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終末時計の魔女~あと12分で世界が終わるけど全く信じてもらえない~  作者: 矢坂楓


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6/7

東の国の悪役令嬢、英雄譚を駆け抜ける……?(-16分、)

 英雄とは番えられた矢のように真っ直ぐ役割を果たし、矢束のように替えが利く。

 それでいて、一本一本がともすれば世界を(むしば)む毒、その命を奪う可能性を秘めている。

 これ以上に便利で効率のよいものはない。世界を正しくコントロールするという意味で、それはあって然るべき存在であった。

 だが同時に、それらが活躍しすぎるということは畢竟(ひっきょう)、平和が長続きすること。

 平和とは薬に似る。過ぎれば毒となり、世界から危機感という適切なストレスを奪っていくのである。

 神にとって世界が最終的にどうなろうと構いやしないが、『どうなる』かまでの猶予は長いほうがいい。何故ならその方が楽しいから。


 従って神はこの世界に被差別階級(亜人種)の存在を由とし、それらが世界をひっくり返そうとする刺激(ストレス)を仕込んだ。だがミスがあったとすれば、その密集地を人類の未踏地帯に放り込んでしまったこと。

 結果的にそれは亜人種達の団結を促したが、人間達が脅威に気付く頃には手遅れになってしまう……そんなリスクを抱えてしまった。


 ()()()()()()()


「というわけで、サクッととっちめて参りましたわ! 次のご依頼を頂戴な!」

「えぇ……」


 西の国家第二都市、冒険者ギルド。その受付にて、元・東の国の貴族令嬢であらせられるレステリーゼ・グライフはものの見事に両断されたアンピプテラ(翼ある蛇)の首を担いで現れた。銀髪と白い肌には一切の返り血を被らず、高温で焼ききられたであろう切断面は「一刀両断」としか喩えようのない流麗な痕跡。だが、簡素な防具と元・貴族の気配が欠片も感じられないパンツスタイルのその身には、刃物一本帯びていない――ひときわ目立つものといえば両手に装着された、不自然なほど物々しい《魔術機甲》ぐらいだろう。水分を帯び、蒸発させ。それらを繰り返したであろう斑模様が、紅鋼の表層を覆っているのがわかる。


 彼女がドレス姿で現れ、冒険者として登録すると言い始めた時は職員一同、どうしたものかと頭を抱えた。彼女が既に子爵位ごと東の大国とのパイプをぶった切って独自路線を走り始めたことはこの国にも知れ渡っていたが、だからって西に来て登録しなくても、と。しかし「冒険者」という概念が西の国にしかないのなら、致し方なし、という気もするか。


 そもそも、東と西では国家における治安維持の手段が全く異なる。

 王政を敷き、絶対強者としての騎士団を束ね、国家の端々にその権力と監視網を張り巡らせた東の国。これは国力と予算を遠慮無く注ぎ込み、一極集中の政権があるからこそ可能な業だ。ゆえに冒険者という不安定な武力に頼らない統一性がある反面、頭ひとつ抜けた実力者を生みにくい。


 他方、西の国は共和制による統治をいち早く取り入れ、一定の軍事力を有するもののその予算は東と比して大きく制限される。不平不満を持った国民が、民意を味方につけさえすればいつ如何なる時でも、権力をひっくり返しうる構造だからだ。故に市井(しせい)の人々の承認欲求や英雄願望を刺激する意味で「冒険者」という職位を作り、その実力をある程度の階級で区分した。己が立場を省みず、分不相応な魔物や盗賊のたぐいに挑みかかって命を失わぬよう、そして上を目指す欲求を刺激するよう『配慮』した結果である。区分をどう位置付けるか? については、登録時の試験官との模擬戦と監査員同伴による依頼の遂行が判断基準だ。


 そういう意味では、レステリーゼ嬢は登録時からそこそこ以上に規格外だった。

 令嬢、という名が疑わしいほどの逸話を持つ彼女を正当に評価すべく宛がわれた上級一等(さいじょうい)の試験官が、木剣と籠手の一合を以て「自分と同格かそれ以上だ」と匙を投げた程だし、冗談だろうと中級三等(まんなかあたり)の依頼を監査員同伴で――おおよそ一週間を見込んで――送り出したら、当日中に遂行して帰ってきた。なお監査官はその速度感についていけず、()()()しまっていた。


 これを以て、レステリーゼ・グライフは上級五等、つまり初・下・中級の十五等級をすっ飛ばして上位陣の一翼として冒険者ギルドに組み込まれたのだ。その後一週間でさらに二等級上がったのだが。


「上級三等以下の依頼でしたら、この辺りは大体全部当てはまりますね。上級のみに絞っても暴君猪(タイラントボア)枯渇蔦(デプレジョンアイビー)それぞれの討伐、それと……いえ、これはちょっと適任が別にいるでしょうか……」


 レステリーゼの余りの快進撃に言葉を失っていたギルド職員であったが、即座に候補が複数出てくるあたりは流石、ギルド本拠地勤めというべきか。リストアップされた討伐対象はいずれもが個体として強敵であると同時に、群れの頭目として数を頼りに辺り構わず荒らして回る凶悪な連中だ。上級下位なら三名以上で寄合(パーティー)を組んでいなければ受注すらできないタイプ。それを単独でもよし、と許可が下りるだけ、レステリーゼの実力が埒外であることの証明でもあった。が、最後の言い淀みが引っかかる。


「もうひとつの依頼は何ですの? それらしいものはクエストボードには見当たりませんけれど」

「――レステリーゼ様、これは今のところ余り表には出していない話なのですが……実は、ギルドの若手冒険者の『元』有望株が行方を眩ませていまして」

「『元』? 今は期待されていませんの?」

「全く期待していない、とは言いません。が、レステリーゼ様が登録される少し前に上級二等クラスの寄合が解散しています。各個人の実力は上級一等から中級三等相当までと幅がありましたが、この『実力』もどうやら報告と事実とで乖離があるらしく……」


 ギルド職員は言葉を選びながら、慎重に話を進めた。レステリーゼは東の重要人物とはいえ、ギルドでは新参者だ。パーティーの離合集散などは珍しくも無いが、実力の偽装や誤認が前提の解散ともなれば話は別だ。本当なら隠しておきたい。おきたいが、今は事情が異なる。意を決した表情をした職員は、レステリーゼに?んで含めるように告げた。


「その『乖離』を引き起こした報告主……元・上級二等パーティーリーダーのビルという青年剣士が、ダンジョン奥地で行方を眩ませました。彼は即席の寄合にてそこに向かいましたが、難易度上は問題ない場所です。なのに、彼は姿を消した。そして、」


 即席の寄合を組んだ3名のうち、二名が死体として担ぎ込まれ、残り一名は彼の伝言を残して息を引き取った。

 曰く、「ここで俺は生まれ変わる、全てを手に入れる」と。

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