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19話:ドラゴンの血4

 ドラゴンの血で森の植物が魔物化した。

 ゲイルの情報に、その場の冒険者全員で森へ向かうことになる。


「なんでお前も? こんな金になりそうにないことに守銭奴が動くなんて」


 サリアンがまた髪を乱して顔を隠したカーランに聞く。


「そっちこそ、知らないふりをするところだろう、悪辣などサンピン」


 罵りながら睨み合い、その末にお互い指を突きつけ合う。


「どうせ珍しい変異なら危険なくらいが高く売れると思ってんだろ!」

「お前だってギルドに恩売るためなんて下心だろうが!」


 サリアンはギルドに恩を売って、優位を得ようと考えていた。

 カーランはドラゴンの血に狂った魔物を商品として見ている。


 そんな邪悪な考えを聞いた弟分のヴァンは、顔を顰めた。


「これ、どっちがまし? どっちも他人の不幸利用しようとしてるくそっ垂れなのはわかるけどさ」

「まぁ、そんな汚い言葉は駄目よ。結果的に助かる人間がいるならいいでしょ」


 アンドリエイラは大人ぶるが、ホリーは首を横に振った。


「食い物にしようという意思のあるカーランが悪です。恩を売るなら助ける意思もあるサリアンのほうがましでしょう」

「そう? サリアンのことだから、犠牲が出てもしれっと最善は尽くしたとか言ってお礼貰うでしょ」


 核心をつくウルに、モートンは額を押さえて溜め息を吐く。


「嘆かわしい。思いやることをせず、ましてや得を求めるなどとまったく」

「なんの利益もなく善意だと嘯くほうが信頼は置けないだろう」


 そう言ったのはアンドリエイラに抱かれた黒猫。

 そうしているとただの猫だが、実際は人語を喋る人外のゲイルだ。


 それを撫でて黙らせるアンドリエイラは、叱るように声をかけた。


「大人げないことを言わないの。モートンは真面目に言ってるんだから」

「余計に怪しい。金もないなら生きることも不自由だ。自分の命投げだす理由も何もない状況で信じろというほうが胡散臭い」

「もう、この守銭奴。使えるなら使う程度しか思っていないなら、いちいち否定しないであげなさいよ」


 ひどい言いように、口喧嘩をしていたサリアンとカーランも黙る。

 その上で、ウルは慰めるように固いモートンの背中を叩いた。


 厳めしい顔で警戒されるモートンは、助けた相手から逃げられることもしばしば。

 そんな思いをした上で善意でやっていることさえ否定されるのは、真面目で無欲なモートンもくじけそうだった。


「あー、えー、ほら。もう騒ぎになってるみたいだぜ」

「だが、血の臭いはない。今ならまだ拾える命もあるだろうさ」


 本気の落ち込みにサリアンが慰め、カーランは事実と少しのフォローをする。

 その心は、盾役のモートンが不調になると、自らの身が危ないからだ。


「き、気にするな。この程度でどうということはない。ともかく急ぐぞ」


 モートンは性格のよろしくない二人まで優しくするので、逆に不気味がってしまった。


 アンドリエイラたちは何があったかなど聞かずに森へ入る。

 他は森から逃げたり、報告に走ったりで止めもせず、混乱は大きくなっていた。


「うわ、暗くて道も見えない。けど、逃げられる人は逃げた後か」


 ヴァンが森に入って、当たりに人影がないことを確認する。

 燃えかすや放り出したらしい荷車などで荒れた森は、昼間とは全く様相を変えていた。

 危険がるため火は消され、覆いかぶさる梢が星明りさえ通さない森は騒がしい暗闇。


 それぞれカンテラやたいまつと言った灯りは用意しているが、それでも影が多く見通しは悪い。


「この周辺はまだ魔物化するほどじゃないわね。あぁ、でも…………奥に動く蔦があるわ」

「まぁ、お嬢。見えるんですか? あ、アンデッドの特性」


 ホリーは驚くが、すぐに思い出して気づく。

 魔物の特性としてアンドリエイラは夜目が利く。

 何よりここは庭も同じ場所。

 人間と違って道がないことなど問題ではない。


「俺が呼んだのはこいつだけだ。夜の森を恐れるなら帰れ」

「もう、ゲイルったら。口が悪いの、ごめんさいね」


 アンドリエイラは言いながらまた浮いて、ゲイル自身を人間たちから遠ざけた。


