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第2話 幽霊船に眠るのは⋯⋯


 船乗り達の間で幽霊船の噂が広まる少し前────古めかしいギルドの会議室を借りて、膝を突き合わせるように集まる冒険者集団がいた。


 大船団を組んだ貴族とは別の、帝国の大貴族が絡む調査チームだ。彼らは沿海州国家の一つ、シーリス国に存在する冒険者ギルドを訪ねて回っていた。


 その冒険者達は内海から離れた内陸にある、古い時代の文献を所蔵する冒険者ギルドを中心に調査していた。そこで神話とされる時代について語った日誌を手に入れたのだ。

 

 「自由都市の湖畔の船乗りの伝記に、心優しき人々の住まう国について詳しく書かれていたよ」


 見つけた伝記を読んでほくほくした顔で語るのは、冒険者クラン「星竜の翼」を率いるレガト少年である。彼はまだ少年であり冒険者としても新参者だが冒険者だった母の影響なのか古い文献にもやたら詳しかった。他の冒険者達より内海の探索は後発だが、ダンジョンを発見する術は彼の嗅覚のほうが勝っていた。


 帝国内の大きな都市では絶えて久しい昔の様相を示した文章に、レガトは興奮していた。根拠を見出せば調べる価値が生まれるというものだ。


 文献を見つけたギルドがあった場所は昔からあるという湖畔の近くの街。そこの地域で漁師として暮らしていた船乗りが語った話を、簡単にまとめた手記だった。滅んだ国の祭祀の場所や財宝の隠し場所が書かれていたわけでもない。特別な事は何も書かれていないただの漁師の暮らしぶりを綴っただけの書物。


「なんでただ日頃の生活を書いただけのものに、そんなにうきうきと嬉しそうなのよ。その心優しき国が滅んだ国とは限らないのでしょうに」


 冒険者仲間のシャリアーナが不思議そうに、はしゃぐリーダーのレガトを見た。昔の人の生活を知れた所で⋯⋯と、彼女は少し呆れ気味にため息をついた。


「わかってないなぁ、お嬢様は。人々の日常にこそ真実(お宝)が隠されているものさ。だいたい優しくない国について、わざわざ書き記すわけないだろ」


「なによ、わかった風な言い方をして」


「シャリアーナも見ただろ? 帝都や公都にも古い蔵書は残されていたけど、あれは問題ないか精査された後のものだからね」


「それは私にもわかるわよ。まぁ、私ならもっと徹底的にやるわね」」


「────怖い皇女さまだよ」


 レガトは公爵令嬢から現皇帝の養女になったシャリアーナの容赦のなさに、両手をすくめそれ以上は口を閉じた。


 歴史の変わった後の地域を調べた所で、それ以前の情報が出てくるはずがないのが一つ⋯⋯それに時の権力者が都合の悪い情報を残しておくはずがなかった。


 滅びし国家の存在を示す遺物がない、それは徹底的な破壊と隠蔽を意味していた。レガトの考えをシャリアーナもすぐに察した。少年が支配者の思考を良く理解していると、彼女も感心したようだ。


 そして都合良くお宝の存在を示すものなどないという前提を元に、内陸の古めかしいギルドを調べていた事で、我がリーダーは相変わらず抜け目がないと呟いていた。


「皇帝の妹ベネーレ様まで加入したのに、なんでウチは金欠なの」


 大商人を目指すアミュラが会議にはいない皇族にたいして味を混ぜぼやいた。シャリアーナと皇妹ベネーレと皇族二人を抱えた冒険者クランなど早々聞く話ではないものだ。


 「星竜の翼」 には、皇族に加えて「剣聖」や、金級銀級冒険者が在籍する。帝都中探してもそんな贅沢なクランは他にない。


 ⋯⋯だがレガトが頭を抱え金策に走らざるを得ないのは、肩書きだけ立派なものばかりで経済観念に乏しいメンバーばかりだったためだ。


 シャリアーナは公女時代からの付き合いでしっかりしていたが、皇妹ベネーレはお金の価値すら知らない筋金入りのお姫様だ。アミュラの苛々にレガト自身も乗っかりたかった。


「ないものねだりしても仕方ないから内海へ来たんでしょう」


 冒険者パーティー起ち上げ時から補佐役を務めるリモニカが、会議が荒れる前に皆をたしなめた。


 大人達だけの冒険者グループと違い、彼らは醜い言い争いはしない。若いのもあるが、仲間意識が強いのと、リモニカのバランス調整のおかげだ。彼女の存在をレガトが最も頼りにするのは当然と言えた。


