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32話:護衛旅行2

 丘陵地帯を馬車の列が進む。

 車列の真ん中は、ドラゴンの心臓を乗せた一番造りの良い馬車。

 その他商品以外にも滞在に必要な旅荷の馬車などが続く。


 そんな車列の後ろを、軽い足取りでアンドリエイラは歩いていた。


「いい天気ね。空がまぶしいわ」


 薄い色の瞳に陽光は辛い。

 碧眼のアンドリエイラを見たまま語るなら、晴れ渡る空を直視することが辛い理由も想像がつく。

 ただその言葉の裏を知るサリアン他冒険者たちは、声を潜めて話し合った。


「おい、モートン。アンデッドなら少しくらい効くもんじゃないのか?」

「少しどころか灰になるぞ、普通は。質の悪い聖水が効かない相手も太陽だけは効くはずだ」


 神官のモートンも困り顔でサリアンに答える。

 護衛依頼のため戦斧を背に負ったヴァンは、アンドリエイラの姿に首を傾げた。


「なんか、明るい中で改めて見ると、すごく白い。倒れそうに見えるんだけど?」

「血の気がない理由は、わかるんですが。それにしては元気すぎると言いますか」


 フードを被って眩しい光を避けるホリーに、染色した皮鎧を纏うウルが肩を竦める。


「アンデッドに無双する太陽神の神官たち見たら、卒倒しそう。全く効いてないっぽいし」


 加護により太陽光を魔法で発生させる神官は、レイス、ゾンビ、ヴァンパイアなどアンデッドには効果覿面となる。

 それは、冒険者の中でも常識だ。


 ウルの言葉にアンドリエイラの正体を知る面々は、容易に自信喪失する太陽神の神官の姿を想像した。


「おい、何を話し込んでいるんだ。雇ってるんだからちゃんと警戒しろ」


 先頭にいたカーランが、殿を務める冒険者に寄って来て文句を言う。

 その姿にアンドリエイラは上機嫌に、全く警戒しない様子で聞いた。


「何処へ向かうかを聞いていなかったわ。二百年前は商売と言ったら西の港だったけれど、今は北に向かっているわね?」

「そこは今も盛況な港町だな。後は東のほうにもっと大きな交易の街ができてる。たぶん二百年前にはあの街の海に抜ける運河はまだできてないだろ」

「あら、いいわね。そういう変化も見てみたいわ」

「残念だが、西も東も他国。これから行くのは同国内。周辺で一番大きな街ってだけだ」


 そう答えるカーランは、冒険者の恰好をしている。


「周辺で、ね。売れるの?」

「すでにオークショニアが食いついて、その街で待ち構えてんだよ」

「まぁ、手際がいいのね」


 機嫌よくアンドリエイラは答えるが、気づいた様子でカーランを見た。


「その恰好で商売をしているの?」

「街に着いたら着替える」

「最初から着替えていればいいのではない? 商人なのだから馬車の外へ出る必要もないのだし」

「腕が鈍るからな。動く時には動くための勘を鍛える方針なんだ」

「商人なのに?」

「そういう家訓なもので」

「変わってるのね」


 アンドリエイラはそのまま聞いた意味で捉える。

 しかし聞こえていたサリアンは、邪推を交えた。


「それだけ他人の恨み買う商売して自衛が必要なんだろ」

「勝手な想像で誹謗とはいい度胸だ。雇い主が誰か忘れたか」


 カーランは言うだけではなく、容赦なく査定をギルドに報告した上で差っ引く。

 しかしサリアンも、ギルドを挟んで価格設定をしているからこその最低保証を視野に入れた暴言だった。


 最低保証を知ってる弟分と妹分は、無言で目を見交わす。


(せこ、お金握られてる時にもそう言えよ)

(お金の保証がある時だけ強気だなんて)