 目的のあるサリアンとカーランは、ゲイルの雑言を無視して続く。

 モートンはいっそ意地で足を動かし、そんな相方にウルはついて行くしかない。

 ヴァンとホリーも二人で戻るには優しすぎる。

 それを見てアンドリエイラはゲイルに聞いた。


「それで、何処へ?」

「ドラゴンを解体した場所だ。あそこが一番血を吸った。蔦も奥から伸びてるだろう」

「あぁ、見えたわ。どうやら他に血を吸った相手を吸収しながら伸長してるみたいね」

「見えねー」


 すぐに応じるアンドリエイラに、サリアンは森の闇に目を凝らすが無意味だ。

 しかたなくアンドリエイラは魔法で火を灯すと、木々に燃え移らない距離を取って飛ばす。

 そうして照らされた火の下では、大小さまざまな蔦が絡まりうごめき、森の端に向かって伸びていた。


「うわ、気持ち悪い! あれってどうしたら倒せるの?」


 ウルの反応に、冒険者たちは落ち着いて得物を抜く。


(本当にウルが警報機扱いね)


 騒ぎ方がまだ落ち着いているため、落ち着いて対処できる相手と見極めたようだ。

 ゲイルはウルの問いに、上から答える。


「動きが鈍いのは力も強くない。無視して進め。捕まったら切れ。触れた者に巻き付いてくるから踏んだらすぐに離れろ」


 的確で無駄のない助言が終わると、戦闘開始となった。


 それぞれが慣れた得物を手に、襲ってくる蔦に対処する。

 互いに助け合う動きも慣れたもので、宙に浮くアンドリエイラは状況に見合わない笑みで観戦をした。


「モートンたちはわかるけれど、けっこうカーランとも仲良しなのかしら?」

「えー? 危ないこともあるし、一人で逃げるし」

「相応の金額を出すこともありますけど、あまり…………」


 悠長なアンドリエイラに、ヴァンとホリーが蔦を切るために押さえつけつつ答える。

 罵られてもモートンほど落ち込まないどころか、カーランは鼻を鳴らして開き直った。

 それを見て、金額に釣られただろうサリアンは話を変える。


「お嬢、方向指示してくれ。俺たちにその余裕はない。っていうか、一発解決の方法とかないのか?」

「やってもいいけれど、あなたたちも巻き添えで死ぬわよ」

「じゃあ、なしで!」


 ウルが先ほどよりも切迫した声を上げる。

 同時に何か気づいてさらに叫んだ。


「なんか蔦とは違うの出てきた!」

「これか! 奥に来たせいか?」


 モートンが大盾で潰すように木の幹へ何かを押しつけた。

 しかし木の幹は文句を言うように身をよじる。


「蔦だけじゃなく木まで!?」

「それにさっき潰したのは虫だ!」


 ヴァンが驚くとモートンが情報共有のために叫ぶ。

 植物が血を吸うのならば、虫もまた血を吸って狂う。

 獣ほど体が大きくなければより魔物化も早いのは道理だった。


 ただそれが悪かったのだ。

 ゲイルはわかっていたから言わなかったことを声高に知らせてしまった。


「きゃぁああ! 虫!? どこどこどこ! 近寄らないで!」


 甲高い声で叫ぶや、アンドリエイラは空中で自分を抱いて発光する。

 次の瞬間辺りが白く照らされた。


「これは、青い炎!? ずいぶん明るいな」

「触るな! 命まで燃やし尽くされるぞ!」


 カーランが驚きと興味を示すと同時に、ゲイルが警告を発した。


 ウルが悲鳴も上げられずモートンに縋りつく姿に、全員が青い炎から距離を取る。


「たしか、青い炎で人だけを焼き殺すような伝説があったんじゃなかったか」

「あぁ、厄災の魔女ハンリエーネの謎の魔法。実在したのか」


 サリアンに、モートンが応じる。

 その間に木々は動きが鈍くなり、虫どころか鳥や獣も青い炎に驚いて飛び出すと、すぐさま焼け死んでいた。


「えーん! 絶対いるもん! あの黒いのいるもーん!」

「確かに森に住んでるのもいるが、やりすぎだ。炎を止めろ、ばか!」


 恐ろしい炎を操るアンドリエイラは、黒猫に叱られて涙目になっている。

 場合によっては微笑ましい状況も、死の炎に照らされた森で笑える者は誰もいなかった。


定期更新(火、土)

次回:ドラゴンの血5

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