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第六話 Catch Me Who Can(後編)

碓井峡谷 樺北線

国鉄の標準軌の線路を二組敷設されている戦略路線を走りながら、碓井峡谷に入った『王道』号は死火山の中に敷設されている緩い勾配を描いたらせん状の登坂路線をセラミックによって空転防止を成しながら可能な限り早く進んでいた。

夜の闇を一組の線路だけと前照灯だけを頼りに進む姿は空から見れば小さな発行点が動いているのが見えるだけだ、しかし夜に成れた空軍機を前にその動きはあまりにも明瞭に見えている。

長い編成が身をくねらせながら登る姿を空軍機が捉えるとある者はせめてもの破壊を、ある者は最初に軌道要塞の破壊と言う栄冠を手にすべく素早く殺到する。時速100キロ余りで走行する軌道要塞に殺到し始めるも攻撃は容易では無かった。緩い曲線によるらせん状の軌道は挟み撃ちにするような防空射撃とそれ等を成す火器が移動し続けると言う慈雨協を生み出し殺到する航空機を次々と撃墜せしめる。

 特に急降下で向かった機体など悲惨だ、特異な環境を顧みぬ無謀な攻撃は自ら蜂の巣にされに行く物であり四方八方から浴びせられた対空弾に被弾した機体は軽快な金属音を奏でながら墜落していく。

 そうしてやがて頂上へと至る線路に入り始めると待ち構えていた『ガルダ』が一斉に爆撃を始めた。

 降り注ぐ五百キロ爆弾が線路の周辺には車両に着弾し弾かれ爆発を起こし次々と噴煙の如き壁を形成するも、土砂のトンネルの中を一目散に疾走し続ける。

 砂や破片で暗くなる空間を前照灯の光が進路を示すように戦略路線を照らし続け『ガルダ』の搭乗員を苛立たせるも遂に一八インチ砲が瞬き砲弾が殺到する。

 機体が傾き回避をしようとするもその瞬間には電波の反射により近接信管が起動、爆発を起こし次々と撃墜、炎を纏いながら墜落していった。

 そうして線路に墜落した機体は蹴散らかせるように機関車で吹き飛ばされ炎を纏った破片が爆発のように吹き飛んで行く。

「忌々しい!」

 搭乗員の一人が愚痴るも一切の攻撃が無力になる現実に歯がゆさを覚えつつ急ぎ撤退することを命じた。しかしその命令も一八インチ砲の轟音と共に吹き飛ばされ空中分解していく機体と共に灰燼に帰す。

 降り注ぐ機体だった破片を前に『王道』号はそれらを吹き飛ばしつつ一切意に返さず疾走、汽笛を上げながら高野を軌道要塞は時に火花を足元から散らしながら疾走していた。時々通過す小さな村や町の景色に彼等は皆絶句した。

 爆撃機による空襲で炎の海と化した街を走るとき焼け爛れた人々が最後の体力を振り絞って『王道』号に近付く姿を見てしまうも誰も何も言えずにいた。ただ過行く時間とともにその光景は死へと収斂する事だけが分かっていた。

 再び列車は峡谷に進入した。今度の路線はここから一気に下り勾配だ。ブレーキの調整を誤れば即座に暴走からの脱線転覆だ。

 勾配表示板が後に通過する中、赦される範囲での速度を維持しつつ伊の一番の速度で逃走したい思いを抑止しつつ雛森は操作を続ける。それでも再び現れた急降下爆撃機が今度は線路目掛けて爆弾を落として行く。

 風切り音と共に爆弾が線路の周辺の崖や岩肌に直撃した。どうやら狙いを外したようだがそれによる崩落が発生する。

「何かに摑まれ!」

 リュウの怒号で誰しもが椅子など手元の固定物に掴むと列車の眼前に巨大な岩石が幾つも出現していく。

「伏せろぉおおお!」

機関車に強大な衝撃と轟音が走った。岩山を基準重量一一〇〇〇トンに迫る第一機関車が巨大な落石岩に激突、衝撃が『王道』号を前後に揺らし車輪の踏めんからは火花が飛び散る。そうしていくなかで今度は岩石の崩落が雪崩の如く襲い掛かって来た。列車に激突したその雪崩は車体を何度も叩き進行左側の車輪譜面から火花を出しつつ右側の車輪を若干浮かせ脱線の危機を招いた。

 しかし線路内側に設置されてる脱線防止ガードレールによって車輪の逸脱が起きず浮き上がった車輪が無事に再着線、再び列車は速度を上げ勾配の緩くなった峠を下り始める。

 その最中再びループ線内で急降下爆撃を仕掛けて行く向こう見ずな機体が現れた。しかし防空車両の機銃から浴びせられた弾丸に被弾したり回避行動を取ることが却って失速を招き次々と墜落する。

(学ばんな、あの手の輩は)

 リュウが胸中で一人愚痴ると視界の下方に一編成の装甲列車が見えた。車両の足元から僅かに見える足回り、そして砲塔の配置などから彼はそれがKR39型装甲列車だと直ぐに気付いた。その装甲列車が標準軌も敷設されたループ線を疾走しながら砲塔を旋回、攻撃を仕掛けて来る。

「撃て撃て!」

 装甲列車の指揮官の男が編成の両端に連結されている四号戦車を流用した七五ミリ砲を振りかざし死火山の噴火口の向こう側を走る『王道』号に砲撃を始める。発射された徹甲弾が車体を掠めるも幾発か放った結果、ついに命中弾を出した。指揮室ん尾窓の近辺に着弾するもただ命中しただけで他には何の影響も出ない。

