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愚者を仰げ  作者: 柊 要
3章
48/57

7 「ランゼ視点」 「アル視点」





僕が想像していたよりも、驚くほどに事はスムーズに進んだ。

盗賊たちに見つかるのは確定していたし、たとえ彼女たちが相当の手練れだったとしても、数があれば、負けてしまう。

いけても五分五分くらいだと想像していたのだが………。どうやら彼女たちは化け物らしかった。

次々と現れるガタイの良い男どもを、まるで蟻を踏み潰すかの如くいとも簡単に殺してしまう。

僕が言うのもアレだけど、殺すことに一切ためらいがない。

先ほど僕からしたら女神のように輝いていた時さんも、真顔で対処している。

あの時、僕が助けられたのは本当に然だったのかもしれない。

ほぼ殺しつくしたのか、辺りは静かになっていた。


そこに、足音が一つ。

顔をあげると、少し先に、統領ボスが立っていた。いや、立ち尽くしていた。


「……ジル?お前………!」


何時もの余裕の笑みは消し去られ、呆然とした表情で僕を見ていた。


「ボス!二日ぶりですね!お仕事お疲れ様ですっ!」


敬礼をして、明るく挨拶をする。


「どういうことだ!ゼオは……ゼリオルはどうした!?」


唾をまき散らして怒りと絶望に満ちた顔を僕に向けながら叫んだ。


「死にました」


「なッ!?」

淡々と答えると、唖然としたように声を漏らし、次いで、表情(かお)を怒りへと染め上げた。


「……貴様ああァ!!騙したのかア!?」


僕に大股で近づくと、勢いよく胸倉を掴んで、持ち上げられた。


「………騙す?」


「違いますよ、貴方が勘違いしているだけ」


「ただ貴方は、僕の罠に乗っかり、嵌ってしまった...それだけのことでしょう?」


鼻で嗤って嘲笑を贈る。


「ふざけるな!お前みたいな無──」


何かをほざきながら、片手を振り上げた時、首が飛んだ。


「……うるせえ。目障りだ」


着地して見やると、怪訝そうにナイフを弄ぶ少年が立って居た。


「………」


お礼を言うべきなのだろうか?いや……まあいい。取り合えず助けてくれた(?)やつを一瞥だけして先に進もうとすると…。


「これは…鍵の束?」


統領ボスのポケットから、一つにまとめてある鍵が出てきた。この量……。すべての部屋の鍵だろうか?

シルファの牢屋の鍵をこの中から見つけ出すとなると………骨が折れそうだ。


「成る程。そこの中に弟君のところの鍵があるのかもしれないね」


時さんは観察するように鍵を眺めてから、軽くうなる。


「うーん…あっ!そうだ」


思いついたように死体へと向き直ると、手をかざした。


「ランゼ君!危ないから一応離れといて!」


「あ……はいっ!」


何をするつもりなのだろうか?警戒しつつ見守っていると、気づけば僕は、統領ボスに胸倉を掴まれていた。


「…あれ?」

「……貴様あァ!!騙したのかア!?」


何故生きている………?しかもこの会話、さっきも………。

困惑していると、統領ボスは後ろから蹴り飛ばされ、勢いよく地面に転がった。


「な、何す──」


起き上がろうとして強く踏みつけられ、身動きの取れない状態になる。


寐得ねぇ寐得ねぇ~。お兄さん、ランゼ君の弟君の屋の鍵、どぉれ?」


「っひ!?なんだお前!」


色さんは笑みを深めると、より強く踏みつける。


寐得ねえ、聞こえなかった?」


「こ、これだ!これがあの餓鬼の年屋の鍵だ!牢屋は三回の一番奥の部屋にある!」


そいつは焦点の合わない瞳で焦ったように叫ぶと、兎に角生き延びようと床を這いずった。何て滑稽なんだろう。思わず笑いが痛れた。


「そか、ありがと〜!」


色さんは輝かしい笑顔を統領ボスに向けると、首を刃物で掻っ切った。


「よ〜し!それじゃあ早速行こう!弟君のもとへ!」






_______________







着いた時には、僕は何時の間にか駆け出していた。

中には正真正銘、僕の弟のシルファが、冷たい床に座り込んでいた。

両手足は硬い鎖でつながれ、自由に動けそうにはなかった。

突然空いた扉に驚いたのか、俯いていた顔をあげて、固まった。

僕を見て、時さんたちを見て、それから僕を見た。


「に、兄さん…なの?」


恐る恐る、かすれた声が、小さな口から漏れた。


「鳴呼!そうだよ!シルファ!」


僕は歓喜の余り、シルファに向かって叫んだ。シルファは涙をこぼすと、勢いよく僕に抱き着き、泣き始めた。

嗚呼……。本当に良かった。生きていてくれて…。


「僕には、お前しかいないんだ………シルファ」


そう。僕にはお前しかいなんだよ。一人にしないでおくれ。

気づけば僕も泣いていた。

幸せをかみしめるように抱き合っていると、時さんが声をあげた。


「…よかったね。会えて」


「はい!ありがとうございます!時さん!」


僕は泣きじゃくりながら、心からの感謝を、彼女に述べた。


「それじゃ、俺たちはもうお役御免ってことだ。早くいくぞ」


「そうだね」


彼女たちは何事もなかったかのように踵を返そうとする。


「ま、まってください!」


僕は焦って止めた。

そんな、何も返せないまま終わりたくない。というより、もっと。もっと彼女と一緒に居たい。


だから──………




「僕らも、僕たちもお供させてください!」


何時か彼女たちを、助けられるように。











ランゼの記憶が流れ終わったのか、俺の視界には倒れているランゼが居た。


「……レイン、あれが」


「そうね。彼の記憶ということになるわ」


「…」


何だか勝手に過去を覗いてしまったな…。まあ、疑っていたこともあるから後悔はないが。


「つまり、此奴は俺らに嘘を吐き、利用しようとしていたが、フォルに救われ、俺たちに恩返しをしようと思った、ってところか?」


「まあ、そんなところでしょう。それよりも!もっと大切なところがあったじゃない!」


俺が状況理していると、レインは興奮したように声をあげた。


「………何処に?」


「ほら!彼らは子供のころから能力が完成していたというところよ!もしかしたら赤子のころから実験は開始されていたのかもしれないわ!」


レインは目を輝かせながら、お得意のご高説している。


「わー!そうだねー!すごーい!」


「物凄い棒読みな感想で返してくるのやめなさい」


地味に傷つくじゃない。と、言いながらレインは立ち上がる。


「?」


「何するんだ?」


「何するも…………。このままじゃ何も進まないわ。取り合えず此奴をベッドに運びましょう。話はそれからよ」


「はーい」


気の抜けた返事をして、立ち上がる。まあそうだな、取り合えずこの餓鬼運びますか……。

──って………。




「重ッ!?」


「早くしなさーい」



「じゃあお前運べよ!」





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