29話:改装計画4
教会にいたモートンとヴァンは、奉仕を終えてパーティーメンバーを待ったが戻らず。
大柄二人は邪魔だと、ルイスに教会を追い出された。
「確かこの辺りだったはずだよ」
「またずいぶんなところに屋敷を隠しているな」
サリアンから教えられたヴァンが案内をして、モートンと迎えにやって来ている。
問題なく通された客間だったが、不穏な空気にヴァンとモートンは顔を見合わせた。
「服は、手に入れたみたいだね」
「着ているなら問題なかったのだろう?」
そんな二人に、サリアンが疲れた様子で片手を振って見せる。
「服はいいんだよ。だが、屋敷のことでこいつら揉めだしてな」
こいつらとはアンドリエイラ、ホリー、ウルという暮らすことになる三人だ。
「あの屋敷は商人が改装していた。だから暮らすには手を入れて中の形変えるのはわかる」
そこまでは現地でも話をしたこと。
台所は設備が古いために作り替え、いっそ位置を移動させようという話にもなった。
「一階を生活スペース、二階を寝室ってのはまぁ、定番だからいいんだがな」
サリアンの話を聞いていたヴァンがせっかちに先を予想する。
「誰が一番大きな寝室使うかでもめてるとか?」
「違う違う。家に求めるものが違うっていうか、結局は金の問題か?」
うんざりして説明が雑になるサリアンに、モートンがまとめた。
「ふむ、つまり何処に多く費用を使って改修するかという話か」
正解を言い当てると、睨み合ってた三人の中からアンドリエイラが声を上げる。
「フラットに判断できる二人がいるようね。だったら、ここでそれぞれの理由とこだわりを話して、推薦をしてもらうのはどうかしら?」
「そうですね、私たちだけで話しててもらちがあきませんし、カーランはいっそ邪魔ですし」
「お金使う方向に誘導してくるしね。お嬢にお高い設備の新設とかうるさいんだから」
ホリーとウルは、揉み手をするカーランを睨んで応じる。
カーランはどこ吹く風で、自身の商店を経由して利益を得ようと口を挟んでいた。
金の話を目の前でされて、見逃すほどカーランも鈍くはない。
一番の脅威であるアンドリエイラが金を使う方向なので、後押しに迷いもなかったのだ。
「まずはあたしね」
ウルが応諾も聞かずに話を進める。
嫌そうなヴァンに見られても、サリアンは諦めろと首を横に振るだけ。
「まず部屋よ。せっかく宿暮らしやめるなら、自分の寝室広く取りたいじゃない? それに収納。宿だと物入の箱一つだし、今まで買えなかったものも買いたいし。お金出すならそう言うところに使ってほしいの。だから二階部分に張り出しの改装して、寝室を拡張する」
ウルの要望は二階の拡張。
しかしそれにはホリーが反論した。
「でもウルは、それで男の人を引き込むんじゃないですか? そんなことに使われるなら広くしてほしくありません」
ホリーの言葉にモートンが険しい表情を浮かべる。
圧をかけられたウルは、すぐにモートンに縋るようにして言い訳を並べた。
「しないから! 自分の部屋だったら、そんな行きずりの相手なんて呼ばないって! それより家でやるならホリーのほうが危ないんだよ!」
指を差されたホリーは、いっそ胸を張って見せる。
「そんなことはありません。安全を期すためにも設備が必要だと話したはずです。私は、薬師としての務めを果たすためにも、屋敷のどこかに薬を調合するための部屋が欲しいんです。そのために、水と火を使える設備を増やしてほしいと言っています」
「けど、サリアンが言っていたじゃない。結構な臭いがするって」
アンドリエイラはまず薬作りに対してマイナス評価を上げた。
余計なマイナス発言をしたサリアンは、妹分のホリーから非難の目を受けて小さくなる。
その上でホリーは訴えた。
「そうした問題もあるからこそ、専用なんです。これは危機管理のための必要経費です」
「確かにあの臭いを隔離してくれるならそのほうがいいと思うなぁ」
知ってるからこそのヴァンの後押しに、聞いてたアンドリエイラが首を横に振った。
「全く、目先のことにばかり囚われて。もっと生活の質を向上させることを考えたらどうかしら」
そう言って、自身のプレゼンに移る。
「私はまず台所よ。そしてお風呂の改修が必要だと考えるわ」
