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第3話 海に浮かぶ巨大船と、陸に浮かぶ魔法船


「おぉ⋯⋯なんか船というよりも、お城が浮かんでいるみたいだよ」


 会議で方針が決まったレガト達はシーリス王国の沿岸、港町側までやって来た。小高い丘から見える港町の風景そのものは、どこの海辺の町で見れそうな景色で、別に珍しいものではなかった。


 レガトの親友──双子のパープとホープが感動の声を大きく上げたのは、シーリス王国名物の巨大戦艦をその目で見たからだろう。他のメンバーも少し嬉しそうにしている。初めて海を見るものもいたのもあった。


 シーリス王国名物の巨大戦艦は、内海でもとくに大型の船六艘を、六角形の陣を組んで並べていた。船と船の間は浮力の安定のために空樽を敷き詰め固定してある。船同士は樽を囲うような形で、筏と頑丈なロープを使って繋ぎ合わせていた。その上に水に強い板に水棲の生物の皮を張ったものを敷いてあるのだ。


 大戦艦は襲撃にあっても壊されないように大型甲殻類の殻で要部を隠し、火災防止の消火剤が至る所に設置されているのがわかった。


 「星竜の翼」 が向かったのは、そのシーリス王家の所有する大戦艦上中央、城が乗っかったような居住区の市場だ。


「おっきな戦艦⋯⋯じゃなくて、島だよね、この船」


「市場は⋯⋯普通だね」


 はしゃいでいたのは最初だけ。港町から出る小舟を繋げた艀の橋から乗ってみて、双子は現実を知って悄気たようだ。狭い上に揺らぎに物が転がらないように、大半がカゴなどに入れて縛りつけて展示されていた。


「実際の戦闘力はあまり期待出来なそうだね。ただ動かせる要塞みたいなものがあるだけで、沿岸部を守るための抑止力になっているんだよ」


 レガトは以前にシーリスの海兵から聞いた話を思い出し、二人に聞かせた。普段は市場として賑わう大戦艦は物流倉庫も兼ねている。内海での交易の大半が船のため、いちいち陸に運び馬車に荷を積み替えるよりも早いし楽なためだ。


「喫水線を考えると、これだけ大きな船を陸近くに繋ぎ止めておけないのが逆に良かったんだろうね」


 本当に大きな船は内海ではなく外洋でしか使えない。同じ海でもこの辺りは大陸に囲まれた穏やかな海で、海峡の先に出るまで海底もそこまで深くない。


 沿岸部はどこも浅い海のはずであり、地政学的にみると、大地の沈んだ土地⋯⋯そう考えられてもおかしくはない。もっとも内海の中心部やダンジョン化された海域、幽霊船の出る海域などはまた話が変わるのだろう。


 幽霊船自体の大きさは語るものの恐怖の感情や、人伝いに語り継がれる内に大きくなったかもしれない。


「裏が取れた以上、内海の中心を縄張りにする連中から話を聞くとしようか」


 レガト達はシーリスのギルドで海賊退治の依頼を受けておいた。海辺の国に来ると、内陸のギルドとは依頼内容がまったくと言っていいくらいに変わる。共通するのはどこにでも現れるゴブリン退治と薬草採取くらいだ。


 情報集めと金欠を解消するためにウキウキ顔のリーダーに、仲間たちがやれやれとため息をつく。いくら彼らが強い冒険者でも、陸と海では勝手が違う。


「もったいぶってニヤニヤしてないでさっさと話しなさいよ」


 シャリアーナがレガトに向かって呆れたように言う。レーナは冒険者気質を楽しむ悪癖がある。時折窘めないと暴走するのだ。


「はぁぁ、とことん施政者向きだよね、シャリアーナは。浪漫がないと冒険者なんてやってられないよ」


「わかってるわ」


 冒険者なら冒険者を楽しめ、それが出来ないのならば帝国の皇女としていつでも帰っていい⋯⋯そう言葉を繋げられるのが、シャリアーナとしても嫌なのでそれ以上は言わない。


 冒険者の理想像はレガトの妄想で、山賊達や海賊達と大差ないのが現実だ。彼の言葉通り大人しく海賊達が知っている事を話すはずがない。


 付き合いの長い仲間達は慣れているので察していたが、新参者も増えているので戸惑うだろう。


 海賊達と戦うという事は不慣れな海戦を行う事でもある。そもそも肝心の船もないのに⋯⋯そんな不安を顔に出すメンバーもいた。


 シャリアーナが口出ししたのは、自分やリモニカが不安を抱えたメンバーのケアをする羽目になるのが目に見えていたのもあった。リモニカが無言でシャリアーナの肩をポンポンしていた。


