将来有望すぎる冒険者がいきなりパーティーから追放された(+3分)
◆
「クリス、君には今日限りでパーティーから抜けて貰う!」
「……いきなりだな、俺達は上手くやっていけてただろ?」
「『上手くやっていた』だって!? 君の目はガラス玉か何かで出来ているのか!」
二一時三二分。
西の国、冒険者達のホームタウンの一つ。その酒場の前で、二人の男が言い争いをしていた。
方や、いかにも堅牢そうな鎧と兜に身を包んだ、身の丈一八〇はありそうな偉丈夫。声のトーンからして二十歳を少し過ぎたあたり。
もう片方はといえば、鎧の男とくらべれば小さく、いかにも頼りない様子の少年だ。年の頃は十七かそこらだろう。薄汚れた外套とぼさぼさの黒髪、その下に纏った衣類も決して上等には見えず、彼ら二人が同じパーティーとして活動しているとはとても考えられないほどに、身なりに差がある。
鎧の男の後ろでは、いかにもな露出の多さと不似合いな杖を持った、緋色の髪の魔術師然とした女、純白のローブを煤で汚しつつ、体の節々にサポーターを装着した治癒術士らしき金髪の少女、そして明らかに不釣り合いな長柄武器を手にした、黒髪の褐色女戦士――まあ見事なまでの女性比率だ。
三者三様に少年を見る目、その印象は異なるが、共通しているのは『あちらに味方するのは旗色が悪い』という打算の気配。
「いいかいクリス、僕達は君を《仕立屋》兼《探索者》として仲間に引き入れた。そもそも同じパーティーに入れた理由だって、俺達の装備を仕立てたうえで、あとは僕達の役に立つなら一緒に居てもいい、そう言ったんだ。材料の調達は冒険の中で、報酬は普段の依頼のあがりから取り分を多めに見積もって……それで足りないというんだ、君は! 素材も、報酬も!」
「仲間に入れてくれた事も、気を遣ってくれてるのも十分分かってるさ! でもビルは出来るだけ稼げる依頼を、換金率の高い素材を、ってそればっかりで、俺が全員に見合う服を作ろうにもあと一歩足りないものしか出来ないんだよ! それでも、そこらの連中よりはマシだろう?」
「ああ、マシだとも。それに加えて《《探索者なりの働きをしてくれれば》》もっとよかったんだ。君の働きときたらなんだ! 何度ダンジョンに潜っても、罠を解除しただの、何か見つけただの、《《そういうこと》》が一度もなかった! つまりは役に立っていなかった、そうだろうみんな!?」
ビル、と呼ばれた甲冑の青年は、クリスを指差して背後の仲間に問いかけた。言葉こそ発さなかったが、各々に消極的な同意を示しつつある。
ここまでの騒ぎを起こして周囲が全く驚いていないのは、冒険者パーティーで追放しただされただは日常茶飯事で、しかもこのビルという青年はどうにも……実力こそあれど色々と素行に問題があることは周知の事実だ。それでも仲間が居る、女を侍らせているのは「実力は本物だから」「逆らえない理由があるから」「諸々の契約を結んでいるから」などが挙げられる。これでビルが彼女等に手を出していないことだけは、如何に素行不良であっても冒険者として線引きが出来ている証左であろうか?
が、クリスの言い分にも一分の理はある。
如何に優れた《仕立屋》であろうと、素材がなければ何も作れない。一の性能の素材から三くらいは引き出せても、十や二十の性能は引き出せないのだ。なれば優れた素材を――単純に希少度や額面のみの話ではなく、個々の相性や体格や適正に沿ったもの――必要とするのは無理からぬ話であった。
現に、ビルのパーティーの面々が身につけている装備、その幾つかはクリスが仕立て、パーティーの評価向上に十二分に寄与したといえる。
果たして彼らの契約条件が対等であるかは、激しく疑義が残る。それでもクリスがビル達に同道しているのは、彼なりの義理や、仕立屋としての矜持のようなものだろう。一端の仕立屋として、半端なものを掴ませて骸とともに拾い上げられる、そんな未来は見たくない。《《なによりも仕立てた服が可哀想だ》》。
無論、探索者としての働きについても彼は十分にやっているつもりだ。だが、戦場の誉れに気を取られて状況報告が雑になりがち、実際の達成値よりも低く見積もられがちなビルである。代わりにクリスが報告を請け負ったことで、このパーティーは正当な評価を受けて、それなりの稼ぎを手に入れているのだ。……多分に俺のおかげもあるのだ、とクリスは口にしない。
しないからこそ、認められなかった。
いわばこれは相互不協和の結果である。
ビルはクリスの真価を理解していない、引き出せないまま功名餓鬼じみた邁進に仲間を付き合わせ、
クリスは裏方であろうとしすぎて、彼らに己の正当な評価をさせなかった。
