Ⅵ
『』は、文字を紙に書いているという意味です。
それは突然のことだった。
私と兄で森を歩いていた時、偶々兄の足場が崩れてしまった。
到底助からない高さだった。必死に手を伸ばした矢先、空間が止まっていた。
そう。自分以外。崩れている足場も。落ちる兄も。さっきまで強かった風だってすべてが止まっていた。だた、秒針を刻む音だけが響いていた。
「時が、時間が止まっている?」
ありえないがそうとしか考えられなかった。
困惑しながらも兄を引き上げる。
自分以外のものは、何でも動かせて、触ることが出来るのがわかった。
ふと、気づいたのは、母から貰った時計がその空間にいる間、光っていること。
「これ、どうやったら戻れるんだろう」
光る時計を眺めながら考える。
時計が丁度「XI」を指した時、世界がもとに戻った。
ただ、変わっていることと言えば、兄は崖から落ちておらず、私の隣に立っているということだ。
「……え?」
「俺、落ちてない?」
兄は呆然と落ちた瓦礫を自分と交互に見つめていた。
良かった。そう安堵した時、臓器が圧迫されるような感覚に使われ、口から血をぶちまける。なんだ、これ
耳鳴りが酷い。視界が掠れてくる。呼吸が浅くなる。
何が起きているのかわからないまま私の視界は暗転した。
目を開けるとそこはよく見知った天井だった。
体を起こして辺りを確認する。
やっぱりここは私の部屋だ。
「あの時、一体何が?」
確か時間が止まって、お兄ちゃんを助けて、それで
私は死んだんじゃないのか?
ゾッとする。じゃあなぜ私はここにいる。
冷汗が背中を伝う。
まずまず、体は何処も痛くないしむしろ元気すぎるくらいだ。
あの力は一体
扉を開く音がして、そちらに目を向けると、そこには妹が立っていた。
「あ、ルナおはよ」
片手をあげて笑う。
何故か彼女は固まった。
「…よ」
「よかったよおおおおおおおぉー‼︎‼︎‼︎」
泣いて飛びついてきた。
「うわっ!どうしたの?」
その問いかけが聞こえていないのか、妹は私に抱き着いたまま泣きじゃくる。
「良かった死ななくて、うまく治せてよかった」
「治せて?」
私を見て、思い出したかのようにポケットから何かを取り出した。
それは紙だった。
「お姉ちゃん。悪いんだけどこの紙に聞きたいことや話したいことを書いてくれないかな?」
よくわからないが、一旦妹に従うことにした。
『治せたって、傷はルナが治したの?』
「うん。お姉ちゃんの傷は私が治したの」
『え!?そんなことできるの!?』
すると彼女は首を縦に振る。
「お母さんが死んだあの日から、なんだか体に異変を感じたの」
「何だか胸が熱くなって、燃え上がるような感じだった」
私と一緒だ。お兄ちゃんを助けようとした時に、胸が焼かれるような痛みを感じた。
「お母さんの傷を治すことが出来たの。生き返らせることはできなかったけど」
そう、自嘲するように笑う。
「傷を治せるなんて便利だから喜んだけれど、代償があった」
「それは音。私は耳が聞こえなくなったの」
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