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30話:改装計画5

 改装計画は、サリアンの賛同によりアンドリエイラが主導することになった。


(そもそも、お嬢に実力行使にでも出られたら勝ち目もないしな)


 サリアンは負け戦を仕掛けていたウルとホリーに、最初から加勢する気はなかったのだ。


 そんな乱暴者扱いのアンドリエイラは、客側に回るだろうパーティーメンバーたちからも意見を聞いている。


「ねぇ、お嬢。結局お風呂お金かかるのそのままだけどどうするんだい?」

「お湯くらい沸かしてあげるわよ。水場も近いし、台所の水回りを改修する時に、お風呂にも水を供給する設備をつけてもらいましょう」


 アンドリエイラは氷でドラゴンを倒し、魔物化した虫は青い炎で焼いた。

 本来魔法は威力に比例して、準備や必要な魔力が増大するもので、お湯を沸かすためだけに魔法を維持するのは馬鹿らしい。

 ただアンドリエイラの実力を知っていれば、大言壮語とも思えない。


「あ、二階を寝室とお手洗いにだけ使うのもスペース余りそうね。リネン室作りましょうか。洗濯物を取り込んで、そこに置くから自分の物は各自で回収という形で」

「…………手慣れているな。お嬢は本当に共同生活をしたことが?」


 モートンが聞くと、アンドリエイラはなんでもないように答える。


「いくつか森以外に家を持ったこともあるもの。けれどだいたいは使用人がいたから、そうでない者との共同生活は数えるほどね」

「何処の奇特な貸主だよ。いや、そういえば曰く付きの物件紹介されるんだったか」


 サリアンは教会で聞いた話を思い出して、胡乱な視線をアンドリエイラに向ける。

 不穏な話を察して、他の冒険者たちは深く聞かずに目を逸らした。


「あとは、家具ね。今の価値だといくらかしら? 揃えるなら家の購入費並みにかかると思ってはいるけれど」

「え!? そんなに? なんで家具程度で家と同じになるの?」


 サリアンを無視したアンドリエイラの言葉に、ウルが声を上げる。


「お前たちが使う安物じゃなく、こういうちゃんとした物だろ」


 そう言って、カーランは自分の屋敷にある家具を指した。


 宿にある無垢の木材という名の、艶出しも彫刻もない家具が冒険者の普通だ。

 ただカーランは商人として見栄もあり、艶出しや色つけ、さらには彫刻もあり、布張り鋲打ちなど決して安物ではないものを使っている。


「そんなの、身の丈に合いません。冒険者なのですから豪華である必要はないですよ」

「屋敷だけ立派で中はお粗末だなんて。泥棒が入った途端に腹を抱えて笑うわよ」

「うわー、それはなんか腹立つなぁ、あははは」


 他人ごとで笑うヴァンに、モートンは現実的なことを告げた。


「屋敷に合った寝室を用意するだけの資金は必要だろうな。そうでなければ後から出て行く時に不必要な家具を抱えることになるぞ」

「えー、家具にお金かけるくらいならいいお酒飲むのに!」


 ウルの訴えに、酒に関しては弱いモートンはそれ以上諫められない。

 それでもアンドリエイラが求める水準の家具でなければ、屋敷に置いて行くことは許されないのは事実だ。


 泥棒が入る隙を作る気でいるアンドリエイラに気づいて、サリアンは水を向ける。


「酒よりも、それだけ金使うもん持ち込めば、残ってないのもわかりやすいか」

「カーテンに、絨毯に、絵画は贅沢言わないけれど、花瓶に火伏の置物に」


 アンドリエイラは必要な家具以外も上げて、細い指を折る。

 それを聞いてカーランは手揉みを始めた。


「入用なものはこっちで調達もできる。少し割高だが、お任せ一式で今のトレンドにマッチしたラグジュアリーなファニチャーを提供しよう」

「あら、この服の質を考えると任せるのも一つの手ね」

「やめとけ、やめとけ」

「正直勧めない」

「絶対何かあるって」


 サリアンとモートンに続いて、ヴァンまでもが止める。

 あまりに胡散臭いカーランの言葉選びに、ウルとホリーも揃って首を横に振った。


「カーランの少しが少しだったことないし」

「絶対何か裏がありますから、やめましょう」


 アンドリエイラは考える様子でカーランに振る。


「反論はないのかしら?」

「もちろん勉強させてもらうことも考えている」


 否定ではない返答に、アンドリエイラも裏があることは確信する。


(それはそれで何が出てくるか見てみたい気もするけれど。今回は共同生活なのだし、以降は汲みましょうか)


