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愚者を仰げ  作者: 柊 要
3章
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「五月蠅いやつとは失敬な!お前もう少しは考えろよ!これでもお前の心の声筒抜けなんだぞ〜?」


子馬鹿にしたように、奴は俺の目の前をうろちょろと動く。


「…」


確か、此奴と出会ったのは一番最初だっけな…。





◇ナナの死亡後に遡る






「あら、おはようございます。今日もいい朝ですね」


そういって微笑みかけてきたのは、善意で俺たちを拾ったと言い張る偽母。

その輝かしい笑みの裏には、一体何が隠れているのだか……。

俺は軽く息を吐くと、変に悟られないよう、まだ慣れないようなん様子で辺りを見渡し、視線を地面に落としてから、か細く挨拶をした。


「…お、おはよう……ございます」


「おはよう。でいいのよ。これから私たちは、家族になるのだから」


彼女は、俺に視線を合わせ、聖女の如く俺の手を優しく握った。

何が家族だ。嫌気がする。


「はい。ありがとうござ……あっ、ありがとう…」


俺はさも嬉しそうに喜ぶ子供のように笑う。すると、彼女は満足したのか、妹たちへと挨拶に移った。全く。明らかに、信用を買ってしまおうというのが丸見えだ。


しかし、俺はここを気に入っている。

別に妹や母が好きになったとかそういうわけじゃない。

ただ、この場所は絶好の環境だ。この家は村や街とは大きくかけ離れていて、誰かが来るとは到底思えない。

しかも森林に囲まれているため、自分の力の試し打ちだって存分にできる。

絶好の鍛え場だ。


しかも、このまま演技を通していられる限りでは、食事、睡眠を十分にとれる。そしてこの家には特に決まったルールはなく、基本的に三食の時に揃う事、其れから偽母がなにか手伝って欲しい用事があったとき以外は自由に行動することが出来る。

