問答の母
エピソード1 15歳の母の続きです。
私は少し早足でカズキと共に児童相談所へと向かった。歩くたび胸の鼓動が高鳴っていくようだった。入り口に着けば、朗らかな笑顔を浮かべるお婆さんが受付に立っていた。
「どうされましたか?」
小鳥のような優しい声だった。
「ちょっと相談したいことがありまして…」
「ではこちらにお越しください」
案内された先には壁にアニメキャラクターが描かれ、机には玩具が置かれた応接室だった。
「それではしばらくお待ち下さい」
そう言ってお爺さんは出ていってしまった。カズキと一緒に玩具で遊んでいると、これもまた朗らかな笑顔を浮かべた相談員と見られるお婆さんが入ってきた。
「こんにちは〜」
眠くなるような優しい声だった。
「今日は何か相談しに来たのかなぁ?」
「この息子についてなんですけど…」
「あぁ〜預かりってことぉ?」
「は、はい」
お婆さんがゆっくりと喋るので時差のようなものを感じながら話していった。
「ちょっと待ってね〜」
そう言うとお婆さんまで出ていってしまった。まだ7月の末だったのでエアコンの涼しい風が背中に当たって何とも言えない気持ちだった。
「失礼します」
はっきりと通るような低い声だった。見た目は高そうなスーツに身を固め眼鏡をかけたいかにも仕事を良くこなしそうな人だった。
「子供を預けたいとの用件でしたが、貴方の家庭環境などは教えてもらうことは可能ですか?」
さっきのお婆さんとは違って早口で喋るお兄さんに頭をフル回転させ答えた。
「両親は他界していて、祖父母から養育費を送ってもらっているのですがもう先も長くなくて…」
「見た目はかなり若いように見えますが何歳ですか?」
女性に躊躇なく年齢を聞いてくるお兄さんのメンタルに驚きながらも答えた。
「15歳です…」
声にするまでしばらく時間がかかった。
「学校は?」
「辞めました…周りの目が辛くて…」
「バイトなどはされていますか?」
「はい…〇〇商店でのレジ打ちを」
「わかりました。ありがとうございます」
怒涛の質問攻めに疲弊してしまった。
「とりあえず、これから家庭環境の詳しい調査などを行うため今日は帰ってもいいですよ。まだ生活できそうですしね」
少し見捨てられたような気がして悲しかったが、少し希望が見えたので我慢することにした。