1章8話:リヴを探して①
1章8話
俺が都庁に着いた時、都庁の上空には大きな黒いヒビが入っていた。
「ど、どうなってんだ!?」
空のヒビは一般人にも見えるようで、皆写真を撮ろうと空にスマホを向けていた。
そんな人々をよそに、俺は慌てて都庁の中へと入った。
都庁の中は混乱している様だったが、俺は構わず、
「千瑞さんに合わせてくれ!」
そう受付の職員に言った。
「なんだ、腰巾着か。」
顔を合わせて言われた言葉は、少し残念そうだった。
「そんなハズレくじ引いたみたいな言い方しなくても……」
「実際ハズレくじだろ?お前らは面倒ごとばっか持ってきやがる。」
現にリヴは行方不明だろう、と続ける。
「今上空で起こってることは俺らと関係ないでしょう。」
「そうだろうが、実際お前がリヴと絡むようになってから変なことが起こってやがる。疑われても違和感はない。」
事実なので反論の言葉が出ない。
「でも、起こっちまったことは仕方ないか……」
そのまま面倒くさそうに立ち上がると、
「着いて来い。」
そう言ってどこかへと歩き始めた。
そうしてエレベーターなどを駆使して上の階へと進むこと数分、着いたのは、都庁の屋上だった。
「屋上だとヒビがすぐそばに見えるな……」
まさに手を伸ばせば届きそうな距離だった。
そのままヒビを見ていてふと気付く。
「あのヒビ、惨滓なんじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ。」
千瑞さんは否定したが、俺には見えていた。
初めて惨滓に出会ったとき、俺が潰した、煌々と輝く火を纏った、あの球体を。
焦りからか、千瑞さんを説得する余裕もないと思った俺は、懐から拳銃を取り出すと、ヒビの中の球体目掛けて銃弾を放った。
「馬鹿!何を……」
千瑞さんが俺を怒鳴ろうとした瞬間、空を見て止まる。
「ヒビが、暴れている……?」
ヒビが痛々しく、暴れている。
惨滓のような全体にかかる靄を揺らして、暴れている。
「じゃあ、あれは本当に惨滓なのか?」
そんなのも束の間、靄が手のような形を成し、下に集まる人々を襲い始めた。
「っ!まずい!」
そう思い俺が拳銃を構えた時には、千瑞さんは人々を襲う手を撃ち始めていた。
「お前はヒビ本体を撃て!」
そう言われ、先ほどの球体を狙う。しかし球体が動き、球が当たらない。
「千瑞さん!ヒビにもっと近づかなきゃ当たらないです!」
「だったら手を撃ってろ!」
そう言い千瑞さんはどこかへ行ってしまった。
「はぁ!?無責任すぎるだろっ!」
そう思いをぶつけるように照準を手に合わせ、射撃する。
そのまま撃ち続けること数分、バラバラと大きな音を立て、前後にプロペラを付けた軍用ヘリが飛んできた。
「ヘリ!?」
俺が驚いていると、
「乗れ!」
千瑞さんが手を伸ばしてきた。
その手を掴み、ヘリに乗せてもらうと、ヘリはそのままヒビへと向かった。
「すまない、ヘリと運転手の調達に時間がかかってしまった。」
「調達も何も、軍用ヘリなんてあると思ってませんでしたよ。」
「こちとら政府なんだ。舐めるな。」
そんな会話をしているうちに、ヒビにヘリが近づいていく。
「この距離ならいけるか?」
しかし拳銃を構えた途端、地上の人々に向けられていた手がヘリへと向かってきた。
「嘘だろ!?」
ヘリが襲われ、大きくバランスを崩す。
「クソっ!お前下がれ!」
俺を退け、ドアのすぐそばまで出た千瑞さんは、
「ちょっと耐えろよ!」
「何をするつも……うあぁ?!」
俺を蹴り、空中へと飛び出した。
「馬鹿なのか!?」
そう言いたいところだが、実際千瑞さんは蹴りの勢いのまま、球体のすぐそばへと近づき、
「おらよっ!」
と力のこもった声と共に、球体を叩き壊した。
「おお!」と歓声を上げたのも束の間、そのまま千瑞さんは落下し始める。
「おい千瑞さん!死ぬぞ!」
落下する千瑞さんを拾おうと急いで機体を近づける。そのおかげで千瑞さんがギリギリ機体に捕まることができた。
「何を無茶してるんですか……危うく死ぬところでしたよ?」
「まあ来ると思ってたからな。」
思ったより厚い俺への信頼に驚いて……
「さすがの運転技術だ。」
とヘリの運転手を褒める。
「いや俺じゃねえのかよ。」
うん、期待した俺が馬鹿でした。
なんて会話も束の間、機体が大きく揺れる。
「なんだ!?」
急いで外を見ると、球体を壊されたヒビが最後の足掻きと言わんばかりに機体を掴み、自身へと引き寄せている。
ドアも開かず、詰みという言葉が頭をよぎる。
しかしこんなところで諦めるわけにもいかず、さまざまな場所に銃弾を撃ち込むが、効果はない。
色々と足掻いているうちにヒビへと機体が段々と飲み込まれ、景色が真っ暗になっていく。
「俺ら、ここで死ぬのか。」
人生に諦めがつき始めた頃、違和感に気付く。機体がほぼ全部見込まれたと言うのに何も起こっていないのだ。
さらに、暗闇だったはずの機体の外の景色の先に光が見え始めた。
「この先に、何かあるのか?」
機体内にそんな疑問が浮かんでいると、だんだんと暗闇が晴れ、光に包まれる。
眩しさに目を瞑り、次に目を開いたとき見えた景色は、ドロっとした黒色の建物が並ぶ新宿だった。
「何が、あったんだ……?」
俺はそう呟くしかなかった。