家から出て、森の奥へと歩を進める。此処で妹たちと遭遇しても困る。

ある程度人目のつかないところには移動すべきだ。

一応、誰かがつけているようには感じられない。ここらへんで大丈夫だろう。


「…っよし」


手始めに俺は召喚をしようと思う。まず、当たり前のことだが今の俺じゃリルと戦ったとしても勝率はゼロパーセントだ。ナナでも勝てなかった相手だ。

多分一撃も入れられずに呆気なく死ぬだろう。

まず、俺は力を手に入れたばかりで扱い方も知らない。普通は能力者何てものは存在していないため、能力を扱うためには特殊な訓練が必要だ。

しかし、其れを教えるのは母や魔術師。


だが俺は今更教えてもらえるわけがないので、自分の役に立つものが欲しい。

自分の片腕となる、リルを殺すときに役に立ってくれるような。そんな使いが。

そんな時に役立つのが、召喚魔法だ。

召喚魔法とは、自分の相棒となる物を別次元から召喚したり、

自分の記憶にある身近な物を出現させたりと、取り敢えず便利な魔法だ。

召喚魔法なら、レインに軽く教えてもらったことがある。

レイン曰く、召喚魔法は魔力量の少ない物でも簡単に召喚できる。

しかし、魔力量が少ない場合、それに見合うものが呼び出される。

俺は魔力量すら分からないので、取り合えず感覚でやってみるとしより。

手順は簡単。

まず、魔法陣を書く。

そして自分の願いと共に一滴、血を垂らす。

これだけである。


が、問題があった。

魔法陣を書くには、魔石が必要なのだが、生憎、そんなものは今持っていない。

と、なると別のもので書くしかないのだ。

魔法陣を書くときは絶対に魔石を使うが(というか魔石を使って書いているところしか見たことがない)それが一般的なだけだろう。書ければそれで俺は良いと思う。

願いと血。それがあればいいんだったらいくらでも使ってやろう。

指を噛む。

すると、軽い痛みと共に、嫌なくらい記憶に染み付いた血が流れだす。少々強く噛みすぎてしまったようだ。

まあ、これくらいが丁度いいだろう。

指を地面に押し付け、円状の魔法陣を書いていく。

魔法陣は、レインが悪魔を召喚する際に見たことがある。

それを記憶から引っ張り出してきて、写すように書けばいい。

レインの場合、魔力を調節して召喚することが出来たが俺の場合はどうなんだろうな。考えている間に、魔法陣が完成した。

血はもう十分なくらい使った。あとは念じるだけか。


普通なら、両手を合わせ、膝を着き、神に自らの使いを願う。

が、俺にそんなものは必要ない。

願いは長々としたもんじゃねえしな。


『殺したい奴がいる。手伝え』


刹那、身体から、何かが吸い取られていく。

これが……。魔力か。

魔法陣が光、血が浮き上がって出てきたものにへと吸収される。


「…これは」


俺は愕然とした。

もっと、こう。羽の生えたような悪魔らしい悪魔がくると思ったのだが…。

魔法陣の中で跪くその姿は、どう見ても人の形をしている。

黒い衣服を纏った”それ”は顔を上げ、俺を見た。

再び俺は驚愕して、その顔を覗き込んだ。顔は俺と瓜二つと言っても過言ではない。ただ、少し違うと言えば頭のてっぺんに特徴的なアホ毛がや生えていること。

それから俺の髪が耳にかかるくらいなのに対し、此奴は肩にかかるくらいの髪だ。

あと茶髪の俺に対して、此奴はこげ茶と言ったところか?

黒みがかった髪をしている。

そして、何よりも特徴的なのは、悪魔の象徴ともいえよう

紅い瞳。

特徴と言ってもこれくらいか。もしかして俺、召喚方法ミスったか?まあ、確かに普通に召喚してないし………。


「……えっと、悪い」


取り合えずこっちを滅茶苦茶ガン見してきたから謝っておいた。なんで謝ったんだ……俺。


「...お前」


少年はぽつり、とつぶやくと、俺を指さした。

声は深淵の如く、深みに満ちていた。

コイツ、もしかしたら使えるかも…。


「めっちゃチビだなー!!!!!!!」


「お前やっぱ帰れ」


前言撤回。別のやつを召喚しよう。そう思い魔法陣をそこら辺の石で書き直そうとすると、手を掴まれた。


「……なんだよ」


「……別に?ところで少年。俺を呼んでくれたってことは、なにか用事があるんだよな?」


「嗚呼。あったがお前は用済みだ。気に障る」


「全く。お前いま魔力空っぽなんだから召喚なんてできるわけないだろ?」


「空だと…?全然気づかなかった」


「とんだ無自覚だな、お前」


少年はにひひ、と笑うと、俺の手を回し、握手をした。


「うわっ!?何するお前!気持ち悪い!」


「握手くらいしたことあるだろ〜。文句言うな王子様」


すると、何かが流れ込んでくるような感覚に襲われる。


「な、何してんだよ!?」


「だーかーらー、魔力の使い方教えてやってんの」


「はあ?そんなことやってお前に何の得が…」


俺が呆れたように言った瞬間、そいつの目が輝いた。


「だーよーな?俺が今から折角お前にとって重要になるであろう魔力の使い方を手取り足取り教えてやろうとしてるのに、そんなお前は何もせず、ただ恩を売るだけになるなんて、…可笑しいと思わないか?」


「べ、別にお前に教えてもらわなくても──がっ!?」


急に顎を掴まれ、反論できなくなる。


「え?え?やっぱり俺に教えて欲しいんだな~?全く、そういうことは最初から言ってくれたまえ」


そいつは悪魔の笑みを浮かべると、口から八重歯を覗かせた。


「俺と契約してくれるよな~?しょ・う・ね・ん」


「嫌に決まってんだろ!」


手を振り払い、距離を取る。一体何なんだ…?此奴は…。


「つれねえな〜」


「ま、そんなに嫌ならいいけどさ?」


「意外とあっさり引くのかよ!?」


「でも、いいのか?俺がここでお前に教えなかったら、お前は周りの人間にでも頼んで今更魔力を安定さらせるのか?こんなに危険な状況下で」


そうだ。俺は今、表に出てしまえば即捕まって死刑。

例え魔力を今更持ったとしても、使い方が分からなければ意味がない。


「俺さ、此処で少年と出会えたのも、何らかの縁だと思うんだよね~」


俺の前で跪くと、そいつは言った。


「悪いことは言わない。俺と契約しろ。仮にもう一度お前に見合うものを召喚したとして、俺のように話の通じるような奴が来るとも限らない。もしくはお前が殺される可能性だって、充分にあり得る」