……なので必然、すがりつこうとしたクリスを剣の鞘で打ち据えようとしたビルの行いは非難されこそすれ、気持ちは理解できるというのが他のメンバーの総意だった。彼女等もクリスの実力を把握し切れていないのがネックだったが。
◆
「……という感じで、一方的にバシバシ叩くのはよくないので私が止めに来ました」
「誰だ、あなたは?! 僕達の話に頸を突っ込まないでいただきたい!」
「誰だ、ですか。そうですねえ」
まったく、整理するほど雑な行き違いもあったものです。
そして、忽然と現れた私に名乗れとは。首が飛ばなくて本当に良かったですね、ビル君。
「『中つ森の魔女』、と名乗ったら信じてもらえますか?」
「中つ森の……? 確か、あちらこちらに顔を出しては意味の分からないことを早口でまくしたてては何かにつけて文句を吐き散らし、出会った者は悉く未来が不安になっておかしくなってしまう、あの魔女か!」
誰だって聞かれたから名乗ったら、凄い評判と一緒に罵倒されたんですけど何ですかこれ。
「あれっ私そんな酷い悪評ばっかりでしたか? ちゃんと社会貢献しましたよね? 五十年程前に一世を風靡した画家の青年、彼に『看板のひとつでも描いてご覧なさい』って言ったらいい感じに東西の国交が活発化して、結果的に文明はもとより錬金術や医術の発展もしたことあったじゃないですか?」
「東の国に生まれた貴族の娘に会いに行って、『男はちゃんと捕まえておきなさい』とかなんとか伝えたと聞いたぞ! そのご令嬢がその後、猜疑心が強くなったり鍛錬や為政にずいぶんと口を出すと、お家でも大層な混乱になっているそうじゃないか! 彼女はあなたの迂遠な助言でおかしくなったんじゃないのか?!」
うっ、今まさに歯車が狂って婚約破棄されたレステリーゼ嬢のことを突きつけられると耳が痛い。けれど教養と鍛錬の涵養は貴族の子女としては当たり前の嗜みでは? 将来嫁ぐから何も考えずに後ろを歩いていろと言う気なのかな? それはなんだか納得できないなあ……。
いや待てよ。今その話、クリス君の追放とは関係ないな?
「……そうですよね、その話はクリス君を追放していいか悪いかの話と関係ないですよね? 私はですね、彼の言うとおりに一度素材を用意して、装備を作らせてから判断すればいいんじゃないか、今まで苦戦していた敵を相手にしてみればいいんじゃないか、って思うんですよね。報告書もあるんですよ私」
「ぎ、ギルドの報告書!? 厳重に管理されてる筈じゃ」
「こんなの|転送魔法と複製魔法の合わせ技ですよ。あなた達の前に立っているのは中つ森の魔女ですよ?」
ここに取り出したるはクリス君がギルドに上げている報告書。ビル君達が何にも考えないまま享受している結果のなんたるかがここにはある。
そう、例えば。
「先日行ったダンジョンを……へえ。クリス君が予め罠を遠隔で解除して? それと分からないうちに隠し通路を発見し? 全員一丸となって倒した奥地の敵は真に踏破しないと会えないであろう裏のヌシだった可能性が大、と。ギルド側も調査させたら元々踏破されてると思ってたからちょっとした騒ぎで? でもビル君達は単純に、あそこを踏破してすごーい、程度の褒められ方だと思ってたと」
報告書から読み解ける内容は、ビル君達がいかにクリス君の探知能力におんぶにだっこで名声を稼いできたか、の証明である。隠しボスみたいな立場だろうダンジョンマスターを倒したのは単純に凄いけど、そうでもなければ延々と右往左往してから適当な収穫を手にしょっぱい報酬を得ていた訳だ。有難うとごめんなさいが必要だよね。
「《雷光球》!!」
「はい《純水籠」
「!?!?!!?」
顔を――兜に覆われている以上は分からないけど――真っ赤にしているだろうビル君を差し置いて、緋色の髪のコが魔法を放ってくる。転送魔法で鸚鵡返しにしてもいいのだけど、それじゃ彼女が可哀想なので電撃は暴れさせてやる。尤も、不導体の純水の籠のなか、どこにも放たれないむなしい電撃だ。
そのやりとりだけで『上下』ははっきり決まってしまったので、女戦士は歯噛みし、治癒術士は憂いを帯びた顔で肩のサポーターに触れた。ははあん、彼女はクリス君の仕立てに満足してるクチだな?
「そこのコは分かってる筈なんだから、いっそ君とクリス君で追放されればいいんじゃない? 二人旅、楽しいかもよ」
……え、あれ、違う違う。
「「なるほど」」
「待ってくれよそれは無いだろう?! 違う、僕はクリス、君だけいなくなれば――」
「幻滅」
「なっさけなー。いち抜けるわリーダー」
違う、そうじゃないそうじゃ無い、君達はパーティーとして
「……魔女様、いい提案を有難う。行こう」
「はいっ!」
そうじゃなくてですねェー!?
――終末時計、23:48から依然変わらず。




