Ⅻ 「アル視点」 「時視点」
「おい、おい?ナナ?」
肩を揺らす。しかし反応はなかった。
「嘘…だよな?」
瞳は虚ろ。どこか、遠い所を見ているみたいだった。
「ナナっ…」
ナナに生かしてもらったのに、足が動かない。それよりも動かないナナに、俺は呆然としていた。
死んだ?
「……死んだ?」
声に出して、反芻する。彼女は、動かない。
どこか、やりつきったような、安堵したような顔をしていた。
流れ出る血のように、体温が少しずつ下がっていっているのが分かった。
「ナナ?」
足音が聞こえた。
周りを見ると、ナナを殺した兵士たちが、武器を構えて俺を囲んでいた。
「...そうだ、こいつらが」
拳を握りしめる。
「死ね!悪魔が!」
目の前にいた兵が、俺に向かって剣を振り下ろした。それを、間一髪でよける。
その兵と入れ替わりになるかのように、三人の少女が飛び出した。
「死ね!ナナ姉が死んだのも!全部お前のせいだ!!」
萌黄色の髪を靡かせ、一人の少女が剣を掴み、襲い掛かった。
じわり。
心の奥底から、何かが噴き出で来る。
殺さなければいけない。そう思った。俺の周りを、黒い魔力が渦巻いた。
少女達には見えていないのか、気にせず攻撃を開始した。
いける。
ゆっくりと俺はそいつに触れようとして──
身体が浮遊感に包まれた。
この感覚は…転移魔法?
もしや、アリアが……?
いや、違う。
俺の視界に、懐かしい水色の髪が映った。
「…………レイン」
泣きそうになった。
俺はそのまま、姿を消した。
______________
どうやら姿を消したのはどうやら俺だけではなかったらしい。
俺の近くにいたライ、フォル、ルアの三人まで転送されてしまっていた。
転移された場所は何処かわからぬ平地だった。周りには町もなく、村もない。本当に何もない場所だった。
三人は困惑したように辺りを見渡し、俺の姿を捉えると、即座に近寄り、胸倉を掴んだ。
「おいっ!お前の仕業か!?どこだよ此処!」
ほぼ八つ当たりのように、俺に向かって叫んだ。俺だって此処が何処かなんてわからない。
ただ、ナナを探していた時に、この国の大体の地形は把握している。
方角を見る辺り、どうやら此処はまた、王都とかけ離れたところらしい。
「何か言ったらどうなんだ!?役立たずの分際で!」
黙っている俺に連れを切らしたのか、後ろに立っていたフォルが俺に殴りかかった。一言言わせてもらおう。ぬるい。
王女であろうとも、うちの王国では王族は基本、剣術や体術を習わされる。
俺は習わさせてもらえなかったため、ナナやレインの指導を←みっちりと受けさせてもらった。それにしても、これまでか…。
俺は単純な突きだけのパンチを回避し、仕返しとも言わんばかりに鳩尾に蹴りを入れた。フォルは、体を痙攣させて倒れると、そのまま動かなくなった。
「…あれ」
てっきり反撃してくると思ったんだが。
つついても反応がない。どうやら気絶したらしい。
そんな俺を見て、ライとルアは戦慄したように此方を見て、やけくそのように襲い掛かってきた。
駄目駄目。動きが単純すぎて見切れてしまう。二人の首に軽く手刀を入れる。
すると、力なく倒れこんだ。
「…はあ」
疲れた。身体的には疲れてないのに、何故か体は重かった。
心はもう、ボロボロなのかもしれない。立ち上がって、ナナから貰ったナイフを見た。
それで、三人の首を掻っ切ろうとして、やめた。こんなの、腹いせだ。
此奴らは、死んでも構わない。むしろ死んでほしい。でも、此奴らを今殺しても、何にもならない。
「せめて死ぬなら…役に立ってもらわないと」
俺は三人の頭の上で、“魔力”を練った。
「もう遅いんだよ…」
今更力が目覚めたって。でも、タイミングとしては悪くはない。
とある魔法を発動させる。
俺は頭の中に、かつての母を思い浮かべる。あれは母じゃない。敵だ。
俺はあいつを、リル・キロファレンゼスを殺さなければいけないのだ。
そう決意すると俺は、ナナから貰ったナイフを片手に、自分の頭に、勢いよく突き刺した。
頭の次は足、腕、手、刺して、刺して深い傷を残した。
どうせこんなものは、直ぐに治る。
俺は、アリバイ作りをしなければいけないのだから。
俺は、痛みに溺れ、意識をたった。
◇
「──という感じで、お前らには記憶操作の魔法をかけて、一時的に記憶を消し、そのあとお前らの言うお母さんに拾ってもらい、お前らが能力に目覚めるのを待ってたってわけ」
お終い。というようにお兄ちゃんは手を叩いた。正直言って、信じられない。
一体この人は、何を言っているんだ?
