1 「時視点・兄視点」
驚くほどに、犯人の特定は簡単だった。
まず、私たち二人を違れて兄が通りかかったおじさんに
「金髪で美しく、王都に関係している女性を知りませんか?」
と聞いた。その時は減茶苦茶驚いた。
「お兄ちゃんってこういうの向いてないよね」隣りで姉が小言を呟いた。
珍しく同感だ。もうちょっと慎重にやってほしかった。
いきなりそんなことを聞いたら怪しまれるに違いない。
問われた当の本人は怪訝な顔することなく、特に気にした様子もなく軽く笑うと
「あんたら、旅人さんだね」
慣れたような感じでそう言った。
この人、今までどれだけの旅人に声をかけられてきたのだろう。
「え、怪しいと思わないんですか?」
姉が馬鹿正直に絶対言わなくていいことを言った。
なんなんだうちの家族。
「まぁ確かにリル様は有名だから特徴の一つや二つを知っていてもおかしくはないさ」
「リル様?」
「鳴呼、美しくて金髪を持った女の王都の関係者なんてあの方以外はいないだろう」
しっかりと聞いたこと全部を読み上げてくれた。
「そ、それでそのリル様ってー」
丁度話しかけたタイミングで、おじさんに少しほっそりとした男性が話しかける。
話し終えると此方に軽くお辞儀して
「わりい旅人さんたち、ちょっと用事が入ってしまったわ」
と言葉を残してそのまま忙しそうに去っていった。
「ええ人やん…」
姉が目を輝かせた。私にはわかる。こういうやつはすぐに騙されるタイプだと。
因みに私はほぼ放心状態だった。え?もう犯人の名前分かったの?
こんな遠い町の人でも知ってるくらいの有名人?と頭は疑問でいっぱいに
「おい、時、大丈夫か?」
「あー、うん」
”リル ”現段階ではその情報くらいしかないけれど、こんなにもすぐに割り出せた。
見つかるのも時間は掛からないだろう。
「どうする?一旦宿屋に戻るか?」
「そうしよっか」
ゆっくり考えたいし。
目先のことに夢中になるのはよくないことだけど、
今回ばかりは仕方ないなと思うのだった。
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突如、気配を感じる。
微かに殺意を込めた視線が此方を射抜く。
気づいていないのか、色と時は二人で談笑している。
相手は一定の距離を保ったまま、此方についてくる。
ターゲットは、俺ではなく時として間違いないだろう。
多分だが、時が能力を使えるという情報は、各地に出回っているだろう。
時はルナを殺した「リル」の前で巻き戻しを使ったことで、能力を使えるということがバレてしまったのだろう。
ルナに能力を使った時は手遅れらしく、何も起こらなかったらしいが、魔力の波動を能力者や人外なら感じることが出来ると聞いたことがあった。
俺の見立てじゃ時計がトリガーなって能力が使えることになる。
要はどのような能力か、トリガーは何か、代償は何か。全部把握されていることだろう。こうも紛れ込む虫にも気付けるようになってほしいものだ。
軽くため息をつき、ポケットからナイフを取り出して軽く投げる。
それだけで、軽く投げたはずのナイフは、
光の速さで相手に向かうと、綺麗に心臓を貫いた。
多分攻撃も見えてなかっただろうし、
周りにいたほかの敵も意識がそれている時にやってので、
誰がやったかは分からないだろう。
「ほら、時、色、早く帰るぞ」
何事もなかったかのように笑って二人を引き連れる。
さて、帰ったら昼飯何作ろうかな。
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