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愚者を仰げ  作者: 柊 要
2章
40/57

Ⅻ 「アル視点」 「時視点」





「おい、おい?ナナ?」


肩を揺らす。しかし反応はなかった。


「嘘…だよな?」


瞳は虚ろ。どこか、遠い所を見ているみたいだった。


「ナナっ…」


ナナに生かしてもらったのに、足が動かない。それよりも動かないナナに、俺は呆然としていた。


死んだ?


「……死んだ?」


声に出して、反芻する。彼女は、動かない。

どこか、やりつきったような、安堵したような顔をしていた。

流れ出る血のように、体温が少しずつ下がっていっているのが分かった。


「ナナ?」


足音が聞こえた。

周りを見ると、ナナを殺した兵士たちが、武器を構えて俺を囲んでいた。


「...そうだ、こいつらが」


拳を握りしめる。


「死ね!悪魔が!」


目の前にいた兵が、俺に向かって剣を振り下ろした。それを、間一髪でよける。

その兵と入れ替わりになるかのように、三人の少女が飛び出した。


「死ね!ナナ姉が死んだのも!全部お前のせいだ!!」


萌黄色の髪を靡かせ、一人の少女が剣を掴み、襲い掛かった。


じわり。

心の奥底から、何かが噴き出で来る。


殺さなければいけない。そう思った。俺の周りを、黒い魔力が渦巻いた。

少女達には見えていないのか、気にせず攻撃を開始した。


いける。


ゆっくりと俺はそいつに触れようとして──


身体が浮遊感に包まれた。

この感覚は…転移魔法?

もしや、アリアが……?

いや、違う。

俺の視界に、懐かしい水色の髪が映った。


「…………レイン」


泣きそうになった。

俺はそのまま、姿を消した。




______________






どうやら姿を消したのはどうやら俺だけではなかったらしい。

俺の近くにいたライ、フォル、ルアの三人まで転送されてしまっていた。

転移された場所は何処かわからぬ平地だった。周りには町もなく、村もない。本当に何もない場所だった。

三人は困惑したように辺りを見渡し、俺の姿を捉えると、即座に近寄り、胸倉を掴んだ。


「おいっ!お前の仕業か!?どこだよ此処!」


ほぼ八つ当たりのように、俺に向かって叫んだ。俺だって此処が何処かなんてわからない。

ただ、ナナを探していた時に、この国の大体の地形は把握している。

方角を見る辺り、どうやら此処はまた、王都とかけ離れたところらしい。


「何か言ったらどうなんだ!?役立たずの分際で!」


黙っている俺に連れを切らしたのか、後ろに立っていたフォルが俺に殴りかかった。一言言わせてもらおう。ぬるい。


王女であろうとも、うちの王国では王族は基本、剣術や体術を習わされる。

俺は習わさせてもらえなかったため、ナナやレインの指導を←みっちりと受けさせてもらった。それにしても、これまでか…。


俺は単純な突きだけのパンチを回避し、仕返しとも言わんばかりに鳩尾に蹴りを入れた。フォルは、体を痙攣させて倒れると、そのまま動かなくなった。


「…あれ」


てっきり反撃してくると思ったんだが。

つついても反応がない。どうやら気絶したらしい。

そんな俺を見て、ライとルアは戦慄したように此方を見て、やけくそのように襲い掛かってきた。


駄目駄目。動きが単純すぎて見切れてしまう。二人の首に軽く手刀を入れる。

すると、力なく倒れこんだ。


「…はあ」


疲れた。身体的には疲れてないのに、何故か体は重かった。

心はもう、ボロボロなのかもしれない。立ち上がって、ナナから貰ったナイフを見た。


それで、三人の首を掻っ切ろうとして、やめた。こんなの、腹いせだ。

此奴らは、死んでも構わない。むしろ死んでほしい。でも、此奴らを今殺しても、何にもならない。


「せめて死ぬなら…役に立ってもらわないと」


俺は三人の頭の上で、“魔力”を練った。


「もう遅いんだよ…」


今更力が目覚めたって。でも、タイミングとしては悪くはない。

とある魔法を発動させる。


俺は頭の中に、かつての母を思い浮かべる。あれは母じゃない。敵だ。


俺はあいつを、リル・キロファレンゼスを殺さなければいけないのだ。

そう決意すると俺は、ナナから貰ったナイフを片手に、自分の頭に、勢いよく突き刺した。


頭の次は足、腕、手、刺して、刺して深い傷を残した。

どうせこんなものは、直ぐに治る。

俺は、アリバイ作りをしなければいけないのだから。

俺は、痛みに溺れ、意識をたった。













「──という感じで、お前らには記憶操作の魔法をかけて、一時的に記憶を消し、そのあとお前らの言うお母さんに拾ってもらい、お前らが能力に目覚めるのを待ってたってわけ」


お終い。というようにお兄ちゃんは手を叩いた。正直言って、信じられない。


一体この人は、何を言っているんだ?


