12 「アル視点」 「悪魔視点」
軽快な鼻歌が俺の耳を打つ。次いで、林檎を齧るかのようなみずみずしい音が鳴った。
「んん!この果物案外行けるぜ!ほれ、少年も食ってみろ~!」
そう言いながら果物かもわからないものをずいっ!と俺の顔面に近づけた。
「…………………すこしは静かにしてくれないか?」
俺は禍々しい色をした空を仰ぎながら、深くため息をついた。
俺の周りには大量の魔物の死体。
大小関係なく臓器をぶちまけて原型を無くして転がっている。
「にしてもすごいな少年。核を集中して狙ったとは言え、これほどの魔物達を相手するとは」
俺をほったらかして食事を楽しんでいた悪魔さんは、明日の天気を訪ねるかくらいの軽いテンションで薄っぺらい賞賛を贈ってくれた。
「………はぁ。お陰様で俺今滅茶苦茶疲れてるがな」
全身が重い。もう動けそうにない。首だけ動かして、隣に座る悪魔に恨めしそうな視線を送ってやった。
「…ふぅん。でもま!これくらいでくたばってたらリルは殺せないだろ〜な〜」
悪魔は純粋無垢な笑顔を浮かべると、悪びれもなく士気を落とす発言をした。
此奴は一体リルの何を知っているのやら…。
「少年。此処は魔界。つまりはオレたちのような外から来た奴らは好奇の的になるってことを分かっているか?」
突然、悪魔が真面目な話を降ってきた。驚きつつも、答える。
「…鳴呼。だからひとまず回復したら静かに過ごそう。訓練できそうな場所は後で見つけよう」
「うん。それは良い判断だと思うぜ?状況整理や確認は常に大切だ。しかしながら少年。もう遅い」
ぴりぴりと肌を焦がすような魔力が、空間に充満した。
「お前は暴れすぎた」
悪魔はそういって、腰を上げた。
複数の足音が聞こえた。鉛のように重い体を無理矢理起こす。
目の前には複数の人間……否。魔人が居た。
『貴様たちだな。我らの同朋を殺し回る塵屑は!』
一人の魔人が声をあげ、俺たちを睨む。
本には、魔族には魔族の言葉がある。と書いてあったがちゃんと聞き取れる。本にあったことは迷信だったのか…………。
『はっ……しかも人間じゃないか。塵屑以下だな』
その隣にいた魔人は鼻を鳴らすと、俺を舐めまわすように見てから、嘲笑った。どうやら魔界では人間は肩以下の扱いを受けているらしい。捕まると非常にめんどくさそうだ。
先頭に立っていた魔人が、俺から悪魔の方へと視線を移動させた瞬間、瞳の色が動揺へと変わり、体を微かに震わせた。
『こ、この魔力…………そんな、馬鹿なっ!』
『ど、どうしたんですか隊長!?』
隊長?よくよく見れば、彼らは鎧に身を包んでいる。
もしかしたら兵士なのかもしれない。
「…は〜あ」
「ゆっくり少年と冒険するのも悪くないと思ったんだけどな〜…………」
「そっかそっか。そういえばそうだった」
譫言のように一人で何かを呟いている。
「よし少年!やっぱりオレたちは静かに身を潜めながら訓練をしよう!安心しろ!訓練の件ならオレが鍛えてやろう!」
悪魔は突如俺の方を向くと、今後の予定を叫んだ。
「鳴、嗚呼。さっきそれについて話してたぞ…………?」
「そ〜だったそ〜だった!じゃあ早く移動しようぜ!」
悪魔は俺を抱え上げると、走り出そうとして、止まった。
「あ、忘れるところだった。来てもらったところ悪いけど帰ってくんない?」
悪魔は魔人たちの方を振り向いて、あどけない笑顔を向けた。
『は、はい!今すぐにー』
『はっ!尻尾巻いて逃げんのかよ!流石だな塵屑!だが逃げることは出来ない!俺たちに当たってしまったのが運の尽きだな!』
『おい!馬鹿!やめろっ!』
