Ⅸ
「はあ”っ、はぁ” ──」
「………アル。貴方息上がりすぎじゃない?」
「うる…せえ!全然平気だわ!」
嘘です。死にそうです助けてください。
黒狼を倒した後、俺たちは廃村から離れ、ナナが行きたいと言っている街へと向かっている。
こんなところに町なんて聞いたことないぜ?と言うと、その町は王都とかけ離れているため、そこまで発達していないらしく、知名度は低いらしい。
なんやかんやで行くことになり、現在夜通し走り続けているのだ。ナナみたいに超人でもなく、ちょっと鍛えただけの凡人なので、平然としたナナとは違い、今、体力が底をつきかけている。
ふらつきながら走っていると、前を走っていたナナが仕突如、動きを止めた。
敵襲か⁉︎と思い身構えた。しかしナナはそういう素振りは見せず、俺の方へと振り向き、一言。
「………アル。貴方もうそろそろ限界じゃないかしら?」
「……」
「確かに、無茶を言った私にも非があったわね。ごめんなさい」
ナナは申し訳なさそうでそうでもないような表情をして俺の額に触れる。
「ちょっとしたおまじないよ」
ナナの指先に、銀色の魔力が集中し、俺の額へと溶け込んでく。
「おお…」
何だか身体がすっきりした気がする。ナナは再び視線を前に向けると、走り出す。
唐突でよくわからなかったが、慌てて遅れないようにナナについていく。
「………あれ?」
ナナが俺に魔力を注いでから起きた、不思議なことがある。
まず、何故かいくら走っても疲れないこと。それから、驚くほどに体が軽く、先ほどまではナナのーメートル後ろにいたのに、今はナナの隣で並走しているのである。簡潔に言えば、身体能力が上がっているのだ。
これは有難い。疲れずに走り続けられる方法何てよく存在したな。
「………有難いは有難いんだが最初からやってくんね?」
「疲れているあなたがあまりにも面白かったから……」
駄目だ。そういえばナナはこういうやつだった。
「……ナナは転移魔法って使えないのか?」
疑問に思い、聞いてみる。
転移魔法さえ使えたら、こうやって走らなくてもいい。ナナは基本魔法を扱える。てっきり転移魔法も使えると思っていた。
「馬鹿ね。使えていたらもう使ってるわよ」
「そうだよな。ごめん」
「…私は魔法が苦手なのよ。しかも転移魔法なんて、レインがぽんぽん使ってるだけであれは普通に使えないわよ。一度に大量の魔力を消費するのだから」
そうなんだ。王宮で転移している兵士とかを見たことがあるからてっきり結構な人が使えると思っていた。
「兵士たちが転移したりできるのは、レインみたいな転移魔法を使える者の魔力を込めた魔石を使うのよ」
「魔石?」
「ええ。結構高価な代物よ」
「あ、着いたわね」
そういってナナは減速し、歩き始める。
「…早くない?」
確か予定ではあと二週間も走り続けないと行けなかったはず。それをたった数時間にも縮めるなんで...。やはりナナはすごい。
「そりゃ私の魔力の加護があればこんなものよ。全力は出してないけどね」
「……うざい」
「はいはい」
「そうだわ、これ着ておきなさい」
ナナが俺に向かってローブを投げる。
俺たちは今や国のお尋ね者だ。顔や名前は広まっているのだろう。フードを深く被って顔を隠す。
こんなところでバレて死ぬなんて絶対に御免だ。それに、俺だって支えてくれるナナの要望だって聞いてあげたい。
「さて、アル。あの看板になんて書いてあるか読めるかしら?」
「リオル」
「流石ね。ちゃんと勉強しているだけあるわ。そう、この町はリオルよ」
よくわからんところに転移され、それからナナについていっていたくだけだが、感覚的に王都からはかけ離れているだろう。
