03話 転職、そして出会う
ようやくヒロインの登場です。
異世界ものなのにまだ戦闘シーンなくてすいません。
異世界生活が始まり、20日と2日が過ぎた。
相変わらず、アスラさんのところで仕事をする毎日。
あの日から一度も冒険者依頼はうけていない。
自分の惨めさを周りに見せたくないというのが本音である。
少しこの生活に慣れた気がする。
しかし、一つだけ慣れない事がある。
「おい、タクヤ。さっさと仕事終わらせろぉぉおおお!」
今日もアスラさんの怒号がそこらじゅうで聞こえる。
僕が慣れないのはこの仕事だ。
最初のうちは2週間もすれば仕事量にも慣れるだろう。
そう思っていた。しかし、それは甘かった。
「仕事に慣れてくから増やしても大丈夫だよね?」と、仕事を増やされる。
笑顔でそんなことをするアスラさんは時々悪魔のように見える。
そんなことも言えるはずもなく僕は渋々言うとおりに仕事をしている。
「よ〜し、今日の仕事終わったぁ...。」
これがこの世界での僕の口癖である。
仕事が終わるたびに毎日毎日言っている。
今では、意識せずとも言ってしまってるくらいだ。
そして、僕は一日の働き賃をもらうと現場をすぐに飛び出した。
向かう先は食料店だ。
これが僕の日課でもある。
仕事が終わり疲れた体を癒やすためにある食べ物を買いに行く。
「おばちゃん、いつもの1つください!」
そう言って、130へルティアをおばさんに渡す。
そして、手渡されたじゃがいもを潰して油で揚げたもの。
中にはチーズも入っている。
最近これにドハマリしている。
名前は...ないらしい。
最初に聞いたときに、「名前?そんな大層なもんねえべ。」と言われた。
一口かじると広がる、じゃがいもの風味。
そして、チーズがじゃがいもと絡んでまた美味しい。
「よぉ駆け出しぃ〜〜。駆け出しは母ちゃんのおっぱいでも飲んでねんねしな〜〜!」
酔っ払いだ。
この世界に来て何度目だろう。
僕はいつもどおり無視して、その場を後にする。
しかし、こうも駆け出し駆け出しと煽られる。
この世界の風習なのか?
元いた世界では、「や〜い、引きこもり〜!」や、「ヲタクはこっちに来るな!」
など散々言われてきた。
差別(?)というか、弱いものを下に見るっていうのはどこも同じらしい。
もっとも、前の世界では自分の方が弱いと認めたことはないがな!(←どこか自慢げ)
すこし、ボーッとして歩いていたらどこか知らない裏路地に入っていた。
・・・まずい、裏路地って何かこう、変な奴らに絡まれるっていうのがお決まりなんじゃ?いやいや、そんなこと本当に起きたらどうする。考えるのやめよう・・・
その時だった。
後ろの方からなにか気配を感じる。
僕の方をジーと見つめる熱い視線。
僕に興味があるのだろうか?いや、そんなに生ぬるいものじゃない。
少し鳥肌が立ってきた。
本能的に危険だと体が教えてくれる。
溢れ出てくる冷や汗。
手足の震え。
しかし、そんな視線もいつの間にか消えていた。
一体何だったんだ?
不思議に思いつつも足早に裏路地を出た。
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そして、また数日が過ぎた。
アスラさんの仕事のせいで常に体が限界だ。
確実に引きこもり生活を送っていたせいだ。
僕は決めた。
「アスラさん。すいません。僕、この仕事辞めます!今までお世話になりました。」
「タクヤ、今日まで仕事ありがとな。また困ったらいつでも来な。仕事たくさん準備して待ってるから!」
「待ってなくて結構で〜す!!!」
きつかったがなんだかんだ言って楽しかった。
久しぶりに体を動かして汗を流せた。
仕事の厳しさというものを身を持って経験することもできた。
アスラさんには本当にお世話になった。
僕は深く礼をするとそのまま走り出す。
5mくらい離れたときに僕は「ありがとうございました!」と大きな声で叫んだ。
すると、背中の方から「体を大事にな〜〜〜!!」と言ってもらえた。
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今日の予定は、安定して収入がありそこそこ楽な居住家の仕事場を見つけることだ。
言ってしまえば今日辞めた仕事の埋め合わせだ。
そんな良い条件の仕事なんてあるのだろうか?
