10 「時視点」
少し遡る
◇
「抵抗はしない。俺たちを連れて行ってくれ」
場が静寂に包まれた。
頭の中が疑問で埋め尽くされる。
何を考えているのだろう。
兎に角、此処で捕まったら終わりな気がする。
走って逃げたいところだが私たちは完全包囲され袋の鼠状態。
先ほど蹴散らした盗賊どもとは違って服装は硬そうな鎧。
それから兵士ということもあり日々鍛錬に打ち込んでいることだろう。
まず、ナイフと剣じゃ釣り合わない。
一か八か賭けるしかない。
兵士の一人がお見ちゃんに近づいたとき、首に掛けてある時計に微かな魔力を送る。
魔力の流れに気づいている者は一人もいなかった。
目を瞑り、全神経を集中させる。
ー止まれ
時計が一瞬、淡い光を放つと、秒針を刻む音だけが響き渡る。
目を開ける。
先ほどの状況と変わらずに固まった空間が広がっていた。
「…よし」
本当なら障害として邪魔になりそうな兵士達を殺しておきたかったが、この空間に長居しすぎると代償が大きなってしまうので、諦めることにした。
お兄ちゃんたちをを “浮かす”
最初はこんなことを出来るなんて知らなかったが、試していくにつれて分かった。
私はこの世界なら、基本自由に動くことが出来る。
魔力の制御は前よりも断然良くなったし、代償もある程度抑え込むことが出来る。
能力が自分に浸透していくにつれて、上手くはいかなくとも、
多少は自由自在に操れるようになったのだ。
全員を浮かせば、此方が持ち上げる負担もなく、スムーズに済ませられるってわけだ。
"身体強化 ”をかけて先ほどの位置より遠く離れた場所へと移動する。
浮かせて移動するまでにかかった時間は五秒。
これだけでも代償は酷くなる。
心の中で念じ、時間を動かす。
時計が再び淡い光を出して輝くと、
全員が困惑したようにあたりを見渡した。
◇
「つまり!僕たちは時さんの力によって此処に連れてこられたということですか⁉︎」
状況説明を終えてすぐ、ランゼ君は興奮したように立ち上がる。
「すごい…!あの状況を切り抜けられるなんて…!」
「流石です!」
ずいっ、と距離がまた近くなる。
うん。近いよランゼ君。
「あはは…。ありがとう」
「尊敬します!あの、時さんが良ければ師匠と呼んでもいいでしょうか…!」
急すぎない?
というか出会ってそんなに時間経ってないけど...。
「お願いします!」
「え、ああ、うん。いいと思うよ」
苦笑することしか出来ない。
別にいいけど勢いに負ける癖なくさないとな…。
「そういえば、時、大丈夫なの?代償?」
「嗚呼…」
お姉ちゃんが心配そうに私の顔色を伺ってきた。
「体調が悪そうには見えないけど…」
「今は大丈夫だよ」
「あ、そうなの!なら良かった~!」
姉は安心したように息をつく。此方側としてもなるべく迷惑は掛けたくないし…。
「……?」
ランゼ君が空を仰いだ。
ランゼ君が近くにいた私とお兄ちゃんを突き飛ばす。
刹那、ランゼ君の腹部を鉄球が貫いた。
「あがっ⁉︎」
そのまま倒れて苦しむように悶える。
「邪魔だ。糞餓鬼」
感情のない声が、静まった空間に響き渡った。
そこには、血濡れた二つの悪魔が立っていた。
奴らは、静かに私たちを見下ろしていた。
一体…何が…
誰も動けずに、赤く染まっていく少年を見ることしか出来なかった。
「あ”ぁ」
喉に何かが突っかかったかのように、何も言葉が出なかった。
心配する言葉さえもかけてやれない。
このまま少年は死んでしまうのだろうか…?
私はまた、誰かを目の前で失うのだろうか…?
そんなの、嫌だ。
母さん。ルナ。私はどうしたらいの?もう誰も、失いたくないのに…。
暖かい何かに、包まれた気がした。
気づけば前には、微笑む母と、ルナが立っていた。
そして私に背を向け、歩き出す。
「待って!」
走って追いかける。ずっと走って、走って、走って触れそうになった時、
辺りが真っ黒になった。
「…え?」
空もない。誰もいない。そんな場所に私の声が虚しく響いた。
「うわっ⁉︎」
突如、体の重心が傾いた。
黒く染まった地面に飲まれていく。
言葉を発しようと口を開けようとしても、どんどん飲まれていく。
暴れる間もなく、私は闇に溺れた。
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