Ⅲ
「…何の用ですか。お母さま」
透き通った銀髪が特徴的な女神、ことナナはいつもの表情で母に笑いかけた。
が、僕は知っている。現在のナナは絶賛不機嫌中だ。
でもまあ分からなくもない。
朝起きた瞬間に僕たちは母に呼び出されたのだから。
因みにナナは朝に弱い。
「ごめんなさい。大した用じゃないんだけれども……」
「いえ、全然大丈夫ですよ!」
お母さまは相変わらずナナしか視界にいれていない。分かっていても心には来る。
ここにナナがいなかったら、耐え切れなかっただろう。
「でも、一つは大切なことよ」
「貴方、ライたちに手を出したみたいじゃない」
「嗚呼、あのことですか。少々見ていて気分の良いものでは無かったので」
ナナは隠すことなく言った。変にはぐらかしても無駄だと悟ったのだろう。
「たとえ彼女達が何かをしていたとしても、大切な家族なのだから手を出してはダメよ。ちゃんと教えてあげなさい」
「手を出したら駄目。とは、この城にいる全員に共通しているものなのですか?」
「ええ、もちろんよ」
「それでは、彼女たちはアルに手を出していましたよ?それは宜しいのでしょうか。この件では、彼女たちに比があると思います。ライたちに指導をお願いします」
急に名前を呼ばれ、肩を震わせる。ナナは此方を尻目に、より一層笑みを深める。
きっと優しいナナのことだ、少しでも僕が傷つかない環境を作ろうとしてくれているのだろう。
王女は猛大な溜息をつく。
太陽に照らされ、彼女の金髪がきらきらと輝いた。
「…少し考えておきましょう」
リルは頬図絵を付きながら険しい顔で答える。
「ありがとうございます」
「それで、御用とはこのことでしょうか?」
「ああ、話がそれたわね」
「とある王族からの紹介で、此方でそこのご令嬢を預かることになったのよ」
「まあ、仲良くしておきなさい」
「分かりました。ご令嬢はどこに?」
「丁度中庭にいるはずよ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
ナナは当たり前のようにドレスの端を持ち上げ敬礼すると、僕を連れて扉に手を掛けた。
「本当にメンドクサイワネ」
謁見の間からでた直後、ナナは、はあああぁあ、と口から魂を吐き出すかの如く肩を落とした。
「うん。ナナはすごいよ」
「それ、いい意味に聞こえないのだけれど」
じと、とした目を此方に向けてくる。母に対する態度と、普段の自分のメリハリがい凄いということを言ったつもりなのだが。
「ま、いいわ。ご令嬢に会いに行きましょう!」
「媚び売ってくるタイプじゃないといいね」
「安心しなさい、結構いい感じの子が来ると思うわ」
「なんでそう言い切れるんだよ」
思わず笑ってしまった。
太陽に照らされ、透明な瞳がより一層透き通る。綺麗だな、なんて不覚にもそう思ってしまった。
ただ、ナナの感は当たりやすい。
そうだといいな、と思いながらナナの背中を追いかけるのだった。
てか、なんで僕呼ばれたんだろ。
◇
「…お久しぶりです。ナナ・キロファレンゼス様」
淡い白色のドレスが似合う少女がそこにいた。
シンプルなドレスだからこそれ彼女の美しさがより引き立てられていた。
紅色に染まった瞳は、吸血鬼の象徴と言える。
宝石のように鮮やかな水色の髪に重なる紺藍色の髪が、より一層目を引いた。
「…お久しぶりです。レイン・フォン・アイジスト様」
対して、ナナは歓迎しているというように何時もの無垢で天使のような笑顔を浮かべた。
「そちらの方は?」
レイン嬢に声を掛けられ、気づく。何時の間にか自分に話題が回って来たようだった。
「お初にお目にかかります。レイン嬢。僕は第一王子のアルです。以後、お見知りおきを」
人と交流することが少ないので、敬語がしどろもどろになってしまった。
「ご丁寧にありがとうございます。殿下」
殿下って、と思わず苦笑してしまう。
対して自分がそこまで身分を高く扱われる必要はない。
「レイン様?私、貴方とお話がしてみたいの」
「奇遇ですわ。私も今そう思っていましたの」