 知らない所で評価が下がっているサリアン。

 悪意を感じ取ることのできるアンドリエイラは、肌感覚で察せられるが、あえて言わない。

 理由は、もっと顕著な悪意を感じていたから。


「なんか、まずそうかも?」


 ウルの言葉にカーランはすぐにサリアンを無視して、ウルの勘を確かめる。


「進むか、止まるか?」

「止まるかな?」

「こういう時は相手が飛び道具持っているか、機動力だろうな」


 慣れた様子でモートンは、背中の盾を下ろす。


 カーランの合図で車列は停車。

 その間にウルは馬車の上へと昇り、腰に提げていた短弓の弦を張る。


「あっち! たぶん丘の向こうに隠れてる」


 そんなウルの声が聞こえないはずが、隠れてた賊はぞろぞろと姿を現した。


「上に登ってすぐってことは、ウルを知ってるね。なら、ウォーラスにいた奴らか」

「あの村、賊なんて飼ってるの?」

「違います。あれは横取り目的の冒険者です」


 すぐに相手を特定したヴァンに、アンドリエイラが物騒な勘違いをする。

 正すホリーは、言った後に結局は強盗であることに眉根を寄せた。


 現れたのは二十九人にもなる賊。

 冒険者らしく武器防具を揃えた者もいれば、ただの村人がこん棒を持っただけの者も。


「おぅ、おぅ。景気がいいようだな。調子こきやがって、そのお宝寄こしてもらおうか」

「おい、言われてるぞ商人さんよ」


 サリアンがにやにやしながらカーランを小突く。

 しかし賊はそんな様子に声を大きくした。


「余裕ぶった面しやがって! 状況がわかってねぇのかこの野郎!」


 怒鳴って指差されるのはサリアン。


「言われてるぞ、不良冒険者」


 今度はカーランが、刺すように肘を入れる。

 そんな相手に、真面目なホリーは見覚えがあった。


「あ、あの方たち。ドラゴン討伐の報告に行った時に絡んできた冒険者です」

「あぁ、なんか金入ったんだったら驕れとか金せびって来た、見苦しい大人」


 ギルドで、他人のおこぼれを欲しがる言動はヴァンも覚えていた。

 モートンも思い出して、サリアンを横目に見る。


「そう言えば、乞食のほうがもっと上品だとか言っていたな」

「だからって盗賊に成らなくったっていいじゃん。まぁ、煽るのもどうかと思うけど」


 ウルは呆れつつ、こき下ろして軋轢を作ったサリアンも責める。


 そんな話で様子を見つつ、ウルは弓に弦を張り、ホリーは風を読んで麻痺毒を用意。

 ヴァンは戦斧を固定する留め具を、頭を掻くふりをして開放し、モートンはすでに構えた盾で、敵側に射手がいないかを索敵していた。

 口は悪いが、ドラゴンを前に生き延びた冒険者。

 無駄話をしつつ、戦いの準備を整える。


「ただでさえ乳と尻のでかい女侍らせて羨ましいのに!」

「それが今度は美少女!? ふざけんなこの野郎が!」

「禿げろ! 折れろ! もげろ!」


 賊側は、一部が私怨を吐き出し威嚇する。

 低俗な内容だが、それまで呆れた様子見を気取って煽っていたサリアンが反応した。


「ふざけろ! こいつこの見た目で中身はババ…………ぁ!?」

「お黙り」


 サリアンの暴言に、アンドリエイラは軽やかに飛んで、その背中を小さな手で叩く。

 しかしアンデッドの怪力から放たれた一撃は、サリアンを地面に叩きつけ動けなくさせた。

 呻き一つ上げない様子から、誰が見ても失神している。


 車列に隠れたカーランの手下には見えていない。

 しかし襲うつもりで丘陵の高い位置を取った賊にはすべて見えていた。


「わ、ぁ…………」

「ひぇ…………」


 微かに呟かれる怯えを含んだ声は、誤りなく状況を把握している。

 アンドリエイラはにっこり笑って、誤魔化した。


「お下品なのはいただけないわ。ヴァンも真似しては駄目よ?」


 ヴァンは無言で何度も頷く。

 その様子に、アンドリエイラは手を打って仕切り直した。


「さぁ、それではお下品な賊はさっさと片づけて旅行の続きよ!」

「護衛依頼なんだが?」


 カーランが訂正した時には、すでに風上から麻痺毒を撒いたホリーのお蔭で逃げられず。

 ウルも丘陵の高さに並ぶ馬車の上からの射撃で賊を牽制。

 前衛のサリアンが落ちてしまった穴も、アンドリエイラが入り攻勢に出る。


 アンドリエイラが気づかれない程度に、気力や体力を奪う魔物の技を使ったことで、賊は予想外のサリアン撃沈に混乱している間に制圧されてしまったのだった。


定期更新

次回:護衛旅行3

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