チャームの魔術をかけられて惚れちゃいました
一人の男が数人の女を侍らせてハーレムを形成している。その数人の女の中に私もいた。
「ねぇヒューゴ、私と遊びましょうよ~」
「何かしてほしいことはない? 」
「肩に糸くずついてるよ、取ったげる」
「ヒューゴ、好き」
私達は今、チャームの魔術をかけられている。胸がときめいて魔術をかけたこの男の虜になっている。
他の皆はチャームにかけられた自覚がなさそうだ。私は実は魔術師なのでチャームをかけられたことは認識している。だけど抵抗する気にはなれなかった。
私は恋に恋してる。心地良くて、凄く楽しい!
この素晴らしい気分を味わうのは十二歳の頃の初恋以来だろうか。
魔術だと分かっているが別にいいのだ。
その人の外見とか人柄とかそんなのもどうでもいい。
私は人じゃなく恋に恋をする。
私が感じるこのときめきこそが愛なのだ。
今までにも男性からチャームの魔術をかけられたことがあるけど精度が低過ぎた。
心臓をドキドキさせて体温を上げればときめきだと思ってるのか。はっきり言ってキモい。
この方の魔術は素晴らしい。温かい感じがして包まれてる感じがして、そして満たされていく感じ、胸のときめきが気持ち良くて景色がキラキラと輝いて見える。
彼に意識されるのが嬉しい、彼を見ているだけで幸せになれる。
どんなに素敵な方でも恋は冷めていくもの。
でもこの方の魔術ならずっと恋してられるんじゃない?
「おい! 貴様! 魔術を使っているだろう! 」
急に別の男性が怒鳴り込んできた。
「はぁ何こいつ、藪から棒に」
「ぶっさ、消えろ」
「ヒューゴに近づかないで! 」
「キモッ」
当然、ヒューゴに敵対する奴は私達にとっても敵だ。
「私は魔術師です。あなた方から魔術の気配を感じました。恐らくチャームの魔術です! 」
「ヒューゴがそんなことするわけないじゃない」
「はぁ、こいつ、ヒューゴに嫉妬してるのよ」
「私達の気持ちが偽物だと言うの? ひどい侮辱よ! 」
「キモッ」
「今から魔術を解きます。デスペル! 」
チャームが解けた。
感情が落ち着いてきて彼の見え方も変わる、魅力が半減といったところか。
チャームを認識していた私でこれだから他の皆の落差はもっとひどいだろう。
「えっ、ウソ? 急に冷めてきちゃったんだけど」
「マジで死ねよ」
「乙女の恋心を弄ぶとか万死なんですけど」
「………」
「人の心を操るなど最低な行いだぞ! 」
解呪した魔術師が憤る。
私に限っては嬉しかったが、確かにに最低な行いだ。
「そーよ! 傷付けた分、罰を受けなさい! 」
「おらぁ! 」
「ゴミクズ! 」
魔術師の男が見守る中、女達のリンチが始まる。
私はむしろ感謝してるのでヒューゴにバリアを張る。
魔術師の男の解呪の技量から類推して気付かれない位の隠蔽を施した魔術である。ダメージが三割減するくらいの効果があるはずだ。後は見学する。
ヒューゴはうずくまっていいようにやられている。
ヒューゴのリンチが終わると皆去っていった。
「皆行っちゃったね」
「ありがとう、助かった」
あのチャームの魔術を構築できるほどの繊細な感性だ、私の魔術に気付いたようだ。
「………」
ショックなのか黙り込んでいる。
落ち込んでるようなので褒めてみる。
「あなたの魔術は素晴らしいわ。その魔術を組めるあなたも。恋の素晴らしい感覚を繊細に探求しないと魔術に組み込めないはず、あなたは本当の愛を知っているのだわ」
「………ぐすっ、ありがとうございます」
なんか可愛いな。
話してるとなんだかまたときめいてきた。
魔術の気配はない。