方が早いよね」


「それだとあちら(海賊達)に見つけてもらえないでしょ」


 剣聖アリルの言葉にレーナが笑って応じた。義理の姉妹でもある二人は昔から仲が良い。レーナの力があれば、わざわざ海戦の危険を冒してまで海賊達の縄張りを通らずにゆけるのを知っていた。


「船旅を経験しておくのも大事よ。それに()()が、あちらに届いている頃でしょうからね」


 シーリスの至る所に海賊達の密偵が入り込んでいた。よそ者の冒険者が内海を調べに嗅ぎ回っている姿は目立つ。リモニカ達がぼやいた通り、海賊達はノコノコと自分達のアジトへ向かって来る冒険者達を狙っていたのだ。


「それでレガトは、あんな派手に宣伝するような真似をしたのか」


 アリルもレガトのふてぶてしさについては知っていたが、彼に引き連れられる仲間達もそれを承知してついて来ただけあって、逞しいと思ったようだ。


「皇妹を受け入れたあたりから、リモニカが不穏な空気を察していたから⋯⋯渡りに船ってやつね」


「えーっそれは違うでしょう? だいたい船はレーナが自前で用意しているよね」


「だって、王国の船貸してくれないんだもの」


 アリルの突っ込んだ言葉に、レーナがテヘッと照れたように笑った。息子のために先回りして船を用意しておきながら、偶然を装うなんて無理がある。レガトのふてぶてしさは母譲りだろう。


「二人共何やってるんだよ。そろそろ敵さんの船影が見えて来る頃だから、配置についてよ」


 「星竜の翼」 の仲間ではあるが、レガトの母レーナと、彼の叔母でもあるアリルは別格扱いだ。二人は若い仲間達の補佐役を頼まれている。


 幽霊船が出た時に、一番頼りになるのは剣聖アリルの浄化の剣になる。そのため補佐の相手はアリルの判断に任せていたのだ。


 着水後の航海は順調に進む。操船はレガトの呼び出したゴブリンスターク達が行っていたが、言葉が通じるとわかると、皆積極的に動かし方を学んでいた。


 航海は順調に進む。シーリスの巨大戦艦の船影もとっくに見えなくなった内海の奥。大きな湖と違って吹き抜ける風は潮っぽく、肌にまとわりついてベタつく。海に慣れない内陸人には優しい海だが、それでも海は海。陸地から離れると途端に方角が分からなくなる。


 新米船乗りが船を降りてしまうのは、あらくればかりで心が荒むせいだけではない。大海原にポツンと残された自分自身の心細さに不安を覚えるためだ。


 リーダーに似てしぶとく逞しい「星竜の翼」のメンバーも例外ではない。彷徨う幽霊船がどうして彷徨うのか⋯⋯それは陸にたどり着けず、海原を船で走り続けた結果だ。自分達のいま置かれている状態を比べて、現実として体験してしまうと、毒に侵されたように思考が不安に満たされてゆくのだ。


 ◇


「レガト、後方に艦影!!」


「こっちにも!!」


 陽の沈みかける頃に、見張りをしていた仲間達から次々と声が上がる。底しれぬ不安に殺される前に、海賊らしき船がやって来てくれたおかげで、若い冒険者達は不安感を闘志を燃やし追い払う事に成功した。



 海戦に慣れた海賊達は船の数にものを言わせて、レガト達の船を逃さないように囲む。風を利用していつの間にか船尾側だけでなく、船首側へも船を回していたようだ。


「速度を落としているとはいえさ、この海原で、よく発見したよね」


 「星竜の翼」は、空から内海へやって来たのだ。シーリスの港を張っていた海賊達の見張りは、肩透かしを喰らったはずだった。後手を踏ませてなおこの数を集められる。レガトは海賊達の統率力や集結力に、思わず感心してしまったくらいだ。



