Ⅻ
ぱちり。
瞼を持ち上げた瞬間、光が差し込んでくる。
視線の先には青空があった。
瞼を持ち上げた?おかしい。私は火の海に飛び込んだはず。
ルナを治すために巻き戻しだってした。だからあの時、すでに体はボロボロだった。無事では済まない。いや、あんなの死んでいたと思う。
だが、私の体は一つも異変がなく、軽かった。
「まるでルナに治されたときみたいに…」
頭の中に、記憶が東となって流れ込んでくる。
「おえ」
吐き気がした。寸前で抑える。ルナが死んだことは、鮮明に覚えている。
金髪の女が殺したことも。
「私…馬鹿だなぁ」
ルナに顔向けができなかった。何故あの時に死のうとしたのだろうか。
妹は、死んでも笑って迎えてくれたのだろうか。
「いや、怒られちゃうか」
生きている理由が分からない。ていうかむしろ死んでしまいたいとも思う。
でも、その前にちゃんとやり遂げないいといけないことがあった。
お陰で頭が冷えた。
私はルナを殺したあの女を、殺さなければいけない。辛せをしたアイツを。
きっとルナもそう望んでいるはずだった。
立ち上がる。どうやら地面の上で寝ていたみたいだ。
「あれは…」
燃え尽きた家があった。もうあそこで住むことはできないだろう。
少し寂しく感じられた。
傷が治っているのは、私が能力を使った後に、
偶々ルナの意識があって私の傷を治したからとか?
でも、それにしては火に飛び込むときに治ってなかったし。
「ああ!もう!分かんない!」
思わず叫び散らしてしまう。
目的は決まったけど、あの女がどこにいるかすら分からないし…
「あ」
鎧だ。鎧の紋章。
母に花を買いに行く前に会った兵士の鎧に描かれていた王国を現す月の紋章。
あの女にも、服に同じ紋章が描かれていた。
あの紋章をつけているものは、王に関係する者たちだけが許されているもの。
そうなると、あの女は王都にいる可能性が高い。
「一旦、向かう先は王都か…?」
気配を感じた。
「…」
誰かが物凄いスピードで、こっちに向かってきていた。
そして、飛び出してきたかと思うと、勢いよく私の鳩尾にアタックした。
「ぐえっ」
「とぉおおきいいいいぃー!」
「よかったー!起きたんだねぇえええー!」
猪のように突進してきたのは、姉だった。なんかデジャヴ。
「うん。分かった。分かったから頭を擦り付けるのやめて??」
痛いから、と付け足すと、渋々どいてくれた。
「お前、外で寝てたんだぞ」
姉の後ろから、兄が歩いてくる。
「お兄ちゃん…」
「あたしと反応違いすぎない!?」
困惑する姉を無視して兄が話し始める。
「俺たちは、時とルナの帰りが遅かったから、心配して、迎えに行ったんだ」
「街につくと、兵士たちが帰っていく姿が見えた」
「一瞬攫われたのかと思ったが、花屋の店長に聞くと、どうやら擦れ違いが起きてたんだな」
「それで帰ってたら、家が燃えてて、お前が倒れてて」
「……ルナが死んでたってわけ」
空気がずしり、と重くなった。まるでお前のせいだ、というふうに空間が私を責め立てている気がした。
すると、兄は悲しく笑うと、私の頭に手を置いた。
「大丈夫だ。お前がそんなことをするで奴じゃないってことは分かってる」
「だから、何があったか教えてくれないか?」
「…うん」
その優しさが、苦しかった。
ルナが埋められた墓に、花を添える。
私が気絶している間に買ってきたらしい。
手を合わせる。涙が零れ堕ちた。
安心してね、ルナ。ちゃんと私はやり遂げてみせるよ。
それだけ伝えて、目を開けた。
「それじゃ、いこっか!」
姉が明るく私の肩をぽん、と叩く。
「王都の場所はよく把握してないからな、町の人にでも案内してもらおう」
客観的に兄が言った。
「うん」
顔を上げて、しっかりと前を向いた。弱みなんてものは見せない。
私には今がある。兄と姉の隣に並ぶ。私にはまだ、大切な人がいる。
時計をポケットから出し、首に掛ける。
「始めよう」
意気込みとして、小さな声でつぶやいた。
これが、今から始まる私の復讐劇。
私の生きる意味なんだ。これをやり遂げるためなら、何だってしてやる。
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