「ふふふ」
「ふふふ」
傍から見れば仲良さげに喋る王女達だが、彼女たちの中で何らかの意思疎通を感じられたのは気のせいだろうか。
微笑む二人の後についていく。
すると、とある一室に着いた。そう、ナナの部屋である。使用人はいたのだが、
ナナが即座に天使の攻撃を放ち、
今部屋の中にいるのはナナ、レイン嬢、僕。の三人である。
机に向かい合って座った瞬間、レイン嬢は気が抜けたかのように机に倒れこんだ。
「ああ~疲れた〜」
「あら、お疲れ様。敬語で話すあなたをく見ると吐き気がして仕方がなかったわ」
ナナが物凄い失礼なことを言った。
「ちょっ、ナナ⁉︎」
焦って立ち上がる。何機嫌を損ねそうなことを……。
「あら、貴方こそあの笑顔、やめた方がいいと思うわよ?鳥肌が止まることを知らなかったわ」
「それは貴方の肌が可笑しいだけよ」
毒を吐きながらも、二人は冗談を言い合うように笑った。
「えと…?」
「あら、ごめんなさい。ナナから話は聞いてるわ。アルって呼んでもいいかしら」
「いい…ですけど」
「敬語は外してもらって大丈夫よ。あ、あと私のことはレインでいいわ」
「注文が多いわね」
「ナナ、あんたは黙っておきなさい」
「じゃあ遠慮なく。レインはナナと知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとしたきっかけでも出会ったんだけど、気づいたら親友よ」
「別にあなたのことを親友なんて思ってないわ」
「ツンデレ出してくるのはやめなさい」
会話的にも、本当に仲が良さそうだ。ナナに関しては珍しい。
心を許せる相手がいたのか….。
「二つ目の質問。レインは何でここに来たんだ?」
「別にナナと親友だからって態々お邪魔しようだなんて考えてもいなかったのだけれど、知らない間にお母様が話をつけてたみたいで、今日から此処でお世話になることになったわ」
「因みに私は魔法を使えるのよ。だからその力を使って軍事的なことに携わるみたいね」
「ま、ざっとこんな感じよ。他に質問は」
レインが話している間だというのに、居ても立っても居られず僕はレインに勢いよく近づいた。
「すごい!すごいじゃん!レインってば、魔法を使えるの⁉︎」
「え、ええ」
「使える人なんて極わずかだし、賢者様の本でしか魔法なんて見たことがないから!」
「そ、そう。ま、褒められて悪い気はしないわね…」
そういいながら、彼女は自分の髪を弄ぶ。
「どっちがツンデレなのよ。というか私を空気にするの、やめてもらっていいかしら」
「「あ、ごめん…」」
「二人仲良く肩を落としてんじゃないわよ…」
「話が脱線しすぎてるわ。正気に戻りなさい。レイン」
レインははっとしたように目を見開くと、わざとらしく咳払いをした。
「…見苦しいところを見せてしまったわ」
「突然なのだけれど、私でよければアルに魔法を教えさせて貰えないかしら」
「え…⁉︎本当に⁉︎」
「ええ、私でよければ力になりたいの」
「ありがとう…。レイン、ナナ!」
僕のことは隠れた王族として有名らしい。能力を持たない哀れな子。
と世間的には評価しているらしい。
「魔法を使えるとなるとそれはそれで注目されるだろうしね」
「…」
「…レイン」
「?」
「何かしら…?」
「その、良かったら…。僕と、と、友達になってくれないかな…?」
絞り出すような声になったが、言えただけ偉いと思う。
しばらく沈黙が続く。恐る恐る顔をあげると、嬉しそうな表情をした少女がいた。
「ふふっ、喜んで!」
そしてアルは友達を確保するのであった。
ナナやレインという心強い友達がいれば、
この先何とかなるかもしれないな…。
「早速、森にでも行って訓練を開始しましょうっ⁉︎」
べちーん!
レインが突如、何の変哲もない床に躓いてこけた。
…………きっと、彼女たちがいれば、これからも何とかなるはず…。
.......多分。
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