2 「時視点」
「…え?」
部屋に戻ると、衝撃的な事件が起きた。
それは、部屋が滅茶苦茶に荒らされているのである。替えの為に持って来た衣服、
そして用意していたはずのお金。
どちらともいくら探しても出てこない。
「あ〜、盗賊か」
兄は残念そうに滅茶苦茶になった部屋を見渡す。
「いやなんでそんな軽いの⁉︎」
姉がしっかりと突っ込みを入れた。
「村でもたまに起きることはある」
「ただ、町の方が人も多いからな。犯罪者も多いってことだ」
これはどうしようもない、というようにため息を付く。
「お金なくなっちゃったんだよ⁉︎どうするの⁉︎」
姉が焦ったように言う。全くもってその通りである。
「まぁ、王都に行って復讐するくらいだし飯なしで歩いていけばいいと思うけどな」
「結構な距離あるよ?餓死するよ⁉︎」
「気合があれば何とかなるだろ」
二人が口論を繰り広げている間、私はあることに気づく。
「……ない」
可笑しい。ちゃんとしまっていたはずだ。
「どうしたの?時?」
急に何かを探し始めた私を見て、不思議に思ったのか姉が問いかける。
「…時計」
「時計?」
「お母さんから貰った時計、盗られちゃったかもしれない」
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空が深い青色になり、星が見えだした頃に私たちは動き出す。
夜の人通りは対して多くはない。ただし、朝の活気で満ちていた空気とは違い、今は微かに殺意が漏れ出し、張り詰めた空気だった。
そう、夜こそが犯罪者にとっての絶好の狩場。
命を狩るなら寝首を掻き、金を盗むなら標的が動いていない間に取れば良い。
夜とはそんな世界らしい。
そして、そんな中街のど真ん中を歩く私を狙う影が一つ。
私は今、黒いローブを被り、服装、顔を全て隠している。
ただ一つ、変えたことと言えば、香水を掛けたことだ。それから歩き方。
兄に教えられたように、ゆったりとした上品な歩き方をするこれだけで既に、
一匹が引っ掻かっている。わざと捕まえやすいように裏通りに入る。
一気にあたりが暗くなった瞬間、上から何かが降ってくる。
先ほどまで私をつけていたロープを被った奴だった。
私に覆いかぶさろうとした時、隠れていた兄が勢いよく蹴り飛ばす。
そいつは呆気なく壁に打ち付けらると、苦しそうに叩き声を漏らした。
「お前…、俺たちの部屋を荒らした盗賊か?」
兄は鋭い眼光で蹲った盗賊を射抜く。首にはナイフを当てていた。顔をしかめる。確かに盗賊と言えど、殺すほどではない気がする。
「お兄ちゃん…別に殺さなくても……」
お姉ちゃんが困ったように言う。
「…甘いな」
一瞬、兄が何かを呟いた気がした。
姉の表情を見る限り彼女も聞こえていなかったらしく、首を傾げていた。
「………そうだよ」
沈黙を破ったのは、盗賊の方だった。
「お前らの部屋を荒らして、金目の物を盗んだのは僕だ」
フードの隙間から、強い瞳が露になる。
「殺すなら殺せ」
盗賊の少年は時計やお金を此方に投げる。急いでキャッチする。
こんなにも呆気なく盗んだものを返すのだろうか。
もしかしたら、この子は何か事情があって盗賊をやっているのかも知れなかった。
「………お兄ちゃん、助けてあげようよ」
兄が首筋にあてていたナイフをどける。
少年は呆気にとられたかのように此方を見ていた。
「……はいはい、分かりましたよ」
兄が呆れたようにナイフをしまう。
「そんじゃ、早く行こうぜ」
そういって私と姉を連れて歩き出す。
少年はそんな私たちを呆然と立ち尽くして見つめていた。
「ほら、君も来るんだってば」
少年の手を引っ張る。困惑したように此方を見る。
「大丈夫!何かあったんでしょ?助けてあげる!」
そういって私は、はにかんだ。
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