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8 離れていく婚約者

 カトリーナ・ミオット嬢がジョエル様とのデートに割り込んでから10日ほどが過ぎた頃、校内で二人が一緒にいる姿を多く見かける事に気が付いた。


 金髪に緑色の瞳を持つジョエル様は線が細く顔立ちも整っていて、優しそうな王子様のような見た目をしている。


 小柄なミオット嬢は瞳の色こそ茶色だが、髪色は明るい金髪でこちらも可愛らしい顔立ちをしているので二人が並ぶと絵になる。


 私はといえば茶色に近いダークブロンドの髪に青い瞳をしている。顔立ちも可愛らしいというよりも大人びた顔立ちをしていて落ち着いていますね、と言われる事が多い。


 ジョエル様と並んでも目線が同じくらいの背の高さなので、恋人というような甘い雰囲気は無く、姉と弟のような家族に近い親しさで付き合ってきた。


 過去にジョエル様に振られた令嬢から「あなたとじゃ似合わないんだからっ」と言われた事があったのを私は思い出していた。


(私が明るい金髪で小柄だったら少しは違ったのかしら)


 食堂で二人が仲良くランチを食べている。私にはあの二人の間に入るような勇気はない。


 ぼんやりと二人を眺めながら自分も食事をしていたら、ふとジョエル様と目が合った。


 しかし私と目が合うと、すぐにジョエル様は目を逸らしてしまった。


(さすがに少し傷つくなあ)


 正面に座るジョエル様の視線を追い、振り返って私を見たミオット嬢が得意気な笑い顔を私だけに見せる。


 私が見ている事に気付いたからか、ミオット嬢が牽制するようにやたらとジョエル様の腕や手に触れようとする。二人がどんな会話をしているのか分からないけれど、笑い声だけが微かに聞こえてきた。


 まだ食べ終わっていないけれど、私は席を立って食堂を後にした。


 教室へ戻ろうと廊下を歩いているところで、たくさんのノートを抱えているクリストフェルと行き会ってしまった。おそらく委員の仕事をしているのだろう。彼は私に委員の仕事をして欲しいとは言わずにいつもひとりでこなそうとする。


「手伝いますわ」


「ああ、助かる。職員室までお願いしたい」


 私はクリストフェルから彼の持っていた3分の1ほどのノートを受け取ると並んで歩き始めた。


「………」


「………」


 私たちはひと言もしゃべらずに歩く。彼も私が嫌なのだろうか。


――嘘つき!


 昔の彼の言葉が私の頭の中で蘇る。


 彼がこうやって委員の仕事をひとりでこなしているのは、嘘つきな私では信頼できないという事だろうか?


 突然クリストフェルが立ち止まったので、何事だろうと思って前を見たら廊下の向こう側からジョエル様とミオット嬢が仲良さそうに歩いている姿が目に映った。彼女は自分の腕をしっかりと彼の腕に絡めている。


 ジョエル様はミオット嬢と笑い合いながら歩いているので、対面にいる私には気付かない。


 すれ違うところでようやく私に気付いて目が合った。私を見た途端ジョエル様の表情はそれまでの笑顔から一瞬で真顔になってしまった。


 そんな彼の様子を見てしまった私は、自分の心が凍ってしまうのではないかと思うような衝撃を受けてしまった。


 ミオット嬢がジョエル様に見えないように私に向かって舌を出したが、そんな些細な事なんてもうどうでも良いと思えるくらいに彼の表情の変化にはショックを受けてしまった。


「行こう」


 彼らが経ち去ってからもしばらく立ち止まっていた私に、クリストフェルが声を掛けて歩き出したので、今見た光景は考えないように思いながら歩き出そうとした時に、ふと気付いてしまった。


 あの時、私もルークに同じ事をしてしまったのだと。


 私は両親に止められていたとはいえ、彼の呼び掛けに顔を背けてしまった。クリストフェルもあの時、きっと今の私のような気持ちになっていただろう。いや幼い分、もっと傷ついていたのかもしれない。


 歩き出そうとしない私に気付いたクリストフェルが数歩先で立ち止まって私を見ている。


 今の彼はもう悲しそうな表情は浮かべていない。それでも私の過去の過ちが無くなった事にはならないのだ。


 今さら彼に謝罪なんて出来ない。きっと彼も望んでいないだろう。


「ごめんなさい」


 そう言って私が歩き出したのを見て彼も歩き始める。


 嘘つきな私は誰にも好きになってもらえない、そんな予感がしていた。


本日の更新はここまでです。

折り返し地点まできました。

主人公のイエンナにとっては辛い展開ですが、明日は挽回します。


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