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愚者を仰げ  作者: 柊 要
3章
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3 「アル視点」





「そうね。安否確認はしておきましょうか」


そう言ってレインが軽く指を鳴らすと、俺たちは見知らぬホールに立っていた。


「…此処は」


「訓練場よ。広くて動きやすいでしょう」


レインが真顔で自慢げに言った。

王宮の訓練場と似たような作りになっているな。興味深く辺りを見渡していると、

突如、ナニカが俺の横を高速で通り過ぎて、後ろにあった壁に衝突した。


「…」


想定できる内容を頭に浮かべて、恐る恐る後ろを振り返ってみた。

そこには壁にめり込んだランゼ。ついでにかばったように転がっているシルファ君がいた。

...訓練をしてもらっているのはシルファ君だったよな?

なのに何であの餓鬼ランゼもいるんだ?


「っく、シルファつ大丈夫か!?」


血を吐きながら、苦しそうに這いずって弟に必死に声を掛ける兄。なんてお優しいことだろうか。

しかし、弟は体を痙攣させて失神していた。

ランゼは親の仇でも見るような目で奥にいるやつを目一敗睨みつけた。

俺もそれに合わせて視線を向けると、そこには冷酷な表情をした人形が立っていた。人形は引きずっていた鉄球を軽く振ると、勢いよくランゼ達に向かって振り下ろした。


「しかたないわね」


あのままだとあいつ等はぐちゃぐちゃになって死ぬだろう。

俺からしたらランゼは死んでもいいと思うけど。

レインは鉄球とランゼ達の間に躍り出ると、迫りくる剛速球に片手で触れて止めた。いや、触れていない。何故か鉄球はレインに触れておらず、剛速球の動きを止めていた。

魔法も使わずに、物理攻撃を止めることが出来るのか?どんな絡繰りなのかは分からないが、絶対便利だ。後でレインに聞いておこう。


「申し訳ございません。主人の手を煩わせてしまいました」


人形は、主と見ると即座にその場に膝を着いた。


「大丈夫よ。私にも非があるわ」


「それよりも問題なのは」


レインは従順な人形に穏やかに微笑むと、視線を倒れ伏す二人へと移した。


「やはり普通の人間となると弱すぎるのね」


それから少し考えたように悩むと、一人納得したように呟いた。


「五月蠅い!黙れ!」


ランゼが這いつくばりながらレインに向かって吠えた。


「そんなことを言われても…実際にそうじゃない」


「僕の……僕の大切な弟に、よくもやってくれたな!」


ランゼは息絶え絶えに叫ぶと、近くで気を失っている弟を強く抱きしめた。あれ?もしかしてこの餓鬼忘れてんのか?これはあくまで訓練で、シルファ君自身が所望したことだ。故意で人形がシルファ君をズタボロにしたわけではないと思うが…。

誤解を解かなくていいのか?という思いを込めた視線をレインにやると、意味ありげな微笑みで返された。


──嗚呼。俺は心の中で虚しく嘆いた。


あの笑顔を、俺は知っている。

昔、レインが俺の飼っていた毛に注射を刺した時と同じ。

昔、レインがナナの食事に紫色の液体を投入していた時と同じ。

なにかを、実験しよう試そうとしている時の顔──…。


「ふふ、貴方が怒るのをずっと待っていたのよ」


そんな静かな声は、怒りに堕ちたランゼには届かない。ただ、怒りに合わせるかのように彼の髪色は赤に似たオレンジ色へと変色していく。

まるで暴走を起こした時のフォルみたいだな。いや、似ていると言ってもこいつはあそこまで強力ではないか…。


「レイン?あれは何なんだ?」


「あれは紛れもなく、“能力”よ」


「能力?王族にしか使えないんじゃないのか?」


「ええ。だからアレは作られた力なのよ」


レインは面白そうに俺を指さす。


「貴方、大体の生き物には、体の中心に核がせ存在していることを知っているかしら」


「核…。魔物とかの中にある結晶のことか?」


「ええ。核は力のエネルギー源。貴方たち王族には珍しいことに核というものが生まれつき存在しているのよ」


「じゃあ、俺にもあるのか?」


「ええ。人によって形や色は違うだろうけどね」


「ちなみにランゼとシルファは核を埋め込んでこの力を手にしているのよ。人間には残念ながら核というものが存在しないの。だから特にとびぬけた力というものはなくて、たとえ尋常じゃない努力をして何らかの力を手に入れたとしてもナイフで心臓を刺してしまえば呆気なく死んでしまう」


