1章4話:一人で実戦
都庁に行った数週間後、俺は1人で仕事に出ていた。
リヴに1時間前に言われたことを思い出す。
「今日は発生予想地が二つある。二手に分かれるよ。」
そう言われて少し遠くの街に来たのだが。
「こりゃ残滓の時点でやばいのでは……」
辺り一体が黒く染まっていた。
「霧吹きでどうにかなるレベルじゃないな……」
周囲を駆け回って水を撒き散らす。効果はあり、順当に弱らせていたその矢先。霧が辺りを覆い出した。
「いつもより結界を張る速度が速い!」
こうなってはどうしようもないので、拳銃を構え、《惨滓》と対面する。その数分後、《惨滓》が現れる。しかし。
「また強そうなのが出てきたな。次は射撃タイプみたいな?」
現れたのは左腕をスナイパーライフルのように伸ばした《惨滓》だった。
「スナイパーは距離を詰める!」
FPSゲームの知識を思い出し、そう走り出した。が。目の前に迫ったのは巨大な拳だった。
「なっ?!」
反応する間もなく殴り飛ばされ、壁に激突する。
「痛ってぇ!」
見ると、右半身を先ほどより数倍に肥大化させた《惨滓》が立っていた。
「右半身がパワーで左半身が射撃か……」
近づけないとなるとすることは一つしかなく。
「もう拳銃しかないか……」
そう弾を放つ。それに反応し《惨滓》も発射。
しかしダメージがあったのは、俺の方だった。足が左の太ももを掠める。
「痛っ!足かっ!?弾が早すぎる!」
幸い足を掠めただけだったが、着弾の速さと被弾に対する痛覚の遅さがその威力を感じさせた。
「射撃がメイン…でもパワーもある。じゃあパワーで勝負だな。」
そうして俺が拾ったのは先ほどの射撃で壊れたパイプだった。
「いざ、尋常に勝負!」
そのまま駆け出す。迫る拳に合わせてパイプでいなすが、パイプが持たなかった。
「まさかっ、パイプが折れる!?」
そう気づいた頃には遅く、パイプは抉り取るように上部を殴り飛ばされてしまった。
ふと頭によぎる言葉、ピンチ。しかしそれは、チャンスにもなり得るものだ。
「このパイプ……まだやれるな?」
先の尖ったパイプを見る。目標の間合いに入る動きは1ヶ月前、リヴが見せた。つまり。
「勝ちの条件は揃ってんだよ!」
また駆け出す。しかし先ほどとは違う。俺は左腕の方に回り込む。
「右腕の間合いに入らなければ攻撃は当たらないだろ。」
もう少しで間合いに入る。その瞬間、《惨滓》は上半身だけを回転させ、こちらを向いた。
「死ぬ。」
直感的にそう感じ、身構えた。しかし攻撃は来ない。《惨滓》は拳を振り上げ硬直していた。しかしその硬直もすぐ解けてしまいそうだった。
「チャンスなら、やるしかないよな!」
そう思い切りパイプを突き刺し、トドメとばかりに拳銃を腹に突きつけ数発撃つと、《惨滓》は倒れた。
「セーフ、か。」
そう口に出した瞬間、前肢から力が抜ける。しかしまた力を入れ直す。
「まずは家に帰らなきゃな。」
そう帰路についた。
「か、帰ったぞ……」
「あ、おかえり。」
ヘトヘトな俺とは対照的に無傷なリヴ。
「なんか傷だらけだね。左足のとか弾痕じゃない?」
「なんか異様に《惨滓》が強かった。」
それはもう強そうに状況を語った。
「そう。それは大変だったね。」
しかしそう軽く流されてしまった。しょうがなく傷の手当てをしようとしていた矢先。
「はい、あげる。」
そうリヴから渡されたのは一杯のコーヒー。
「いつも俺に淹れろって言ってるのに、珍しいもんだな。」
これが噂に聞くツンデレだろうか。
「そんなこと言うならいらないか。」
しかしツンが多すぎるような気がする。
「飲むから、くれよ。」
そうコーヒーを受け取ると、2人で床に座って一息つく。
「今度から二手に分かれるのはやめようか。」
ふと、そうリヴから切り出した。
「そんな俺の《惨滓》狩りは不安か?」
「そりゃ《残滓》がりに連れ出したのは私だし。ちょっとは責任を持って安全を保たなきゃだし……」
なんだかモジモジしている。
「ご苦労なこったな。」
「なっ!君のことを考えて言ってるのに、なにそれ。」
「いやぁ、愛されてるねぇ、俺って。」
「もう、死にたきゃ勝手に1人でやりな。」
そう不満げに俺のカップを奪って片付けに行ってしまった。
「機嫌を取るのも一苦労か。」
「なんか言った?」
「リヴって凄いんだなって言った。」
これ以上ふざけると怒られそうなので、とりあえず褒める。
「でしょ?」
そう得意げにはにかむリヴ。時折見せるこの仕草にはドキッとさせられる。
「あ、今可愛いって思ったでしょ。」
「自意識過剰だな。」
「嘘つけ。顔赤いよ?」
「なっ!?」
「嘘ー。思ってたんだね?」
「しょうもない嘘に引っ掛けやがって……」
「そのしょうもないことに翻弄されてる君が悪いね。」
リヴがドヤ顔でこちらを見ては、勝ち誇ったように胸を張る。
「まぁ、これからも頑張ろうね。」
そう渡されて飲んだコーヒーはいつもより甘い気がした。