「もっと田舎だと思ってたんだけど……」
そういい、俺はあたりを見渡す。その土地の中に沢山の家や店が並んでおり、多くの人で溢れかえっている。
「私もここは初めて来たのよ。早いところ宿を取ってゆっくり周りましょう」
心なしかナナは嬉しそうだった。
「因みに今の所持金ってどれくらいなんだ?」
「ごめんなさい。あまりにも急な展開だったから私の部屋にあったお金しかないのよ」
それ大丈夫なのかよ………。不安に思うと、
ナナはやけに大きな袋を出現させ、俺に渡す。中を見ると、輝く黄金が目に入った。
レインたちとお忍びで遊んだ日に、ナナが説明してくれたお金。である。あの後学びとして、お金のことを調べた。
「……ナナ。もしかしてこれ金貨?」
「ええ。そうよ?その袋の中だと金貨ざっと1000枚くらいしかないんじゃないかしら?」
十分すぎる。多分これくらいあれば一生遊んで暮らせるたりう。
「………絶対取られんなよ?」
「勿論よ」
ナナは袋を持つと、指を鳴らして仕舞った。
「どこにやったんだ?」
「私の空間よ」
もう能力者の言うことはよくわからない。というか全然分からねえ。
取り合えず聞いた身なので、分かったような顔して頷いておいた。
「お二人様ですか?」
「ええ。食事は大丈夫よ」
「畏まりました」
ナナとしらない人が話しているのを眺めながら、俺は外を眺めていた。不思議な気分だ。お忍びした時とは違って俺は解放感に包まれていた。
俺は何だかんだ、あの家から離れたかったのかもしれない。人々は明るい表情をして、協力し合い、笑いあっていた。
「…」
「アル。行きましょう」
受付が終わったのか、ナナが此方へと寄って、話しかけてきた。
「おう」
階段を上がる。部屋に入って、早速暑苦しかったローブを脱ぎ捨てる。
「いっそのこと変装の魔法でも使いたいわね……」
ナナは床に寝転ぶと、大きなため息を付いた。
絶対に王族がやらないような行動である。ちゃんと椅子に座った俺が馬鹿みたいだ。いいな。俺も寝転がりたい。
「使えばいいじゃん」
なんならそっちの方が楽だろう。
「そうしたいところだけど、こんなところで魔力を使うより、何かあったときの為に温存しておきたいのよ」
確かに。盗賊とかの奇襲にでもあえば、ナナの力は必要不可欠になる。
そのときに変装に魔力を注ぎつつ戦うなんて、効率が悪すぎるのだ。一旦ここは、我慢するべきだろう。
「…………ナナは何でこの町にきたの?」
「ちょっと見たいものがあってね」
「……それってちゃんと見れるのか?」
「ええ、時期が会えばよ。もし見れなかったら見れるまで此処に滞在するって決めてるんだから」
「さらっと俺を巻き込んでるよな。それ」
「アルだって私を巻き込んでるんだから、お互い様よ」
ずるい。そんなこと言われたら何も言い返せないじゃないか。
「……分かった。ナナが満足するまで付き合うよ」
「ええ。お願い」
ナナは笑うと立ち上がり、ベッドに寝転がる。
「今のうちに寝ておきましょ。アルも疲れているでしょう?」
「何言ってるんだ?今昼だぜ?ていうかお前のおまじないとやらの加護のおかげでピンピンしてるから大丈夫なんだけど」
「…五月蠅いわ。早く寝なさい」
「…お前なんか企んでるだろ」
「別にそんなんじゃないわよ。ただ今のうちに寝ておきなさいってだけ」
俺はナナを訝しげに見つめる。彼女は気にした様子もなく枕に頭をのせ、目を閉じた。
本気で寝るつもりらしい。絶対に何かを企んでいる気がする。しかし、このまま何もしないのも暇だ。大してやることもないし…体力温存のためと思って俺も寝ておこう。
俺は床に寝転がると、心を無にするのであった。