「えっと、お兄ちゃんは私たちが殺そうとしているリルって人の息子で、私たちもその人の娘で姉だったナナさん………?が殺されて、復讐しようとして私たちを陥れたってこと…?」


よくわからず、思ったことを述べると。


「ま、言い方によってはそうなんじゃねえのか?」


悪びれもなく笑った。


「ね、ねえ。じゃあさ、本当にリルって人さが私たちのお母さんだったとしても、私たちを育ててくれたお母さんは、お母さんはどうなったの!?」


ずっと私たちを一人で育ててくれた、大切な人。


「ん、殺した」


真顔でお兄ちゃんはそういうと、ナイフを弄ぶ。


「ぉ、お前えぇえーーーーーー!!!!」


気づけば、叫んで殴りかかっていた。


「ぬるい」


お兄ちゃんはそういうと、全力で殴り掛かった腕をいともたやすくよけ、私の鳩尾へと蹴りを入れた。


「っかは」


軽く飛ばされ、壁に打ち付けられて倒れる。なんだよ、これ。


身体が動かない。意識が遠のいていく。


「本当に、何も変わってねえんだな」


お兄ちゃんは、冷たい目で私を見下した。


「いいよ。そんなに信じれねえなら記憶は返してやる。それで、俺を殺したかったら殺せばいい。もう、お前は役目を果たしてくれたしな。好きにしろ」


意識が暗転するつかの間、そんな言葉が私の耳に残った。











気絶した時に魔力を流し込み、記憶を返す。彼女は起きたら、真っ先に俺を殺そうとするだろう。

だが、これも仕方のないことだ。

此奴らの役目は、リルを引き付けること。俺は直接的に動かず、バレずにリルの行動を監視したかった。

それにはやはり、おとりがいる。そんな時に役に立ったのが此奴らだ。

外へと活発に出て、誰かと接触をしてもらうことで、此処に王族の娘たちがいる。という情報をばらまいてもらう。兵士たちに遭遇してくれたおかげで、リルにも情報がいき、彼女の姿を実際に見ることが出来た。ルナを殺すように仕向けることで、短いがリルの力は少しでも見れ、魔力も見ることが出来る。それは殺しの材料として必要だ。

そして、ルナが死んだお陰で復讐という行動パターンを得られる。俺の目的はリルとの接触、そしてレインとの合流。この二点である。


レインと合流さえできれば、リルの部下として働いているで彼女なら、リルの動きなどを見ることが出来る。

あとはレインと話しあって計画を立てれば、ナナの敵討ちは目前と言っても過言ではないだろう。



「…悪いな、レイン」


「別に。私は何もしていないし、話を聞く限り、随分大変だったらしいじゃない」


「それを言ったらレインも大変だっただろ」


「ええ。バレたら殺されるもの」


レインは妖艶に口の端をあげて笑った。


「レイン、お前………成長したな」


「それを言ったら貴方だって、随分顔つきが変わったわね」


「何はともあれ、再びこうしてレインと会えて、俺は嬉しいよ」


「それは私も同じ気持ちよ」


「今日はゆっくり寝るといいわ。明日また、話しましょう」


「……鳴呼。また明日」


「ええ。お休みなさい」





扉が閉まった。

どうやら此処は俺の部屋らしい。


「……はぁ」


これから、どうしようか。



「やあやあ少年。でっかい溜息何てついてどうした⁇やっぱり一人で寝るのが寂しいのか~?仕方ねえ、俺が子守歌でも歌ってやろう!」


にゅ。

俺の目の前に、俺と瓜二つの顔面が現れた。



嗚呼。五月蠅い奴が来た。



アルは露骨に顔を引きつらせるのであった。






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