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愚者を仰げ  作者: 柊 要
0章
6/50



見てくださりありがとうございます。




外は寒い。まるで心までが氷漬けにされているような気分になる。

私はさっきまで何をしていたのだろう。

何もわからない。

何も知らなかった。

目を開けると、そこは明るい家の中だった。

木造で出来ているからか、なんだか落ち着いた。

あんなに冷え切っていた体は、毛布で包まれている。

なぜこうなっているか理解できず、ぼーっと目の前の焚火を眺めていた。


「目が覚めたみたいですね


驚いて見上げる。そこには銀髪の女が立っていた。


「どうぞ。お腹すいてますか?」


湯気を立てたスープとパンを渡してくれた。

いい香りが腹の虫を刺激する。

唯々、必死に噛り付いた。


「自分のお名前、分かりますか?」


首を横に振る。


「何処から来たか、分かりますか?」


首を横に振る。

そうですか。悲しそうな声色で返してくれた。

ガタッ、音が鳴った。そこには少年が立っていた。


「あなたも、目が覚めたみたいですね」


良かったです。そういって彼女ははにかんだ。


「ここ…は?」


「安静にしていてください。あなたが一番重症なのですから」


そのまま少年を椅子に座らせる。

よくみると、自分の体は所々包帯で処置されていた。

どうやら奥にも二人いたらしく、その子たちも椅子に座らせた。

全員が食べ終えると、食器を片付けながら此方に話しかけてきた。


「あなた方は、大雪の中、私の家の前で倒れていたんですよ」


「深い傷を負っていながらも」


「何か、些細なことでもいいので覚えてませんか?」


片付けを終え、しゃがんで、視線を合わせてくれる。


「…一つだけ、一つだけ覚えてる」


少年が呟くように言った。


「俺たちは、兄弟なの」


そうなんだ。でも何故か驚きはしなかった。

多分、この少年の言っていることは、本当なんだろうな。


「そうですか。教えてくれてありがとうございます。」


そういって少年の頭をなでた。


「何もわからなくて、不安だと思いますが、大丈夫です」


「好きなだけここにいていいですよ」


微笑む彼女の優しさは、幼少期の私たちの心に、深く溶け込んだ。

それからというもの、彼女のことは「お母さん」と呼ぶようにした。

彼女からそう提案してくれたのだ。

一緒に料理をしたり、お風呂に入ったり、絵本を読んでもらったり。

いつしか、私たちにとって必要不可な存在になっていた。

自分たちの名前は、お母さんにつけてもらった。

妹は、ルナリアという花から取って「ルナ」

姉は、イキシアという花から取って「シア」

私は、クレマチスという花から取って「レマ」

兄は、カサブランカという花から取って「ブラン」

とてもうれしかった。本当の家族のように接してくれる彼女が。



何時ものように談笑しながら夕食を食べていると、母が口を開く。


「レマ、今日は何の日か覚えてますか?」



「…掃除の日?」


そういうと、母と兄弟たちが呆れた顔をする。


「今日は貴方の誕生日ですよ?」


「え!そうだったけ?」


「日は貴方が決めたのになんで忘れちゃってるんですか」


苦笑しながらも、ケーキを置いてくれる。


「わぁっ!美味しそう!」


「レマって本当に抹茶ケーキ好きだよね〜!」


シア姉さんが笑いながら言ってくる。

だって美味しいんだもん。仕方ないでしょ?

皆に沢山お祝いしてもらって、兄弟皆が寝静まったころ、私は中々寝付けなかった。そんな時に部屋に母が静かに入ってきた。


「おや」


驚いたように声を上げる。


「まだ寝ていなかったんですね。レマ」


「中々寝付けなくて…」


「そうですか。サプライズにするつもりでしたが、起きていたなら仕方ありませんね」


ポケットから何かを取り出して、私の首にかけてくれた。


「これは…」


「時計です。前私が持っていた時に欲しそうに見ていたので」


「いいの?貰っても…」


「どうぞ。可愛い娘の為です」


嬉しくて胸がいっぱいになった。


「ありがとう!大切にするね!」


満面の笑みで返す。


「はい。おやすみなさい」


「おやすみなさい!」


その後はすんなりと寝ることが出来た。

明日にでも街に連れて行って花屋にでも行こう。

お母さんは花が大好きだから。




でもそれは叶わなかった。


次の日、起きてリビングに向かうと、母が包丁を片手に血まみれで倒れていた。

私の悲鳴を聞き、駆けつけてきた兄たちも顔面蒼白で震えるばかり。

死因は自殺。

誰かが部屋に入った痕跡はなく、昨日のままだった。

それからというものの、私たちは家に籠ることが多くなった。

でも最近はましな方。会話も増えてきて、皆が日常を取り戻そうと頑張っている。

あの時のことを思い出すと、私は私じゃいられなくなる。

だからもう、忘れるために、いや現実逃避するためにつけてもらった名前を捨て、私の名前を『時』に変えた。

お姉ちゃんは『色』へと変え

ルナは「忘れたくない大切な思い出だから」といって名前はそのままにした。

お兄ちゃんは「兄って、呼んでくれ」と言ったので、お兄ちゃん。と呼んでいる。変わったのは名前だけではなかった。


私はあの出来事の後から「能力」が使えるようになったのだ。




ありがとうございました。面白いと思った方は、ブクマ、評価をお願いします!

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