「うわ、めちゃくちゃお金かかる」
茶々を入れたヴァンは、アンドリエイラに睨まれてサリアンの陰に隠れた。
「それに一階と二階があるなら、おトイレもそれぞれに必要だわ。そしてお客を招くための食堂も、今の屋敷のように必要だと考えてるから潰すのはなし。そうそう、せっかく上流にあるんだから、屋敷の外に洗い場も整備すべきよね」
そんな主張に、ホリーとウルから反論が上がる。
「お金がかかりすぎますし、使うかどうかもわからないじゃないですか。それなら私のほうがずっと使用に関しては有用性があります」
「洗濯は業者に任せればいいし、台所も風呂も水と薪使うし。水は汲んできても薪はお金かかるでしょ。外で食べれば食堂もいらないよ」
しかしそこにカーランからの口出しが入った。
「わかっていないな。あんな目立つ場所で、家の格に似合わない内装なんて笑い者だ。金をかけて羨まれるくらいのほうが後で恥をかかないぞ」
「無駄!」
「不用!」
何度も口出しをされたせいで、ウルとホリーが端的に否定する。
そしてヴァンとモートンに迫った。
「どちらがいいと思います?」
「あたしだよね、ね?」
「えー、俺はホリーの言うことがそうだなって感じ」
「私も納得はできると思う」
「モートンー! ねぇ、あたしだよねぇ? 見捨てないでー!」
ウルが身も世もなく泣き落としにかかると、モートンは折れる。
結果、ホリーにはヴァンが賛同し、ウルにはモートンが賛同。
そしてアンドリエイラにはカーランという、なんの解決にもならない結果。
しかし室内にいるパーティーメンバーは奇数だ。
「それで、サリアンは誰に賛成なのかしら?」
アンドリエイラに迫られ、サリアンはうんざりして身を引く。
すでにずっと話を聞いていた。
ヴァンとモートンのために短くプレゼンをしていたが、それ以前に散々聞かされている。
サリアンは巻き込まれることには辟易しつつも、気になる点を挙げた。
「ちなみにお嬢、なんで水回りばっかり気にしてんだ?」
「だって冒険者ってけっこう汚れるじゃない」
「洗濯業者もいるし、水浴びできる井戸もあるぞ」
「部屋を広くしておしゃれ着増やして、雑にそこら辺の冒険者の服と一緒に洗わせるの? それにドラゴンの解体みたいに服が血を吸うこともあるでしょう。すぐに手入れできたほうが服のためよ」
「う…………」
アンドリエイラの現実に即した訴えに、服を増やしたいウルが押される。
そんな様子を横目に、サリアンはさらに聞いた。
「食堂必要ってのも拘ってんな」
「当たり前じゃない。少なくともあなたたち、この子たちと組んでる限りは来るでしょう? 毎回女の子の寝室に上がり込むなんて許さないわよ」
「あ…………」
ホリーも、身内同然とは言え男ばかりが来る状況を察して考える。
食堂を潰して調薬室にと訴えていたホリーも押されてしまった。
アンドリエイラは気にせず続ける。
「共同生活をしているにしても、外と中はわけないと。それに家で薬作りをするなら食事の場所もきちんとわけるべきよ。人間は死にやすいんだから」
「ちなみにトイレ二個所はどうしてだ?」
「夜でも鏡を見れる私はともかく、活動時間の重なる女の身だしなみには必要でしょう?」
「「まぁ、はい…………」」
納得の声をホリーとウル。
サリアンは、そんな二人を見てアンドリエイラに親指を向ける。
「で、経験豊富なお嬢が、共同生活想定して話してるんだが? お前らは自分たちの主張以外に、共同生活を想定して利点の説明はできるか?」
「私室の広さは案外広すぎても無駄になるわ。それと、調剤に関しては二階の人の出入りが決まってる範囲がいいと思うの。二人はいずれ出て行くんだから、あまり一般から離れた環境に慣れるのもよろしくないと思うわよ。人間って、便利なことに慣れすぎると、それまで不自由な生活に抑えようのない苛立ちを覚えてしまうから」
生きづらさまで想定して計画するアンドリエイラに、ウルとホリーの二人からは、具体的な案など出ない。
うんざりして介入も嫌になっていたサリアンの指摘で、結局アンドリエイラの改装計画が主軸となったのだった。
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