もしかしたら、あるかもしれない。
淡い期待をいだき、少し足取りが軽くなった。
町を少し歩くと求人の看板がたくさんある。
ー日給50000ヘルティア 口の硬い方募集ー
ー日給15000ヘルティア 体力に自身のある方ー
ー日給100000ヘルティア あるものを隣の国まで運ぶだけ 住み込み可ー
ー月給400000ヘルティア 三食付き 住み込み可ー
ー時給1500ヘルティア 通行止めの看板持ちー
まだまだたくさんあるが本当にいろんなのがある。
なんか怪しいのもあるが...。
5個目は論外として、3個目も給料の高さで言ったら捨てがたい。
だけど、危ない仕事について警察的な組織に目をつけられるのもまずい。
答えは1つしかない。
「すいませ〜ん。表にあった求人の看板を見てきたんですけど。」
扉をたたき大きな声で言う。
すると、奥から一人の女声が出てきた。
「働いてくれるんですか?ありがとうございます。これからよろしくね☆」
「はい!」
反射的にハイと言ってしまった。
僕はこういう人が苦手なのだが大丈夫なのだろうか。
彼女の名前はハンナという。
人間とのハーフの森の妖精らしい。
彼女はノリは良いが、しっかりと仕事について教えてくれる。
ここの仕事内容はカフェの接客&調理。
仕事において重要なこと等も丁寧に。
僕みたいな陰キャは調理のほうが良いと言ったのだが...。
ハンナさんは「新人は接客でしょ!」と言いまともに取り合ってくれない。
そして、早速僕のこの店での初仕事が始まるのだった。
ー数日後ー
ータクヤ〜。オーダー入ったよ!ー
ーは〜い。今向かいます。ー
ータクヤ〜。厨房任せても良い?ー
ーわかりました!接客お願いしますね〜ー
ータクヤ〜。ちょっと......ー
あの日からずっとこんな調子だ。
結局僕は接客と厨房両方任されている。
料理はある程度できる方だったから良い。
問題は接客だ。
お客さんの気を悪くさせないように敬語をたくさん使う。
かえってそれがお客さんの気を悪くしてしまっているみたいだ。
しかし、敬語を使わずに喋れというのは非常に難しい。
こういうことになるんだったら人とよく喋っておくんだった。
と、後悔している暇もなくすぐに呼び出される。
「はぁ〜い。今行きます!」
ハンナさんのもとへ行きオーダー内容を聞く。
そして、厨房に行き調理を開始する。
今回は、オムライス風炒飯。
最初はよくわからない料理だったが、意外と美味しい。
炒飯の上に半熟卵が乗っている。
まんまオムライス。
ハンナさんにも、「これってオムライスですよね?」と聞いたことがある。
しかし、「違うよ。オムライス風炒飯だよ。」
どうしてもそこは譲らないみたい。
作り方は簡単。
炒飯を炒めつつ、ほぐした卵をフライパンに入れる。
少ししたら、半分に折り皿にも盛り付けてある炒飯の上に乗せる。
後は、彩りを良くするために周りにサラダを乗せる。
初めて造ったときには、なかなかうまいと褒めてもらえた。
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ようやく一日の仕事が終わった。
今日の夜ご飯は厨房で余ったご飯とおかずもろもろ。
この時が一日の中での癒やされる時間。3つのうちのの1つ。
もう一つは、店にある風呂に入ること。
最後は布団の中に入る瞬間。
そして、今日も一日が終わり眠りにつくのだった。
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今日、僕がする仕事は『おつかい』だ。
おいおい、そんなん小学生でもできるぞ?なんて思うかもしれない。
僕も最初はそう思っていた。
しかし、現実は違った。
想像以上の量の食材が書かれたメモを渡され、文字通り絶望した。
多すぎる。
いくらなんでも多すぎる。
しかし、給料をもらうためだ。頑張らないと。
そう自分に言い聞かせて、店を回り始めた。
ーおばちゃん、豚肉10kg頂戴ー
ーおじちゃん、米50kg頂戴ー
ー坊主、重いから台車使ってくか?ー
ーありがとう!ー
カフェの近くに来るまでに、とんでもない量の荷物になった。
台車を貸してもらったとはいえ、めっちゃ重い。
それどころか、食材が山になって前が見えづらくなっている。
脇道から出てくる人に注意しないと。
そう考えていたときにそれは起こった。
脇道から僕と同じくらいの銀髪の女の子が飛び出す。
僕はそれに気づき、避けようとするが当たりそうになる。
僕は最悪の結末を避けるためにありったけの力を台車に込めて左に急旋回する。
その時だった、台車がバランスを崩す。
「あぁっ!」と、声が出たが無意味だった。
今日頑張って買った食材は道にぶちまけられてしまった。
今日二回目の絶望だ。
今日は最悪の日そう思っていた自分がいた。
しかし、直後にその考えは間違いだと気づいた。
『銀髪の彼女』は美しかった。真っすぐで、腰まで届く銀色の髪。
理知的な真紅の瞳。柔らかな面差しにはツヤと幼さが同居している。
しかし、どことなく焦っているように見える。
そして、直後に数人の男が近づいてきているのに気づいた。
なるほど、『訳あり』なんだ。
僕はそれに気づいた瞬間に考えるよりも先に行動していた。
彼女の華奢な手は握っただけでも折れそうなくらいに細かった。
「「「ついてこい!」」」
『彼女』は驚いていた。
それもそうである。
自分のせいでい大切な荷物がだめになってしまったのだ。
最初の一言くらいは怒号が飛んでくるかと思っていた。
しかし、最初に聞こえたのは自分を助けてくれるという『意志』だったのだ。
今まで、自分に手を差し伸ばしてくれた人はいない。
そんな経験が彼女を驚かせる原因にもなった。
「貴方は、誰?」
思いっきり走りながら『彼女』は叫んだ。
後ろからは、さっきの大人たちの殺気に満ちた声が聞こえてくる。
ーその女を離せぇええ!! クソガキぃいいいいいいい!!ー
僕は悟った。
自分は厄介なことに首を突っ込んでしまったらしい。
しかし、そんなの今はどうでもいい。
そして、僕は口を動かした。
「僕の名前は、北見卓也。タクヤって読んでくれ!」
「私は、レナ。助けてくれてありがとう。」
こうして、僕と『彼女』、『レナ』と出会ったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
次回からはレナをバンバン使っていきたいと思います。
それでは、また〜。