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流れ星の作り方  作者: M
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雲の下


 夏休み。ボクは虫取り網を持って公園に来ました。

 茂みの中で何度も網を振りましたが今日はあまり取れませんでしたので、家に帰ろうとしていました。


「アイス買って~!」


 女の子が泣いているのが見えました。ポロポロと涙がコンクリートの上に落ちていきます。

 女の子のママが「もう行きますよ。」と少し呆れたように言いました。それを聞いた女の子はしぶしぶとママのところへ走って行ってしまいました。


 さっきまで女の子が立っていた場所には涙の水溜まりが出来ていました。

 すると、そこへ男の子がやって来て、水たまりを見ています。そして胸のポケットから小さなビンを取り出しました。試験管のような小さな細いビンです。

 男の子がビンの口を水溜まりに近づけると、涙は吸い込まれるようにビンに掬い取られました。


 ボクは立ち木の陰からその様子をじっと見ていました。


「何してるんだろう?」


 男の子はビンをポケットに入れると、広場の方へ歩き出しました。

 ボクは気になって、男の子の後ろをついて行きました。

 不思議な男の子でした。歩いているのに走っているみたいな速さでどんどん進んで行きます。ボクは走って追いかけました。


「はぁはぁ。」


 ボクが息を切らして広場に着くと、男の子は天体望遠鏡で空を覗いていました。まだ日は高く、雲一つ無い青空。いいえ、遠くの山の方に雲はありますが、もちろん星なんて見ることはできません。

 変な子だな、と思いましたが、それよりもボクは望遠鏡の方が気になりました。


「かっこいいね。キミの望遠鏡?」

「ああ。家から持ってきたんだ。」


 男の子は優しい声で答えてくれたので、ボクは安心しました。


「キミは誰? 何をしているの?」

「私かい? 私は天文学者だ。」


 テンモンガクシャだって? 変な名前。


「何が見えるの?」

「まだ何も見えない。」

「何も見えないのに見てるの?」

「ああ。何も見えないことを見ているんだ。」


 ボクには訳が分かりません。


「何で?」

「空に何もない日は、流れ星にちょうど良い。」

「流れ星!? ボクにも見させて!」


 男の子は「まだ何も見えないよ。」と、もう一回言ってボクに天体望遠鏡を覗かせてくれました。

 確かに、黒い丸の中には空の青しか見えません。


「ホントに何もないね。流れ星は夜になってから見えるの?」

「ああ。今夜は流星群日和だ。」


 リュウセイグン?この男の子は難しい言葉を知っているようです。

 ボクはこの男の子についてもっと知りたくなりました。


「キミは近くに住んでいるの?」

「いや、離れた所だ。」

「ここには一人で来たの?」

「ああ。私はいつも一人だ。」

「夜になったら、ここで流れ星を見るの?」

「いや、今から流れ星を作りに行くんだ。」


 流れ星を作るだって?

 ボクはびっくりしました。

 男の子も言った後で、しまったと言う顔をしました。

 ボクは「流れ星作る所へ連れてってよ。」と、お願いしました。


「ダメダメ。話すのが久し振りだから、つい口を滑らせてしまったな。」


 男の子はしまったという顔をしながら天体望遠鏡を片付け始めました。

 ボクは何度もお願いをしました。だって、流れ星を作るなんて素敵な事、見たことも聞いたこともないんですもの。


「ちょっとだけ見せてよ。お願い!」

「でも高くて怖いよ。」

「平気だよ。」

「危ない所なんだ。」

「気をつけるし。」

「知らない人について行ったら、ママが心配する。」

「でも嫌だ!」


 ボクが「どうしても行きたい!」と強く思っていると、自然に涙が出てきました。


 すると男の子は、あの小さなビンをボクの頬に当てました。涙はビンに吸い込まれます。

 なぜかボクは心が穏やかになって、もう涙は出てきませんでした。

 男の子はビンをしまいながら、優しく言いました。


「今日は、お家で夜空を見上げてご覧。」

「どうしてもダメ?」

「ああ。その流れ星にお願いするといい。」


 いつの間にか、あんなに大きかった天体望遠鏡は小さな箱にしまわれて、男の子のズボンのポケットに入れられました。


「じゃあね。」


 男の子は手を振ると、公園の出口へと歩いていきます。足が速いので、あっという間に公園から出て行きました。

 ボクは心の中で(とお)まで数えました。そして虫取り網と籠を端っこに置いて、男の子の行った方へ走り出しました。


「絶対について行くんだ。」


 男の子に見つからないように追いかけるのは大変でした。全力で走らないと置いて行かれますし、近づき過ぎてしまうと気付かれてしまいます。

 走っては建物の陰に隠れ、見失わないようにまた走るを繰り返しました。


「どこまで行くんだろう? 家へ帰るのかな。」


 そうこうしていると、町の裏山まで来ました。男の子は山を登り始めました。

 ボクはこの山をよく知っていました。何度も虫取りに来ていたからです。見つからないように隠れながら後をついて行くのは、町の中よりも簡単でした。


 裏山の中腹まで来ると、男の子は立ち止まりました。そこには開けた場所があって町が遠くまで良く見えます。もちろん青空も。

 男の子は両手を空に伸ばし、何もない所を掴んで引っ張りました。すると、遠くの空に浮いていた雲が、男の子の近くにどんどん集まってきます。


「雲を引っ張ってるんだ!」


 ボクは小さな声で驚きました。


 そして雲は階段になりました。男の子は、するすると階段を上って行きます。

 ボクも男の子の後ろについて雲の階段を上りました。雲に乗るなんて初めてのことでしたから、足元がふわふわとして何度も転びそうになりました。

 でも、それ以上に心がふわふわとして、楽しくて楽しくて堪まりません。ボクはどんどん階段を上って行きました。


 どのくらい上ったでしょう、ボクの頬に赤い光が差してきました。

 夕陽です。


「うわー、キレイだな。」


 高い場所から見る夕陽は、町で見るのと違って煌めいて見えました。

 ボクは少しの間、朱色に染まる太陽を見つめていました。

 赤い丸が山の陰に隠れ、空はだんだん赤紫の不思議な色に変わって行きます。

 町には灯りがつき始め、地面の方が先に星空になったように見えます。


 ボクは下に広がる町の方を見ていて気が付きました。

 何ということでしょう!今まで上ってきた雲の階段が少しずつ消えていっているではありませんか。


「大変だ!」

 この雲の階段から落ちたら、()逆様(さかさま)に落ちてしまうに違いありません。ボクは慌てて走り出しました。


 男の子はもうかなり上の方まで行っていました。ボクは無我夢中で走ります。

 どんどん雲の階段は消えて行きます。足元まであと数十段ほどしか残っていません。


「どうしよ、どうしよ。」


 そうは言っても、もう上だけを見て階段を駆け上がるしかありません。

 雲の階段は、学校の階段や山道の段差とも違っていて、ふわふわで走りにくく、何度も引っ掛かってしまいます。


「あっ!」


 転びそうになったとき、靴が片っぽ脱げてしまいました。

 泥で汚れて、茶色と白のまだらになったボクの名前が書いてある靴が落ちて行きます。

 そして、階段の残りは三、四段まで迫ってきていました。

 ボクは恐ろしくなって、震えた声で精一杯叫びました。


「助けて!」


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