ランゼが炎を纏い、残像のように揺れた。


「ならどうすれば?と必要以上に力を求めた人間は考えた」


「持てないなら真似をすればいい。とね」


「まあなんとも、代々人間とはかけ離れた人外を王とするのが今の貴族たちにとっては面白くないのでしょうね」


ランゼ君の手から、膨大な魔力が集中していき、電光石火のように放たれた炎の斬撃がレインに襲い掛かった。

因みに俺の隣にいるフォルは必死に目を凝らして攻撃を見極めようとしている。

が、俺たちにとってはこんな攻撃……。


「「遅すぎる」」


レインは最小限の動きで避け、ランゼを蹴り飛ばすと、俺の隣へと舞い降りた。


「だからこそ、王に匹敵する力が必要なのよ」


「人間は生まれつき、能力を与えられない代わりに【スキル】というものを持っている」

【スキル】。能力ほどではないが軽く物を浮かせることができたり、付与魔法を使えたり。強い【スキル】を持っていれば王宮で働いたりすることができる。要は、強い【スキル】を持っていれば持っているほど立場は上がるということだ。


「稀にいるのよ、【スキル】を持たずに生まれてくる異端が。試しに何度か【スキル】を持っているものに核をねじ込んで見たんだけど、瞬く間にその身体は核のエネルギーに耐え切れず、崩壊してしまったのよ」

「そこで彼らが次に目を付けたのが【スキルなし】。そして、一番最初に適合したのがこの二人なのよ」


「ふうん。犠牲の末にできた成功作……か」


「そんなもんよ。だけど、核って言ってもあいつらの中に入ってるのはい魔物の核よ。まあでも、一度適合したなら基本他の核でも適合するでしょうね」


「結局は獣のなれ果てってことか…?」


「貴方嫌味を言うのが相変わらずうまいわね」


軽く笑いながらレインを見やると、微笑で返された。

同時に前方から破壊音が鳴った。あの餓鬼が壁をぶっ飛ばした音だ。

崩れ落ちる壁の残骸の中から、オレンジ色の少年が顔をのぞかせた。


「お、レイン。また起き上がってきたぜ?」


「あら。思ってたよりタフね。実験台さん」


レインは全く嫌そうな顔をせず、むしろご機嫌に鼻歌を奏でていた。


「お前なんでそんな嬉しそうなわけ?」


「だって、醜い人間たちが必死になって作り上げた生き物だもの!折角だから見ておきたいのよ!その実力!」


レインが興奮したように目を輝かせた。


「うーわ。れいんさいてー」


「棒読みってことは最高って思ってくれてるのね、有難う」

「お前のその可笑しい頭の中は世界で一番最高だと思うぜ」


「フォル様。此方へ」

「は、はい…」


危険を察知したのか、優秀なレインの人形は死にかけのシルファ君を抱え、フォルと共に安全な場所へと案内しに行った。

ホールの中に立っているのは俺、レイン、そして餓鬼ランゼの三人。しかし、魔力も無限というわけではない。レインはあの程度の攻撃なんざ避けられるし、魔力切れでも待っているのか……?

するとランゼは炎を斬撃から剣へと変形させると、俺とレイン目掛けて先ほどよりも格段に速いスピードで飛ばしてきた。


「おいごらレイン、お前が俺の方に居たせいでなんか巻き添え食らったんですけど?」


「さっきまで話してたから仕方がないじゃない。どっちが先に狩れるか勝負する?」


「めんどくさいからパスで」


「貴方その逃げ腰治した方がいいわよ」


「別にそういうわけじゃねぇよ…」


今更だが、ランゼ日く母が殺されてから脅されて盗賊をやっていた。と聞いたが、あの時の言葉に偽りはなかった。

あの餓……悪魔もそう言ってたしな。なら、どうやって核を埋め込んで、成功体となったのだろう?しかも成功体になったのに何故か盗賊をやらされている。成功体なら王族を倒すために訓練でもさせるんじゃないのか?

可笑しい部分が多すぎる。やはりランゼは嘘をついているのか?いや、あの時悪魔だって……。


『おい、あのランゼとかいう餓鬼が言っていた事は本当なのか?』

『んあ?え、鳴呼……本当なんじゃね~?』


信用できねえええええーーー⁉︎

やっぱだめだ。あいつに聞くんじゃなかった。


「呆気ないものだわー…」


思考に没頭して攻撃を避けているうちに、どうやらもう終わったらしい。レインは肩を落としながら倒れているランゼを抱えて此方へときた。


「あら?どうしたの浮かない顔して」


「……いや、ランゼは核を埋め込まれたこととか自覚あんのかなって」


「嗚呼。要は嘘つかれてたかが気になるって訳ね」


「別に嘘とかはどうでもいいんだが……」


「そうね。私も此奴がどんな風に核を埋め込まれたとか実験されたとか気になるし…。ちょっと記憶覗かしてもらいましょう!」


「…お前そんなこと出来んの?」


「ええ。私を舐めてもらっちゃ困るわ」


なんだこの無敵人外。勝てる気がしないんだが。


レインは俺の肩に手を置くと、もう片方の手でランゼの頭に触れた。






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