 いずれギルドを築くつもりのレガトは、現在の金欠の解消のため、誰よりも先んじてお宝を手に入れたかった。


 金欠について皇族二人が支度金が皆無で加入しているせいもあったが、ギルド結成という目的のため⋯⋯それが一番の理由だ。


 内海へ来たはよいが、前人未到の希少ダンジョンや、古代王国の財宝が見つからなかった場合には、海賊を襲撃し財政難を賄おうと考えていたくらいだ。


 伝説や噂でしか聞いた事のなかった古代王国の存在が、どれだけ喜ばしい思いか、古参のメンバーほどわかるようだ。


 レガトの語りに熱が入ると、リモニカと同じ孤児院の出身でパーティー創設時からの親友でもある双子のハープとホープなどは、熱弁をニヤニヤして聞いていた。彼はリモニカが止めなければ、きっと一日中語っていただろう。


 リモニカがリーダーのレガトの止まらない妄想の物語を止めて、本題へ話を進めるように促した。



「⋯⋯コホン。この湖は昔からあったようでね。手記の内容は大した話ではないけれど、万一見つかった時を踏まえてそうしたんだね。ほら、ここの文章に注目してみなよ」


 レガトが文献に隠された魔法文字と、暗号を読み解いて、皆に見せた。



 ────神代の夜、裏切りにより神の恵みは大海の渦に呑まれ、忌まわしき大地に奪われた⋯⋯



「暗号の出だしの文章は引っ掛けだね。魔法文字に気づいたものがいい気になって読み解くと、当時の権力機構を褒めるようになっている」


「レガトの言うように、民草の語る中に秘密があったわけね」


 シャリアーナが悔しそうにレガトに降参とばかり手を上げた。リモニカに睨まれレガトは勝ち誇るのは止めて話を続けた。


「この暗号を読み解いてわかるのは、帝都インベキアのダンジョン『神恵の広場』 は、もともと水に沈んだ大地に付けられた地域を示していたんだって事だ。」


 『神恵の広場』 とは、帝都の人口を支えるダンジョンの名前だ。見つけた文献には、大平原を表す言葉として使われている。これも古代王国の存在を消したい者達や知らない者達が見た時に、帝都にある恵みのダンジョンの話にしか見えない書き方をしていた。


「⋯⋯重要なのはこの一文かな」



 ────我らの至宝は蜃気楼の海に彷徨い、彼らには掴めぬ霧となるだろう。いつか幻の語らいに気づくものが、至宝の水と共に恵みをもたらすことを願う⋯⋯


「おぉ! 凄いじゃんレガト!」

「お宝確定?」


 双子が立ち上がり興奮して叫び、リモニカとシャリアーナに静かに! と怒られていた。


「確定かどうかはわからないよ。たださ『蜃気楼の海に彷徨い掴めぬ霧⋯⋯』って、最近耳にする幽霊船が怪しいと思わないか?」


 遭遇条件は不明だが、内海の漁師達や、内海で悪さする海賊達を縛り上げて吐かせれば何かわかるかもしれない⋯⋯レガト少年はそう言って悪そうにニヤリと笑った。


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― 新着の感想 ―
木を隠すなら、ですね。とはいえ、それを疑い木だと認めるだけの根拠は他から集めねばでしょうから。レガトの嗅覚と観察眼の鋭さはたいしたものですね。 最後の様子に、甘いだけでは成り立たないパーティーのリーダ…
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