絶望の母
児童相談所に行ってから4日が経ち、1本の電話が来た。
「こんにちは。△△市役所のサトウと申します。4日前のお子さんの預かりの件についてなのです。家庭環境調査の結果、現在の家庭環境でもある程度の生活基準は満たしているとの見解が出たので預かりは不可となりました。」
私は開いた口が塞がらなかった。
「な、なんでですか!」
喉の奥が妙に渇くような感じがした。
「それは…」
私は息を荒げながら聞いた。話を要約すると不可となった理由は以下の通りだ。
1、祖父母からの十分な援助を受けている
2、〇〇商店でのバイトによるある程度の収入 を得ている
3、未成年での妊娠は私にも非があるとの見解が出たため
意味が分からなかった。祖父母からの十分な援助というのは貯金を切り崩して貰っているものであって、贅沢に使えるものではない。2つ目のバイトでのある程度の収入だって、私とカズキをギリギリで養っているにすぎない。3つ目に関しては思い出したくもなかった。そんな不満を心の中で爆発させていたらいつの間にか電話が切れていた。そんな無責任さにも激怒した。生きる希望を断たれた私はどうすれば良いのか分からず放心状態になっていた。
「かあたんだっこぉ~」
カズキが蛍光灯のように明るい笑顔を浮かべていた。しかし私には眩しく、うざったるかった。心の四方からわけの分からない感情が湧いてくるのが分かった。その感情を理解するまでに時間がかかった。そうか。これは殺意だと。絶望している私に対してカズキはお構いなしに背中をペチペチ叩いてくる。ムカついて仕方がなかった。もう死のうと思った。私は鉛のように重い足を引きずりながら台所へと向かった。台所の上にポツンと置かれた包丁があった。最近買ったばかりなのでこれなら殺せると分かった。包丁を手にしてカズキに近づいた。私はこんなにも殺意を抱いているのに、そんなことも知らず笑顔を浮かべてこちらを見てくる。そんな顔に向かってナイフを振り下ろした。つもりなのに、腕が動かない。その時気付いた。私はこの子を愛している。私はこの子の母親なのだと。私はさっきまでの行動を恥じた。そして、この子の母親なら母親らしくさいごを迎えようと。