 そう考えただけで退く様子を察したカーランは、別の方向から攻めることにした。


「忙しくなるかもしれないから、任せるほうが早く入居もできるんだがな」

「どういうことかしら?」


 カーランとしても手に入れたばかりの新鮮なニュースだ。

 何かしら恩を売りつつと考えていたが、予定を変更して口にした。


(食いつき良くてやはり惜しいな。だが変に睨まれるよりもましか。まだ神鹿の所にも行けてないんだ。ここで下手を打って距離を取られるのは得策ではない)


 すでにドラゴンの心臓という願ってもない商品を手に入れた。

 しかしカーランの中で、元の欲が別の物で置換されるわけもなく。


 ただ邂逅を望むその神鹿に、ドラゴン解体の件で引かれているとは知らずにいた。


「ドラゴン討伐は褒賞されるべき偉業だ。そんなの、領主に報告されないわけがない」

「げぇ、もしかして呼び出しの気配があるのか?」


 サリアンはカーランの言わんとすることを察して、嫌そうに声を上げる。

 生まれからして下手に身元を洗われたくはないのだ。

 死んだことになっているサリアンと違って、ヴァンとホリーは母親から父親にも目星が付けられる可能性もあった。


「む、領主としても無視はできない話ではある。だが、褒賞であるならば断わることもない、か」


 モートンも乗り気ではないが、相棒のウルは褒賞という言葉に目を輝かせている。


 そんな期待をカーランが断ち切った。


「領主の館にいるのは代官で、ドラゴン討伐できる腕か怪しんでるそうだ。そもそもドラゴンの生息も報告なし。いきなり倒したじゃなく、どこかで倒したのを持ってきたと思っている」

「別の所から? そんな面倒なことして、何が面白いんだよ」

「それに結局は倒してるじゃないですか」


 ヴァンとホリーが意味をとらえきれずにいると、サリアンが教えた。


「ドラゴンの所有権をどっかから請求されるの嫌ってか? 後は、本当に倒したならドラゴン倒せる腕の奴を登用してやるとか、そんな感じか」

「嫌そうね。断ればいいじゃない」


 他人ごとで笑うアンドリエイラに、カーランはさらに教える。


「お貴族さまのありがたい申し出をむげにして、そいつの影響下で活動できるかって話だ。まず森に行くための壁の門の通行、許可が下りないぞ」


 壁の所有は領主であり、その権限を委託されているのが代官だ。

 恥をかかせた相手に通行は許可しない。

 土地もそもそも領主のもので、売買も使用権の話でしかないため、領主を怒らせれば家屋ごと没収もあり得る。


「じゃあ、どうするの? 素直に私と一緒に呼び出される?」


 アンドリエイラは一番の問題を自認して、胸に手を当ててみせた。

 そのあまりに事態の異常さを気にしない森の主に、全員が苦い顔になる。

 生者が営む社会の問題など、死者には関係なという乱暴で無慈悲な考えが透けて見えたからだ。


 もちろんそんなことに巻き込まれたくないカーランは、指を立てて解決案を出す。


「合同パーティーってことにして、代表者一人送り込む。そいつが代官怒らせないよう、口八丁で断った上で丸め込む」

「おい、俺を指差すな」


 サリアンはカーランの指を払い除けた。

 しかし機転と口の回りを思えば、全員がサリアンを推す。


「お前、その情報知って、俺が断るのもわかってて、自分が巻き込まれない手考えてるんだろ。言え。それともお嬢巻き込んで、領主だか代官だかとまとめて森の出入り禁止食らいたいか?」

「ち、俺はこの後ドラゴンの心臓を商うためにここを離れるだけだ」

「あら、それなら私も同行するわ」


 途端にアンドリエイラが少女らしい無邪気な笑みで言った。


「この町に私の気にいる家具はないでしょう。だからどこか見に行かなきゃと思っていたの。ドラゴンの心臓を買うだけのお金が動く場所なら、家具もそれなりにあるはずね?」


 カーランは断れず、サリアンを見るがサリアンはヴァンとホリーに聞いた。


「お前ら、これどっちがましだと思う?」

「領主館は堅苦しいから絶対嫌だね」

「でもお嬢と移動も、問題がありそうです」


 モートンとウルも相棒同士で話し合う。


「俺としては護衛名目で手持ちを増やす方向を考えてもいいんだが」

「うーん、どっちでもいいかな? お嬢が一緒って前提だと変わらないっぽい」

「よし、お前ら俺が指名で依頼出すからな」


 逃げられる前にカーランは決めてしまう。

 アンドリエイラが同行を申し入れたからには、カーラン自身逃げられない。

 それなら旅行気分でついてくる、ドラゴンより強いアンドリエイラのお守りの分担を迫ることにしたのだった。


定期更新

次回:護衛旅行1

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