「えっと、お兄ちゃんは私たちが殺そうとしているリルって人の息子で、私たちもその人の娘で姉だったナナさん………?が殺されて、復讐しようとして私たちを陥れたってこと…?」
よくわからず、思ったことを述べると。
「ま、言い方によってはそうなんじゃねえのか?」
悪びれもなく笑った。
「ね、ねえ。じゃあさ、本当にリルって人さが私たちのお母さんだったとしても、私たちを育ててくれたお母さんは、お母さんはどうなったの!?」
ずっと私たちを一人で育ててくれた、大切な人。
「ん、殺した」
真顔でお兄ちゃんはそういうと、ナイフを弄ぶ。
「ぉ、お前えぇえーーーーーー!!!!」
気づけば、叫んで殴りかかっていた。
「ぬるい」
お兄ちゃんはそういうと、全力で殴り掛かった腕をいともたやすくよけ、私の鳩尾へと蹴りを入れた。
「っかは」
軽く飛ばされ、壁に打ち付けられて倒れる。なんだよ、これ。
身体が動かない。意識が遠のいていく。
「本当に、何も変わってねえんだな」
お兄ちゃんは、冷たい目で私を見下した。
「いいよ。そんなに信じれねえなら記憶は返してやる。それで、俺を殺したかったら殺せばいい。もう、お前は役目を果たしてくれたしな。好きにしろ」
意識が暗転するつかの間、そんな言葉が私の耳に残った。
◇
気絶した時に魔力を流し込み、記憶を返す。彼女は起きたら、真っ先に俺を殺そうとするだろう。
だが、これも仕方のないことだ。
此奴らの役目は、リルを引き付けること。俺は直接的に動かず、バレずにリルの行動を監視したかった。
それにはやはり、おとりがいる。そんな時に役に立ったのが此奴らだ。
外へと活発に出て、誰かと接触をしてもらうことで、此処に王族の娘たちがいる。という情報をばらまいてもらう。兵士たちに遭遇してくれたおかげで、リルにも情報がいき、彼女の姿を実際に見ることが出来た。ルナを殺すように仕向けることで、短いがリルの力は少しでも見れ、魔力も見ることが出来る。それは殺しの材料として必要だ。
そして、ルナが死んだお陰で復讐という行動パターンを得られる。俺の目的はリルとの接触、そしてレインとの合流。この二点である。
レインと合流さえできれば、リルの部下として働いているで彼女なら、リルの動きなどを見ることが出来る。
あとはレインと話しあって計画を立てれば、ナナの敵討ちは目前と言っても過言ではないだろう。
「…悪いな、レイン」
「別に。私は何もしていないし、話を聞く限り、随分大変だったらしいじゃない」
「それを言ったらレインも大変だっただろ」
「ええ。バレたら殺されるもの」
レインは妖艶に口の端をあげて笑った。
「レイン、お前………成長したな」
「それを言ったら貴方だって、随分顔つきが変わったわね」
「何はともあれ、再びこうしてレインと会えて、俺は嬉しいよ」
「それは私も同じ気持ちよ」
「今日はゆっくり寝るといいわ。明日また、話しましょう」
「……鳴呼。また明日」
「ええ。お休みなさい」
扉が閉まった。
どうやら此処は俺の部屋らしい。
「……はぁ」
これから、どうしようか。
「やあやあ少年。でっかい溜息何てついてどうした⁇やっぱり一人で寝るのが寂しいのか~?仕方ねえ、俺が子守歌でも歌ってやろう!」
にゅ。
俺の目の前に、俺と瓜二つの顔面が現れた。
嗚呼。五月蠅い奴が来た。
アルは露骨に顔を引きつらせるのであった。




