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第4話 依頼

「都にいれば、富も権力も思いのままでしょ。なんで粗末な暮らしをしているの?」

 呆れながらその小屋を見た鈴華は、再び思わずそう問うてしまう。

「常に、殺されるか一生飼われるかの二択しかないんだ。そんな場所に好き好んで長くいたくはない」

 蒼礼は何を言っていると思ったが、薬缶を探し出すと外へと向う。鈴華もまた外へとついて来た。

「皇帝があんたを殺すとは思えないけど。そりゃあ、傍に置くのが不安になる瞬間はあるでしょうけどさ」

 黙々と火を熾す蒼礼に、鈴華はついそんなことを言ってしまう。

「お前こそ、俺に近づかなければ、少なくとも平和に暮らせただろう」

 そんな鈴華に、余計なことをしているのはお前だぞと蒼礼は冷たい。そしてちらっと鈴華を見ると

「それで、俺の家まで見学して、捕まえるんだろ。それから殺すつもりか?」

 と訊いた。

 虎一族にとって、蒼礼は仇と呼ぶには憎すぎる存在だ。見つけ次第、その恨みを総てぶつけ、苦しませるだけ苦しませたいと思うことだろう。そう知っているからこその問いだ。

「まさか。返り討ちに遭うのがオチじゃない」

「解らないぞ」

「それに、私はあなたに頼みがあってきたの」

「頼み?」

 不可解だと蒼礼は眉を顰める。だが、一つだけ思い当たることがあった。

「優達の呪いを解けというのは無理だ。そんなことをすれば、俺もろとも殺されて終わりだぞ。尤も、断ったら俺を殺すんだろうけどさ」

 薬缶を火にくべながら、蒼礼は明日の天気を話すくらいの気安さでそんなことを言う。それに一瞬イラッとした鈴華だが

「解っているわよ。それに殺さないって言ってるじゃない。虎一族の長に掛けられた呪いを解いてもらうには、皇帝の信頼が必要だわ。でも、それは後でいいの」

 深呼吸して告げる。

「俺を縛り上げて皇帝に差し出すつもりか?」

 それに、やっぱり蒼礼は淡々としたものだ。

 ここでの生活が終わりを告げ、中央に連れ戻されるかもしれない。そんな悲観を全く感じさせなかった。

「違うわよ。っていうか、死なれたら困るのよ。それに、そんなことしても解決にならないってことぐらい、私でも解るわ」

 しかし、蒼礼が自分を苛つかせようとしていることはすぐに見抜けたので、鈴華は握りこぶしを作って自分を落ち着かせながら言葉を返す。

「なかなか頑張るな」

 蒼礼はそろそろムカついて消えてくれるかと思っていただけに、粘られてつい本音を漏らした。

「それはどうも。ともかく、あなたにやってもらいたいことがあるの」

「誰かを呪殺したいのか?」

「そんなわけないでしょ。あなたを殺す以上に考えたことのない話だわ」

「じゃあ」

「呪術師は殺しの能力に長ける。でもそれだけではなく、治癒の能力に長けているそうね」

 鈴華の言葉に、蒼礼は不可解だという顔をする。

 確かに治癒に関して知識はあるが、その能力が長けているとはどういうことか。

「まさしく、呪を持って何でも治療できるそうよ。それも、殺しの能力が高ければ高いほど、その反対作用である治癒の能力も高い」

「馬鹿げている」

 一度も治癒の能力なんて使ったことがない蒼礼は一蹴した。しかし、この反応は予想していたのか、鈴華は苛ついた様子もなく笑う。

「試したことがないだけでしょ。事実、宮廷ではかつて奏呪だった連中が、皇帝やそれに連なる方々の病や怪我を癒やしているというわ」

「そいつは」

 なんとも皮肉な話だなと蒼礼は呆れる。そして、事実なのかと首を捻った。

 実際、殺しと治癒は紙一重のところがある。しかし、一度殺しに振り切ってしまった能力を治癒に転化するのは難しいはずだ。特に、奏呪のように殺しすぎた連中には難しいだろう。所詮、宮廷でのことは噂でしかないはずだ。

「疑っているのね。でも、事実よ。試しにこれ、治してみて」

 鈴華は先ほど山賊のせいで擦りむいた腕を見せる。それに蒼礼は無茶を言うなよと顔を顰めた。

「軟膏を作ってやるからそれで我慢しろ」

「駄目。術で治して」

「お前な」

「さっき、あなたは山賊を脅すだけで殺さなかった。殺すのは容易かったはずなのに、あえて爆発を最小出力にしていた。そっちの方が難しいはずなのに。それだけのことが咄嗟に出来るんだったら、出来るはずよ」

 鈴華は全く揺るがない。それに、蒼礼はやれやれと立ち上がった。


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