◇
「おはようアル。いい朝ね」
やはりナナは何かを企んでいたらしい。
肩を強請られ、睡魔が逃げ出した時、俺の顔前には銀髪が特徴的なナナの顔があった。
「……朝じゃなくて夜じゃねえか」
辺りは真っ暗。どう考えても朝ではない。
「確かにそうね。じゃあ、こんばんわ」
そういう意味じゃねえよ。
「こんな夜に起きて、何をするってんだ?」
「別に大したことじゃないし、貴方や私がすることはなにもないわ」
「…?」
首を傾げる。何を言っているかわからない。が、ナナが物凄くご機嫌なのは、目に見えて分かった。ナナは俺に背を向けると、着いてきなさい。とだけ言った。
よく分らんが頭がよく回らんので取り合えず頷いて、着いていくことにした。
階段を上がると、そこにはバルコニーがあり、夜の景色が大きく広がっていた。
それを見た瞬間、先ほどまで俺を誘惑していた眠気は、
一気に吹き飛んだ。
上を見上げると、夜空と目が合った。きらきらと一つ一つの星が輝いているのが分かる。
薄っすらと雲に隠れる月は、神秘的な光を放ち、地上を照らしていた。しかし、何よりも俺の目を引いたのはく夜空だった。そう。普通ならば夜空は黒く、そして淡い。しかし、この空は違った。
紫色なのだ。無限に広がる空は、深淵な紫に染まっていた。
闇夜に溶け込んだ紫は、月の美しさをより引き立てていた。
美しい。と思わずにはいられなかった。
「…綺麗ね」
ナナは何時もの笑顔を少し崩すと、頬を緩めた。
「ずっと、ずっと見たかったのよ」
独り言のように、空から目を離さずにぽつり、と彼女は呟いた。
「あの人が愛した空を。あの人が作り上げたものを」
「……?なんの話をしているんだ?」
見たこともなく、噂だけを聞いたことがとあるとナナは言っていた。
この口ぶりだとまるで、この空を知っているみたいに聞こえる。
「...いいえ、何でもないわ」
ナナは落ち着いたように此方を向き、笑う。
「……そうか」
「……まあ、でも見れてよかったな」
「そうね。有難う。アル」
ナナは本当に幸せそうに笑った。この空を見るためだけに、あんだけ走ったのだ。
綺麗だとは思うけど、それほどのものなのか?
そう言いかけて、やめた。ナナにとってはきっと大切なものなのだ。俺が勝手に触れていいものでは無い。
ナナは思い出したように手を合わせて、目を瞑った。数秒くらいすると、目を開け、再び視線を夜空へと戻した。
「何してたんだ?」
「願い事よ」
「願い事?ナナも案外お子ちゃまなんだな」
俺は鼻で笑って馬鹿にするように言った。
「いいえ。邪な願いじゃなきゃ叶うわ。必ずね」
またまた。冗談が上手い奴だ。
笑いながらナナを見る。目がガチだった。
「……え、マジなの?」
「マジよ」
ナナが大真面目な顔で頷いた。
「……因みに、今からお願いしてもいける?」
「無理よ。一回きりの流れ星が通ったときにお願いしないといけないんだから」
「先言えよ⁉︎ナナの馬鹿!」
「あら、願い事を星に向かってするのはお子ちゃまなんじゃないのかしら?」
「ぐぬぬ…」
折角『ナナと俺が安全に過ごせますように』ってお願いしようと思ったのに…。
「あ、そろそろ日も昇ってくるだろうし準備し始めましょうか」
ナナはもう用はないとでもいうように、バルコニーから出ていく。
「アルも早く来なさい!日が昇ったらも人も多くなるわ、早く街から出ましょう」
「…はーい」
返事をして薄くなった夜空を眺める。
「願い事、しとけばよかったな………」
アルはがっくりと項重れるのであった。
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