『嗚呼!でも俺たちは敵にさえも慈悲を掛けるタイプでなァ!今俺たちの前で全裸で土下座するっていうんでなら見逃してやらないこともないぜえ?』
隊長と呼ばれた魔人を覗く全員が、ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべて俺と悪魔を見た。
「気色悪ィ」
思わず吐き捨てるように呟く。
悪魔は俺に同意するかのように首を後ろへと傾けた。
「そ。んじゃ死ね」
悪魔が冷たい声で言った瞬間、魔人たち全員の身体が弾け飛んだ。
「…は」
目の前の惨状に息をのむ。
レインとの訓練や、今までの数々の経験から、相手の強さを大体は感じ取れるようにはなっていた。そんな俺から見ても悔しいが、目の前に並んでいた魔人たちは俺が倒した魔物たち全員と魔人一人を戦わせても一秒もかからず瞬殺できるほどの強さだった。なのに………そんな魔人でさえもこの悪魔は圧倒してしまったのだ。
武器も、何も使わずに。
俺の目から見ても、何故か悪魔の強さは図れない。
此奴は本当に、何者なんだろうか?これほどのく強者が何故、死にかけで役立たずだった俺を助けたのだろうか。
「ん!どうした少年!そんな吃驚したような顔して〜?」
悪魔は俺の顔を覗き込むと、むにむにと頬を引っ張り始めた。
「ほまえ………ほんほふはふよはっはんはな(お前………本当は強かったんだな)」
「何言ってるのか全くわかんねぇ」
俺の類から手を離すと、悪魔は俺の身体を地面へと置いた。
「……少年、ちょっとここで待っててくれないか?すぐ終わる」
「まずまず、今の俺は全く動けん。俺が魔物の餌になる前に戻ってこい」
俺は寝転がりながら上から目線で伝えると、悪魔は軽く肩を振るわせた。
「くく…了解したぜ。少年がになるその時に助けに行くな!」
「餌になったら意味ないだろ!」
「行ってきま〜す!」
「話を聞け」
風が吹いたかと思えば、悪魔の姿はもうそこにはなかった。
最初は物凄く戒していた相手なはずなのに、何時の間にか気を許してしまっている。
俺も俺だ。
そう言えば、悪魔は実体が保てないからとかなんとか言って、俺の中で基本的には過ごしている。
なのに魔界に来てからは普通に俺から離れて行動している。つまり悪魔は実体を持てた?ということなのだろうか?
あまり難しいことは分からない。そこらへんはまた悪魔に聞くとしよう。
取り敢えず俺は回復に専念しないとな。
俺は休息をとるために身体から力を抜き、目を瞑った。
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ずるり。
目の前にいた魔人が、赤色の血をぶちまけて倒れた。オレは軽く伸びをすると、大量に積み上げられた死体の上から降りる。
「少年の力が見たくて自由にやらせてたけど、まさか此処まで目をつけられるとはねぇ…」
他人事のように呟いて死体の山を見上げる。
軍人だけでなく盗賊や貴族。色々なものが少年を狙っていた。やはり半人間という情報は直ぐに広まってしまいそうだ。
魔王の耳にまで届くと少年が危険にさらされる可能性が高い。
早めに身を隠す必要があるだろう。周りを見渡し、気配を探るが何もいない。
「よし!そろそろ少年のところへ行くか~」
少年から離れて数分しかたっていない。一応少年に何かが近づけば察知は出来る。今のところは何もなかったみたいだし、多分大丈夫だろう。
「しょ~ねん!迎えにきたぞ~!って、あり?」
目の前に広がるのは綺麗に何もない平野。少年が寝そべっていたところには、痛々しい血痕が取り残されていた。
「…………………………………………やらかしちった」
悲報:少年が攫われた。