「母さんの造ったこの戦艦は、船首側にも大砲が備え付けられている。海賊達(あいつら)それを知ってか知らずか、狙われないように上手く避けているようだ」


 レガトはこちらの頭を押さえつつ、船首の主砲を避けて船を動かす海賊達に手強さを感じていた。海での戦いに慣れた海賊なのだとよくわかる。


「最悪逃しても、その先がアジトになるからだね」


 遠くに大きな島があるのを確認し、見張り台から降りてきたハープが、レガトの言葉に続けた。


「ハープ、見張りありがとう。概ね予想通りだよ。動きを見る限り、あちらは追い込みたいのかもしれない。狼の群れなどが狩りで獲物を狩るのと同じだよ」


 集団を活かした戦いというもので、周りの海賊船は戦いよりも威嚇して追い込む役割なのだろう。


「ゴブリン達を相手に何度もやった覚えはあるわね⋯⋯自分達がやられる側も。海の上でも変わらないのね」


 シャリアーナがため息混じりにぼやく。ゴブリンも海賊も同じだ⋯⋯と。もっともその言葉は口にせずに飲み込んでいた。レガトの召喚したゴブリンスタークは強靭で勇敢で知性も高く、仲間達のために働いてくれているからだ。


「だからってさ、ワラワラとうっとおしく集まるのは嫌なものだね」


「衛生的にもごめんだわ」


 双子の片割れのホープが、シャリアーナの気持ちを代弁する。獲物に集る蟻のように、海賊達をギュウギュウ詰めに乗り込ませた小型船も向かって来ている。事前の情報からか目が良いのか、下品な笑顔の思考が知れてシャリアーナが殺気を高めていた。


 ただ⋯⋯それをわかっていても、船を包囲網から逃がし、意のままに動かすのが難しい。これがただの商船ならば、簡単に追い込まれ終わるのは納得の展開だ。


「人もゴブリンも問題なのは性根ってわけだね。このままギリギリまで引きつける。リモニカ、イルミア、下卑た輩の乗船だけは防ぎたい。港から来る足の遅い船を中心に火矢と炎の魔法を頼むよ」


 レガトは弓を構えるリモニカと、シャリアーナの従者イルミアに、落とすべき船の指示をし、正面突破を試みる。


 船を止めるためにわざとぶつかって来る捨て駒の船や、乗り込んで制圧を図る小型船に乗る海賊達を次々と撃退し、沈める。


 水練に長けた海賊達が這い上がって来ないように、海へ落ちた海賊への追撃の手も緩めない。海の不死者(グール)のように、海賊達はしぶとい。


「沈むのが前提の作戦なんてタチが悪いな」


 資材の入手の困難さや補給の問題もあるのか、ボロ船を最後まで有効活用する戦略に、レガトは学ぶべきものを見たようで瞳を輝かせていた。


 ◇


「────思ってた以上に手強い海賊達だったね」


「半数以上は潜って逃げ出していたみたい」


「あれだけの海賊達が流血したから⋯⋯魔物も集まって来そうだけど、魔除けの手段も知りたい所ね」


 危ない場面を切り抜け、レガト達は相手の得意とする海戦で勝利出来た。苦戦の理由は数の違いもあった。しかしもっとも大きな理由は、山賊や盗賊達の相手をするのと同じで、人の善意や常識を利用して戦う輩に「星竜の翼」は弱かったせいだ。


 味方や仲間達すら囮にして戦う戦術は、仲間意識の高い彼らと相反する考え方だからだ。海賊達は狂信者達とはまた違った種類の人達なのだと改めて感じさせる戦いだった。


 実際、古参のメンバー以外の顔色が悪い。囮に使われた海賊達の中には、虜とされ否応なく戦わされた者がいる事に気づいたためだ。


 勝つには勝ったが後味の悪い海戦。倫理の違いに慣れろというのも酷な話だった。


「後悔するのはいいけれど、彼らが幽霊船の船員として出て来ても、帰りたいって泣かないでね?」


 サラッと嫌な事をレーナが告げた。幽霊船が恨みを持って海で亡くなった人々により生まれたとするのならば、間違いなくこの戦いの戦死者は取り込まれる。


「まあ海賊だろうと幽霊船の亡霊戦士だろうと、襲って来るだろう事に違いはないから気にしなくていいさ」


 身も蓋もないレガトの言い方に、仲間達は、それもそうかと開き直る。冒険者は切り替えも早い。この海では生者も死者も生命の扱いが軽いのだという認識さえ理解すれば、いまさら荷物をまとめて引き返すなどありえなかった。



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― 新着の感想 ―
 サブタイ、いいですね! こういった言葉遊び、モモル様はお得意なイメージがあります。  陸地以上にあとがない海上。海賊たちの攻撃法もなんとも言い難く……。若い冒険者にとっては手放しで喜ぶことのできな…
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