6 「時視点・ランゼ視点」
地下は案外簡単に行くことが出来た。
まず、偶々出会ったボスっぽい奴を倒すと、鍵が出てきたので地下に伝わる部屋を丁重に問いただすと、直ぐに教えてくれた。
扉を開けると、下へと続く階段があった。
「この廃墟凄いね」
「そうだね」
他愛のない話をしていると、一つの扉が目に留まった。
開けると、そこは広大な牢獄だった。
誰もが鎖に繋がれた腕を必死に引っ張り、鉄格子から顔をのぞかせる。
助けが来たと思ったらしい。此方に向かって助けを求めている。
出来る限り助けてあげたいが、今の私には何もできない。
人を気絶させたり、殺したりすることはできるが、流石に人よりも固い鉄格子は、ナイフでも切ることはできない。
実際、手に入れた鍵は、ランゼ君の弟と、数個の牢屋だけを開けることが出来きる。
どうせなら全部鍵を統一していてくれればやりやすかったのにな、と思った。
私たちは弟君の顔は分からないので、ランゼ君に先導してもらっている。
「此処、此処です!」
ランゼ君は、一つの牢屋の前に立つとお姉ちゃんに向かって叫ぶ。
「おっけ~」
軽く返答すると、姉は鍵を取り出し牢屋の鍵を開けた。
刹那、ランゼ君は痺れを切らしたかのように飛び出し、牢屋の中へと入った。
中には、鎖に繋がれている少年がいた。
ランゼと瓜二つの少年は、驚いたようにランゼ君と私たちを凝視していた。
「に、兄さんなの…?」
「鳴呼!そうだよ!シルファ!」
すると兄だと気づいたのか、少年はランゼ君に勢いよく抱き着く。
二人は只管幸せを嚙みしめるかのように抱き合って笑っていた。
「…よかったね、会えて」
「はい、ありがとうございます!時さん!」
泣きじゃくりながら、此方に勢いよく頭を下げてお礼を述べる。
「それじゃ、俺たちはもうお役御免ってことだ。早くいくぞ」
「そうだね」
「ま、まってください!」
踵を返そうとすると呼び止められ、振り返る。
「僕らも、僕たちもお供させてください!」
唖然とした。何を言っているのだろう。この子供は。
私たちが今から成し遂げようとしていることは、深い罪となる。
私たちが殺そうとしている人物は、周りに支持され、絶大な頼を勝ち取っている英雄。その罪を何の関係もない子供たちに背負わせるわけにはいかなかった。
「ごめんね、そうすることはできない」
「何故ですか⁉︎必ず役に立ちます!」
「私たちは人殺しなんだよ?」
「人殺しになってもいいから、恩を返させてください!」
おいおい、最初と言っていることが矛盾しているではないか。これは諦めなさそだ。息を吐いて、先ほどとある一室で手に入れた新聞を取り出す。
「私たちは此奴を殺そうとしてるんだよ」
「どういうことか、分かったなら何も言わず静かに過ごすことだね」
そういって、ランゼ君に新聞を突きつけて歩き出す。
「時、なにしたの?」
「別に?早く行こ!」
本当はできることなら連れて行きたかったが、仕方のないことだった。
汗が伝う。私たちは本当に彼女を殺せるだろうか…。いや、殺して見せる。
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ランゼは呆然と突きつけられた記事を見た。
弟が隣りから記事を覗いてくる。
「お兄ちゃん、これって…」
「うん」
手が震えた。
「時さんたちは、こんなに大きな障害に挑もうとしてたんだな…」
胸が大きく高鳴るのを感じた。
「凄い…!」
漏れたのは感嘆の言葉。
何が何でも彼女についていきたいという思いがより強くなった。
僕はあの人に救われた。だから、僕だって恩返しをするしかなかった。
自分の唯一の家族、シルファは決意の固めた瞳で此方を見つめていた。
流石は双子、どうやら僕の気持ちを理解してくれているのだ。
「兄さん…」
「シルファ…」
「さあ!時さんたちのもとに行こう!」
「何で⁉︎絶対死ぬから逃げようよ⁉︎」
気持ちは理解してくれていても、意見はまったく一致しなかった。
嫌だ嫌だと叫び散らす弟を引きずって急ぐ。
「待っててね時さん!今行くよ!」
シルファの叫びが廃墟に木霊した。
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明るい日差しに照らされながら歩く。不思議と眠くはなかった。
「宿屋に戻るの?」
「嫌、金だけ払って出よう」
「わかった」
今さらだけど、お兄ちゃんってお金無限に持ってるよね。
どうやって分割して使ってるんだろ。
「うう~、服が血なまぐさいよ~」
姉が泣き言を零す。
「それはお姉ちゃんの殺し方が悪い」
「うっ⁉︎」
何も言い返せないのか、唸って黙った。
「まぁ、その格好だと面倒か。宿屋に戻ったら着替えとけ」
「あ~い」
お兄ちゃんって減茶苦茶用意周到なんだよね。
着替え持ってきてるとか有能すぎるでしょ。
それじゃあやることすませて早く行こっか、と言おうとしたとき、私はあり得ないものを見た。
それは見知った顔の少年だった。
きらきらした表情をしながら猛スピードで此方に向かってきていた。
片手には何かを掴んでおり、雑に引きずっていた。あれ弟君じゃないか?
