3
宿屋に戻り、荒らされた部屋に入る。少年は軽く動揺し、頭を下げた。
「すみません…」
泣きそうな声色でそう言った。姉を見る。
相変わらず何も気にしていなさそうだった。
そういう意味じゃ、この少年に対して、敵意はないように思えた。
次に兄を見る。気にしてそうだったけど諦めた顔をしている。
この様子じゃ、流石に手を出そうとは思っていないだろう。ただ、空気が悪い。
少年は居心地の悪いことだろう。
折角なので、話を始めることにした。
「それで?信用できないかもしれないけど着いてきたってことは余程のことがあったんだね?」
すると少年は、苦しそうな顔をする。
「本当はこんなことをしている場合じゃないんです」
「でも…」
少年は涙をこらえたように俯く。
「僕は、この町の住民です。いや、そうでした」
「数か月前までは、母と、弟と暮らしてたんです」
「でもある日の夜、突然知らない男達がや家に押しかけてきて、母を殺しました」
酷い話だ。どこか既視感が湧いた。いつしか、興味なさげだった兄と姉も、少年をじっと見つめていた。
「その後、弟と僕は無理やり倉庫らしき場所に連れていかれました」
「僕と弟は別々の場所に移され、大人しく従わないと弟も殺すぞ、と言われたんです」
脅し。下劣な手を使う。
「それからはずっと掏りをしています」
「このままじゃ、僕は人殺しになってしまうかもしれない」
着ていたローブの端を、少年は強く握る。
「それだけは…嫌なんです」
「勝手に巻き込んで、すみませんでした」
思いに任せたままに気持ちをぶちまけていたのか、
はっとしたように、急いで頭を下げた。
「…謝らなくていいよ」
自然に言葉が漏れた。
「…あの?」
優しく頭を撫でてあげた。まるで幼いころの自分を見ているみたいだった。
「大丈夫、私は何もできないけど…助けるよ」
「何もできないなら意味ないじゃん」
空気がぶっ壊れる音がした。姉を軽く睨んでおいた。
「ありがとう…ございます。そう言って頂けるだけで、嬉しい限りです」
少年はぼろぼろと涙をこぼしながら、笑った。
「え、もしかしてこれ私たちも行かなくちゃいけない系?」
さっきから姉が余計なことしか言わない。当たり前だろうが。
「そういう事情があるなら手を貸してやる。あくまで時が助けたいって言ってるからな」
「別にお前の為じゃないさ」
兄が上から目線で少年に言う。
「お兄ちゃん…ありがとうっ!」
取り合えず此処は感謝をしておくべきだ。これでうるさい姉を静かにしてくれる。
「ところで君、名前は?」
少年と呼ぶのもアレなので聞いておくことにした。
「僕はランゼです。よろしくお願いします。時さん」
あと、と困ったように姉を見る。
「ん?ああ!あたしは色だよ!よろしくねランゼ!」
「はい。よろしくお願いします。色さん」
仲が良くなりそうだ。微笑ましい。
そして、今気づいたかのようにランゼは兄を見ると、はんっ、と鼻で笑った。
沈黙が流れる。
ぶちり。
何かが切れる音がした。
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