「どうやらお前には殺したい相手がいるみたいだな。いいよ。手伝ってやる。絶対にそいつを殺すまで、お前を守り、強くしてやると誓おう」


確かに、今の俺は無力だ。


「……まさか、悪魔と手を組むことになるなんてな」

「……なに、不自由にはさせないさ」


「ほら少年。じっとしていろ」


そう言われ、目を瞑る。

悪魔との契約は血を交わすことにより完成する。俺からは魔法陣を書いたときに着けた血を。悪魔は、自分の所有物に、血で印をつけなくてはいけない。

そいつは指を噛んで赤黒い血を流すと、俺の右手に押し当てた。

右手に、微かな痛みが走る。その痛みは、徐々に大きくなっていき、

俺は思わず、悲鳴を上げて地面に倒れこんだ。


「こりゃいな。悪い。俺の血が強すぎた見たい☆」


「…だ、黙れ」


マジでコイツふざけんなよ….。

絶対に許さねぇ…。後で覚えとけ…。


「まずその口がなってねえな〜」


口?対して此奴には気に障るようなことを何も言っていないはずだが……?


「気に障るようなこと言いまくってんだよ!実際でもまあ言ってるけど……特に心の中でな!」


「っな!」


「お、お前!何勝手に人の心読んでんだ馬鹿!そういうのはプライベートってもんがあるだろ!」


「仕方ねえだろ?契約したら主の心の中くらい聞こえてきちゃうもんなんだからな」


「糞が…」


やっぱ契約しない方が良かったのか?


「まあまあ、積もる話はあるだろうが後にして、取り合えず魔力の使い方について教えてやろう!」


積もる話なんてねえよ。


「ところでお前、名前はなんていうんだ?」


「名前……。そういえばなかったな…よし!少年!俺の名前を考えてみろ!」


「はぁ………?何で俺が…」


「主人たるもの、名づけぐらいは簡単だろう…?まさか、威勢だけで頭は名づけすらい出来ないお花畑のお坊ちゃまだったけ?」


「馬鹿野郎!それくらいできるわ!」


「ほほーん?じゃあお願いしますね?くれぐれも、かっこいく」


悪魔の笑みで注文していた。何だ此奴。

此奴の手のひらで踊らされている気がする。取り合えず、適当に名前でも付けるか…。

「そうだな……ベリルとかどうだ?」


「嫌だね。何その破滅的センス名前」


今真剣に考えたのに………!


「お前…!全世界のベリルさんに謝れ!」


「はいはい。少年のセンスがないことは分かったぜ」


「ていうかさっきから少年少年五月蠅い!俺にはアルというれっきとした名前があるんだよ!名無しのお前と違ってな!」


俺は嘲笑うかの如く鼻を鳴らす。


「…こんの糞餓鬼が」


悪魔の笑みが引きつった。さまあ見やがれ。


「だいだい!お前も似たよな身長なんだから、お前だって餓鬼じゃないか!」


「こ、此奴……。俺結構身長のこと気にしてんのに…」


どうやら上手く刺さったみたいだ。


「決めた!」


俺は真顔から満面の笑みで大げさにそいつに顔を近づける。


「お前の名前は、糞餓鬼だ!」



その後、猛大に殴られた。






____________





「……嫌なものを思い出してしまった」


俺は上等なベッドの上で、大きなため息をついた。


「え?何々?鳴呼。少年オバケ怖いもんね……。ついに見ちゃったか」


「縁起でもないことを言うな!別に怖くないわ!」


本当に、此奴がいると気が狂う。


「五月蠅い。静かにしろ。俺は今から寝る」


「はいはい。御休みなさ~い」


そういうと、糞餓鬼は姿を消した。

俺の中に戻ったのだろう。嵐みたいなやつだな。


さて、俺も寝るとするか。

灯してあった火を、念じて消す。



ほんのりと明るかった部屋は、暗闇に包まれた。













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