「何やってんだ!指揮室の窓に当てろ!」

「無茶言わんで下さい!」

「もういい!続けて砲撃!」

 七五ミリ砲が再び咆哮し何初もの弾丸が機関車に直撃、車体に着弾の火花と音を反響させる。しかし走行しながら行われる砲撃ではそれだけしか起きずしかも半分は別の岩山に当たり小岩が砕けて車体に当たるだけだ。

 しかしそうしていく中、『王道』号の速度は上がり此方の砲撃も機関車から逸れて行く。

「早くしろ!砲塔旋回!次でダメなら離脱する!」

「これ以上は危険です!」

 しかし下士官たちの声虚しく彼はひたすら「次を撃ってから離脱する!」と言い始め聞かなかった。あと少しで指揮室の窓に当たりそうな攻撃もあっただけ余計彼をそのやり方に固執させたのだ。

「旋回!撃て!撃て!早くしろ!」

 しかし指揮官の男が発令する時、下士官たちは素っ頓狂な声を上げながら一〇五ミリりゅう弾砲が発砲を始める。

「何を勝手に!」と怒鳴り散らそうと後ろを振り向いたとき、彼の背後から異常に強くなる光量と線路の振動に事態の進展を勘付き振り返った。するとその瞬間にAT98100のフロントアーマーに戦車駆逐車や戦車運搬車の順で車両が吹き飛ばされていく。絶叫じみた悲鳴と共に爆発していく砲塔や吹き飛ばされる車両が頭上を覆う直前、彼の乗っている指揮車が対空車ごと吹き飛ばされた。こん棒で頭を潰されるような感覚が襲って来たと認識する瞬間、彼の意識は暗転した。

「急げ!ここから速度を上げろ!」

『王道』号は牽引機であるAT98100によって完全に弾き飛ばされたKR39型装甲列車は完全に破壊され平たん線に降りた『王道』号に完膚なきまでに打ちのめされた。

 そのまま再びトンネルに入ると次は出口の向こうから再び徹甲弾が飛びこんで来る。

同じく大国際アガルタ帝国から派遣された戦車部隊が放つ攻撃だ。敵には新任の部隊長が下士官たちを怒鳴りながら攻撃させると下士官たちが撤退を具申、しかしそれを反故にすると更なる攻撃を続行、さらなる砲撃が行われる。

 恐慌状態でやぶれかぶれになった砲手が一握の奇跡を願いさらに攻撃を実行するも『王道』号が砂煙を巻き上げながらロッド類を高速運動させつつトンネルから現れると一気に地響きじみた振動と轟音が轟かせ正気を奪う。もはやその姿はまるで暗闇から鋼鉄の暴龍が世界を食い尽くすべく大地の底から出現しかのような錯覚を見る者に刻み付け恐怖させる。

「ってぇ!」

 それでも部隊長が命ずるまま八八ミリ砲が唸り鋭い閃光と鼓膜を直で殴るような発砲音が轟く。一方、戦車の後部で組み立てられた即席の対戦車砲陣地からも一斉に唸り音が上がると砲弾が閃光を纏いながら機関車の正面に直撃する。更に放たれた対戦車砲が更なる一突きとさせるべくバラストやコンクリート橋の部品や破片などが次々と吹き上がり火炎と煙の壁が築かれるもそれをあざ笑うかのように『王道』号が出現した。

戦車がそうであるように軌道要塞の装甲箇所でも特段、分厚い装甲を施された正面装甲に陸軍が所有する砲程度で敵うはずがなかったのだ。

放たれた全ての弾丸が弾かれる事を示すに僅かばかりの引っかき跡を刻んだ塗料が恐怖を掻き立てるも部隊長は「打ち方続行!」とヒステリックに命令することで退避と言う選択肢をはく奪し続けた。

それゆえに破滅の時が押し寄せる。

 前照灯を灯しながら汽笛を上げる『王道』号は車両限界内にあるあらゆる物体を木っ端みじんに砕いたり吹き飛ばしたりしながら突き進みその姿に兵たちは戦慄するも避難は出来ずに終わる。

その象徴と言わんばかりにティーガーⅢが吹き飛ばされ爆発炎上し即席の対戦車砲陣地はあっさりと突破され火花を纏いながら鉄塊へと貶められる。

「何やってんだバカ共!」

 自分だけは砲の影に隠れつつ空に銃を発砲しながら命令するも返事が無い。線路やその付近にいた者達は皆、弾かれるように吹き飛ばされたり飛んで来た戦車や兵器に身体を歪まされ骨を木っ端みじんにされていた。

 巨大な車両の車輪が線路の継ぎ目を渡り振動を齎す様子に臆せず影から出るも辺り一帯は歪んだ砲身と大破した戦車と手足が変な方向を向いた骸で一杯だ。

 戦車による停車が無理と判断された瞬間、爆破装置が起爆し煙突が崩れて行くと線路を塞ぐ形で倒壊、行く手を阻んだ。

 しかし『王道』号はそれすらをも轟音を上げながら突破、飛散した煉瓦が方々に飛び散ると撤退する大勢の敵兵の頭や身体に飛び込み次々と傷を刻んで行く。

「止めろ!止めろ!」

 大華方面の線路から到着したKR39型装甲列車が大急ぎで砲塔を旋回、七五ミリ砲や一〇五ミリりゅう弾砲を撃ち放ち止めようと藻掻くも全てが無駄球に終わった。それどころか戦略路線に近付きすぎたことが仇となり『王道』号に吹き飛ばされる。

 さらに線路に突き刺された妨害用の鉄串ですら砂塵を巻き上げながら圧倒的な馬力、重量、速度で捻じ曲げ破壊して吹き飛ばして行く。そうすることで国境線を突破した『王道』号は火花を上げながら北境平駅を傍目に神聖ルーシ帝国へと突入した。

この線路の先に何があるのかを彼等はまだ知らない。

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