「ときさあああああああああんっ!」
どうやらランゼ君で間違いなかったようだ。
突然の乱入者に姉と兄は目を剥いた。私の前で急ブレーキをかけ、止まる。
ぜーは一、ぜーはーと肩で息をしながら「良かった、間に合った」とうわごとのように呟いた。
「時さん!僕は貴方が何をしようとしていても、ずっとついていくと決めたんです!」
「どうかお供させてください!」
流石にこれは引く。多分断っても無理矢理ついてくると思う。
ていうか絶対ついてくる。
「まあ、うん、いいよ」
呆れ気味に了承してしまった。
「ありがとうございますっ!」
因みに引きずられていたのは弟君だった。シルファ君だっけ?
目が合ったとき、怯えたような視線を向けられた後、ぎこちない愛想笑いをされた。
「本当にあの方を殺すんですね…?」
ランゼ君が此方を向いて、確認してきた。
「…」
あの方とは、ランゼ君に突き付けた新聞に載っていた女のことである。
彼女はルナを殺した女と同一人物とみて間違いないだろう。
そう、彼女はこの国の王女、リル・キロファレンゼス。
私たちは、王女を殺害するのだ。
「うん。そうだよ」
「え、どういうと?あの方って誰⁉︎」と、姉が此方を交互に見て首を傾げる。
「僕は貴方についていくと決めました。盾にでも何にでもなりましょう」
目がガチだった。
「あ、うん、よろしく」
気圧されて領く。了承してよかったのだろうか…。
決めてしまったことは仕方ない。
きっと後でついてきたことを後悔し、逃げ出すことだろう。
それまでは飽きるまでついてきてもらうことにしよう。
「え、此奴ついてくんの?」
兄が明らかに嫌そうな顔をしてランゼ君を見る。
「なんですか?貴方よりは断然役に立つと思いますけど⁇」
ランゼ君は爽やかな笑顔で兄を見る。
私の知らないところでいつの間にかランゼ君はお兄ちゃんに懐いていたみたいだ。
笑顔の裏に何かを含んでいる気もするが気のせいだ。
きっとランゼ君はお兄ちゃんのことが好きだけど恥ずかしさのあまりに毒舌になってしまっているのだ。いわゆる照れ隠しだ。
「仲良いね。ランゼ君とお兄ちゃん」
「「え゛最悪」」
二人が同時に顔をしかめる。声もしっかり重なった。やっぱり仲がいい。
「時って偶にバカだよね」
「お姉ちゃんにだけは言われたくないんだけど」
「え…地味に傷つく」
「あ、あの…」
絞り出したかのような声で私の服の裾を引っ張る人物が一人。
「すみません、俺はどうしたらいいでしょうか…」
ランゼ君の弟君だった。
ごめん。忘れてたわ。心の中で謝罪しておく。
「ごめん!普通に存在忘れてたわ!」
お姉ちゃんが笑いながらあり得ねえことを言った。驚愕である。
やっぱり姉の方が馬鹿なのだ。改めて再確認できた。
姉を華麗に殴り飛ばす。まじで一旦黙っとけお前。
「ごめんね?気にしなくていいよ?名前聞いてもいいかな?」
空気が最悪だったがもう仕方ない。私は凍った空気をスルーして笑顔で問いかける。こういうのは知らないふりをするのが一番だ。
「シルファです。兄がいきなりすみませんでした。嫌なら連れて行かなくてもいいんですよ…?」
なんていい子なのだろう。こっちにこんなに気を使ってくれるなんて…。
「ばっ、馬鹿お前、余計な事言うなよ!」
ランゼ君に滅茶苦茶叩かれていた。
「あ、うん。気遣いありがとね」
これはシルファ君の為にも余計なことを言うのはやめておこう。
「あのさ…」
お兄ちゃんが居心地悪そうに口を開く。
「仲良さげに喋っているところ悪いが」
「日も昇ってきたし人が増える前に血まみれの色連れて帰りたいんだけど……」
はい、すみません。三人同時に静かになった。
「え、何?呼んだ?」
丁度、先ほど殴られて目を回していた姉が起き上がった。
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