「母さん、戦闘艦出せる?」


 渋々とレガトは母レーナへ船を出すように伝える。シャリアーナの気持ちもわからないではないので、レガトは双炎の魔女レーナに船を用意させる。


「出すって、どこから?」

「はっ? 待って、ここ陸だよ?」


 シーリスのギルドから港へ行かない事を不審に思っていた仲間達は、目の前に出された大きな船を見て混乱する。レガトはそれを楽しそうに眺めた後、操船や戦闘要員としてゴブリン達を召喚した。


「母さんとカルジアが内海の別の海域から船を用意してくれたんだ。改装済だから海賊臭くないよ」


 ニコニコ顔の母子を前に、彼を慕う双子のハープやホープまで呆れて首を振った。召喚士、竜喚師として名高い金級冒険者カルジアは青い顔をして「私は壊滅させるなんて聞いてない⋯⋯」 と一人俯いてブツブツ呟いていた。


 双炎の魔女の災禍(機嫌の悪さ)に巻き込まれないように、仲間達はカルジアから一歩後退り、距離を取る事を忘れなかった。


「操船は僕の呼んだゴブリンスターク達に任せていい。見ての通り魔法の船だから沈む心配はいらないよ」


「臭いのは嫌だけど、そうじゃなくて!」

「操船とかゴブリンが何故出来るのさ!」

「こんな大っきいの飛ぶの!?」


 仲間達は口々に色々ツッコミ始め、収集がつかなくなった。


 海賊船の中から大きく綺麗なもので、百人乗せる旗艦として完全に仕上がっている。シャリアーナやベネーレも乗るためなのか、外装も内装もかなり豪華になっていた。


「お金ないのにまた無駄遣いして」


「一応皇族二人いるからね。剣聖アリルさんとかカルジアとか金級冒険者もいるのにボロ船に乗せるわけにはいかないさ」


 みんながパニックになっている中、お金に関して厳しいアミュラがレガトに文句をつけて来た。


「それはわかる。だけど勝手に押しかけて来た文無しのベネーレ様なんか、船底に転がしておけばいい。むしろ喜ぶ」


 アミュラは辛辣だが、ベネーレは文句を言いながらも庶民の体験を喜ぶ性質なので、その考えは正しいだろうとレガトは呑気に楽しそうな皇女を見た。


「魔法で動くのに操舵手いるのかな」


「あんな派手な外装⋯⋯襲って下さいっていうか喧嘩売り込む気気満々だよね」


「襲われても⋯⋯財宝は空だけどさ」


 陸に浮かぶ船を見ながらリモニカとハープとホープが呟く。古参メンバーの彼らは、レガトやレガトの母が膨大な魔力の持ち主なのは知っている。似たもの母子なのも。


 あからさまに目立つ船はトラブルを呼ぶに決まっていた。自分が海賊側ならば──お宝が、自分から網にかかりに来たように思うだろう。


 そう考えるのは付き合いの長い彼らだけではなかった。レガトの悪い笑顔で感の良い仲間達の何人かは気づいている。海戦に備え、市場で元船乗りから必要な資材や武器を仕入れていたようだ。


「さあみんな、荷物を持って乗った乗った」


 知っているのか知らずにいるのかレガトの威勢の良い声に促されて「星竜の翼」 の仲間達は諦め気味に船のタラップを登ってゆく。


 船から投げ出されようものなら、幽霊船に取り込まれる⋯⋯そんな船乗りの脅しを笑えない状況になるのは時間の問題だった。

 

 

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