表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/99

11話:亡霊令嬢冒険者になる1

 ウォーラスの町は旧村と、新たに整備された新町がはっきりと別れている。

 教会を中心にメインストリートのある旧村は牧歌的な田舎だ。

 しかし境を越えて新町に行けば、活気と賑わいはあるが、ごみごみとした窮屈さと雑然とした無法さが混在している。


「まずは冒険者として登録する。そのために冒険者ギルドに行かなきゃならない」

「そんなものがあるのね。ギルドって、商工業者の集まりじゃないの?」


 先導するサリアンにアンドリエイラが古い知識で聞く。

 それに、押し切られた聖職者のモートンが真面目に教えた。


「ギルドは同業者の組合、職能団体だ。冒険者のギルドは、冒険者を名乗る者たちの管理と技術や知識の維持向上をしつつ、雇われた際の待遇や利益の確保を担う」

「固いよ、モートン。そんなのより、ギルドに登録してないと行けない場所があるってほうが大事でしょ。ハンティアンの森もそうなんだし」


 つらつらと事務的に語るなモートンから、ウルが赤毛を揺らして横入りした。


「あら、村の名前は変わっても、森の名前は変わらないのね」

「なんだい? あの森昔からハンティアンなの?」


 アンドリエイラにヴァンが聞く。


「えぇ、あそこは私の生家が狩猟目的の森として領有していたの。狩猟館を建てたことで、狩猟の森、ハンティアンと呼ばれるようになったのよ」

「え、お嬢。もしかして領主の一族なんですか?」


 ホリーが西に目を向ける。

 そちらに領主館があるのは、アンドリエイラが知る二百年前と変わらない。

 けれど血筋というものは、時と共に変わっていた。


「今の領主は他人。というか、もう国が違うもの。私が知ってるだけでこの村の領主って五回は違う国の人間に変わっているし」


 及びもつかない話に、今を生きる人間たちは言葉もない。

 それ以上にあまりにも長い年月を生きているという事実を語られ、それぞれに思うことがあった。


((やっぱり婆じゃん…………))


 サリアンとヴァンは失礼なことを。


((見た目どおりではない))


 モートンとホリーは警戒が先立つ。

 ちなみにルイスは教会で仕事があるため同行していない。


 そしてウルはもっと個人的な疑問を口にした。


「うちのお婆より年上? だったら最近のこと知らないよね。ここ新しい食材が入ると、創作料理大会とかして、たまに当りがあるんだ」


 自身の祖母と比べての失礼そうな話だが、続く言葉にアンドリエイラは怒るよりも興味を引かれる。


「あら、食も変わったの? それは興味があるわ。そう言えば朝食も食べていないのよね」

「待て待て。まずは登録だ。手続きに時間かかるから、終わってから…………食べるのか? 食べるのか…………」


 サリアンが方向修正をするが、アンドリエイラが死者であることを思い出し聞くが、出会いはタルト作りの最中だった。


 自問自答を見て、アンドリエイラもさっさと済ませようと応じる。


「それで、登録には何が必要? 紹介状と入会金は当てがある?」


 言われた冒険者たちは目を点にした。

 ホリーがアンドリエイラとの常識の違いに戸惑いつつ訂正を入れる。


「あ、その、そんなしっかりしたものではなくてですね。登録だけなら、名前と青銅貨百枚です。冒険者になる人は、危険に臨んでもお金を稼ぎたい人なので、あまり…………」


 言葉を濁すホリーは、白銅貨よりも安い青銅貨が必要であることを説明する。

 その上名前は偽名でも関係ない。

 簡単に犯罪者かどうかは確認しなくてもいいという、雑な制度。


「何よそれ、そんなので組合を名乗るの?」


 アンドリエイラは唖然とすると、ヴァンが実情を教えた。


「だからランクがあるんだよ。冒険者として登録して、真面目に成果を上げてランクを上げる。するとギルドの中で受けられる待遇も上がる」

「つまり登録した状態で経験積んで、その分評価も積むの。もし偽名を捨てて逃げるようなことすると、その名前で積んだ経験は全てなかったこととして一から。貯めたお金預けてたら全部没収」


