今日は月曜日です月曜日月曜日月曜日
朝、目覚めたおれは、重たい頭を支えながらあくびをした。
手を額に移動させる。……もう熱はなさそうだ。風邪で四日も寝込んでしまったが、明日からは出社できそうだ。今日は日曜日だし、軽く外を歩いて体を慣らそうか。
そう思ったおれだったが、テレビをつけると驚いた。
『おはようございます。月曜日の朝です。月曜日です。今日は月曜日です』
どうやら今日は月曜日らしい。おれは急いでコーヒーを淹れ、朝食を胃に流し込むと、身支度を整えてテレビを消し、玄関のドアを開けた。
アナウンサーはテレビ画面から消える直前まで、今日が月曜日であることを繰り返し伝えていた。
外に出てみると、さっきまで感じていた日曜日の朝の穏やかさが嘘のように、通勤中の会社員が足音を響かせながら歩いていた。
おれもその流れに加わり、駅に向かって歩いた。しかし、妙な感じがする。熱にうなされていたとはいえ、今日は絶対日曜日だと思ったのに。指折りで日数を数えても、今日が月曜日であるはずがない。……まあ、そう考えたところで仕方がない。道行く人たちもみんな我慢をしているんだ。おれは少し楽をさせてもらうがな。
おれは駅に向かう人の群れから外れ、横道へ入った。
少し進むと公園に出た。この公園を横切ったほうが駅まで早いのだが、意外と知らない人が多いらしい。ん? なんだ、あの人は……。
よれよれのスーツを着た男が、バネで揺れるパンダの遊具に跨っていた。ゆらゆらと遊具を揺らし、ひひひひと笑っている。見るからに危ない男だ。関わらないほうがいい。
「毎日が――」
――えっ?
男は歌を口ずさんでいた。それを耳にした瞬間、心の奥に押し込めていた何かが、沸々と湧き上がってきた。ありえない……だが……。
おれは男に近づき、話しかけた。
「あの……もしかして、今日は日曜日なんですか?」
ありえないことだ。街にはあの月曜日独特の空気感が漂っている。だが、おれにはやはりしっくりこない。今日は日曜日のはずなんだ。
「ひひひひ、にちようB? そそそそんなものはもう存在しないんだよう……今は365日、すべてが月曜日さあ、オボボボロオボロロッロロ」
男はそう言いながら、体を前に傾けて盛大に嘔吐した。
おれはポケットからスマートフォンを取り出した。画面には月曜日と表示されている。次にカレンダーアプリを開くと、表示されていたのもやはり月曜日。しかし、明日も月曜日だった。明後日も。その次も。次も……。
おれは公園を出て電車に乗り、会社に向かった。
そして、一日を過ごしてわかった。どうやら、あの男が言ったことは本当らしい。夜になり、眠りについて迎えた朝も、やはり月曜日だった。
この世界はループしている。つまり、月曜日を繰り返しているのだ。
しかし、この奇妙な現象は昨日今日始まったことではないようだ。人々の精神の崩壊具合は異常だった。彼らはまるで数ヶ月、あるいは数年間、月曜日を繰り返してきたようなのだ。
なぜ、おれだけが今のタイミングで月曜日の囚人となったかは不明だ。今は毎日が月曜日なのだから、時間の概念に狂いが生じているのかもしれない。
しかし、そんなことどうでもよくなるくらい、毎日が月曜日というのは想像以上の苦行だった。
太陽が昇るたびに、心に影が落ち、コーヒーの香りはウンコと変わらない。新聞の日付は月曜日のままで、この世界には月曜日の独特な空気感がずっと漂い、テレビで映画の放送もなければ、金曜日のセールは一生来ない。羽目を外す夜も存在しない。なぜなら月曜日の夜の次は月曜日の朝なのだから。
ブルーインパルスが空を飛び、尻からひり出した白い屁で「Happy Monday」と書いた。くたばりやがれ。週末は来ない、終末は来ない。毎日がスペシャルな月曜日だ。エブリデイ・イズ・ア・マンデー。曜日限定のメニューは廃止され、不燃ゴミは出せないまま。月曜は可燃ゴミの日だが、ゴミ捨て場にある死体は回収されない。死んだからって、火曜日に行くことは許されない。それは不公平だからだ。毎日上司からメッセージが届く。『今週も頑張りましょう頑張りましょう頑張りましょう頑張りましょう頑張りましょう』
デスクは中世の拷問器具。書類は無限の暗号。会社の連中がおれから休日の残り香を嗅ごうと群がってきたのは、最初のうちだけ。今ではみんな、ただ汗臭い。
人々は絶望し、自殺と月曜日を繰り返し、そのサイクルから抜け出せないでいる。人間は月曜日の養分なのだ。
なぜ人々が自らの手で火曜日を作り出さないのか不思議に思ったことがあった。スマートフォンのカレンダーの日付など簡単にいじれるはずだ。アナウンサーが強い口調で「今日は火曜日です」と言えばいいだろう。総理大臣が会見を開けばいい、「今日は火曜日です!」と言えば、支持率は急上昇だ。今日を火曜日として、そこから五回目の月曜日を日曜日とすればいいだろう。
もしかしたら、彼らも一度は試したのかもしれない。しかし、今日は月曜日だ。日曜日のように思っても、今日はやはり月曜日だ。早起きしてスーツや学生服を着て、石の下から出なければならないのだ。今日は月曜日だ。月曜日月曜日月曜日。人々は月曜日を忌避するあまり、月曜日に呪われ、また自分たちに呪いをかけたのかもしれない。この人々の意思を統一するのは困難だ。今日が火曜日と思い込もうとしても、凝り固まった頭の人間は言う。今日は月曜日よ。月曜日月曜日月曜日。月曜日にトゥリャトゥリャリャリャ月曜日にトゥリャトゥリャリャ月曜日にトゥリャトゥリャリャ月曜日にトゥリャトゥリャリャリャリャリャリャリャリャ。
おれも何度か自殺を試みたが、目覚めるのはいつも月曜日の朝だ。逃れることはできない。
でも、おれは面白い方法を見つけた。月曜日の夜、寝る前に違法ドラッグを大量に飲むのだ。そうすると、高熱が出て気を失い、目覚めたときにこう思うのだ。
「今日は日曜日だあ……」