 親指を立てたヴァンに続いて、ウルも登録抹消の不利益を語る。

 そもそもの前提が違うことを、アンドリエイラも理解した。

 生まれながらに身分があり、その後に力を手に入れたアンドリエイラだが、大抵の人間は生まれながらに持っているものは少ない。


 サリアンはもちろん、ヴァンとホリーは孤児。

 なんの後ろ盾もなければ、親から継ぐ仕事の当てすらない。


「金を稼ぐために危険を受け入れるなら不問ってことだ。そして成果を収めればその分、待遇が良くなる。ただの孤児じゃまともに宿も取れないが、確かに金があってギルドが仕事を保証する冒険者なら話は別なのさ」


 サリアンは、もちろん享受するのみではないとも語る。


「ギルドに迷惑かける形で逃げれば罰則もある。それに組合の支部がある所にはその情報が共有され、冒険者の中でも評価が欲しい者からは美味しい獲物として狙われるぜ」


 そこまで言われれば、アンドリエイラも簡便な登録制度の利点を理解した。

 だからこそ、ギルドの規則に沿わなければ動きにくいように、登録したなら情報が共有されるように、アンドリエイラという脅威に備えるためなのだと。


(いいじゃない。侮らずに立ち回ろうというその気概。悪くないわ)


 アンドリエイラは強者として、弱者の知恵をたたえて悦に入る。

 ただ歩いていては子供扱いしか受けない外見のため、そうして実力相応の対応をされることに悪い気はしないのだ。


 無駄にやる気を燃やすアンドリエイラが連れて行かれたのは、馬車での搬入も想定して作られた五階建ての立派な建物。


「あら、ずいぶんな建造物ね」

「そうでもないよ。もっと大きな町のギルドホールは教会と建築で勝負するくらいだし」


 軽く応じるウルに、モートンが真面目に続けた。


「ギルドの建築にも格がある。ここはギルドハウス程度。大きなものはギルドホールと呼ばれる」

「あら、ちょっと見てみたいわね」


 アンドリエイラが新たな興味を覚えるのを見て、サリアンが促す。


「ほら、入るぞ。ともかくお嬢は下手なこと言うなよ」


 そう言ってサリアンがギルドの扉を開けた。

 一階は階段ホールで、広い幅を取った階段以外は搬入用の馬車道だ。

 二階に上がると室内を区切るように広がるカウンターと、揃いの腕章をつけた職員が忙しく対応している。

 冒険者らしい武装した人々も見えた。


 その中でアンドリエイラのドレス姿は目立つよりも浮くほどに異様。

 しかしその周りを冒険者であるサリアンたちが囲むように歩いた。

 悪目立ちを防ぐためだが、アンドリエイラは上客のような扱いとまんざらでもない。


「やぁやぁ、サリアン。昨日はよい商談をありがとう」


 他を拒否する陣形を敷いても、気づいていないかのように声をかける相手がいた。

 アンドリエイラよりも身長はあるが、ホリーよりも小さい小柄な男性。

 首に巻いた布で首から鼻まで顔を隠した黒い装束。

 金髪はあえて括らず乱した姿は得体がしれない。


 ただ声をかけられたサリアンも、他の冒険者たちも知った相手だった。


「お前がギルドにいるなんて珍しいな、カーラン」

「いや何。昨日面白い商品を持ち込まれたからな。類似品はないかと思ってだね」


 表面上は世間話。

 けれど二人の間には緊張感が漂う。


 サリアン越しにその様子を見るアンドリエイラも、カーランは知らない相手ではなかった。


(この声、昨日サリアンが売り込んだ商人ね。商人が自らギルドに、という感じではないか)


 アンドリエイラから見ても、カーランの出で立ちは冒険者。

 黒い装束は染められた皮鎧、何よりサリアンを見上げる目は、獲物を狙う鋭さがある。


「あんな商品何処で手に入れられたんだ? いやぁ、興味が抑えられなくてな」

「興味じゃなく欲だろ。ここで張ってたわけか」


 剣呑だが、サリアンはアンドリエイラを見て、小声で聞いた。


「誰かわかるか?」

「昨日の商人でしょう?」


 答えた途端サリアンはにやりと人の悪い顔をする。

 次いで作り笑いを浮かべると、カーランの肩に手を置いた。


「そんなに興味があるなら、ちょっと話をしようぜ?」


 サリアンの入手経路を押さえようと商人として動いたカーラン。

 しかしてカーランは訳有商品を卸す先としてサリアンに捕まったのだった。


火曜日更新

次回:亡霊令嬢冒険者になる2

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