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第3話 虎の姫

「逃げろ!」

 少女がすでに山賊に興味がなくなっていた頃、山賊たちは次々に起こる爆発に恐れをなして逃げ始めた。爆発は目眩ましで、実際の威力は抑えられていたのだ。

「あっ」

 少女はそこまで考えて、山賊とは逆方向に揺れた茂みに向って走り出した。ここまで来て、そして山賊に追われるなんて災難にまで遭ったのだ。逃がしてなるものか。

「待て!」

 先ほどまで震えていたとは思えない身のこなしで、少女は蒼礼を追い掛け始める。それにぎょっとしたのは蒼礼だ。

「な、なんで追ってくるんだ」

 面倒そうだと思ったが、本当に面倒だったらしい。

 くそっ、寝覚めが悪くても見捨てるべきだった。

 しかも身のこなしを見る限り、どうやら山賊二人くらいならば軽く倒せる実力を持っていたのだろう。

 蒼礼は少女を撒くために再び札を取り出そうとしたが

「奏翼! あなた奏翼でしょ!」

 と叫ばれては、呪符を投げつけるわけにはいかなかった。

 蒼礼は走りやすい道から茂みの中に入る。麦と大豆が心配だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 正体に気づいているのか。それとも当てずっぽうか。

 そのどちらにしても大問題だ。

 そして次に、一体何が目的なのか。

「待ちなさいよ。奏翼!」

 少女は完全に蒼礼を奏翼だと思っているらしい。ますます厄介だ。

 人相書きなんぞは出回っていないはずだが。

 蒼礼は舌打ちしたくなる。だが、足を止めるわけにはいかない。必死に走るが、少女も必死に食らいついてくる。

「待てって言っているでしょ。私は、()一族の末裔よ!」

 さらに、少女が言った虎一族という言葉が、蒼礼の足を僅かに緩めさせる。

 虎一族。

 現皇帝の龍一族と最も激しく、そして最も長く戦った一族だ。しかも、かつて虎一族は天下統一を成したことがあるという由緒正しき家系だ。成り上がりの龍一族にすれば、目の上のたんこぶというべき存在だった。

 だから、徹底して奏呪によって主要な人々のほとんどが殺された。それだけではなく、一時はどれだけ繋がりが薄かろうと、虎一族に連なるというだけで殺されたものだ。

 その生き残りだと。嘘だろうと思うと同時に、この執念はそれ故かとも思う。

「待てって言っているでしょ。あんた、(とら)(ゆう)(たつ)を覚えているでしょ」

 ついに、蒼礼は足を止めるしかなかった。いや、止まってしまった。

 虎優達。今でも夢に見るその男の名前に、足が動かなくなった。

「私は虎優達の末の娘よ。何とか難を逃れたの。あなたたちの執拗な呪術からね」

 追いついた少女は、蒼礼の背中に向けてそう放つ。

「俺は」

「奏翼じゃない、なんて言わせないわよ。ここにいるって突き止めるのに、どれだけ苦労したと思っているのよ」

 少女の言葉に、蒼礼は振り向くしかなかった。

 目の前にいる小柄な少年のような姿の少女は、確かに虎優達の面影がある。目元がそっくりだった。

「お前は」

「私は(とら)(れい)()。奏翼、あなたに話があるの。聞いてくれるわね」

 にこっと笑う虎鈴華に、蒼礼は逃げるのもここまでかと溜め息を吐く。

「殺しに来たのか」

「さあ。それはあなたが話を聞いてくれるかどうかによるわ」

「解った。家に案内しよう」

 分が悪い。それを認めるしかない蒼礼だった。




 山深く、獣もなかなか近づかないようなところに、蒼礼の住む粗末な小屋はあった。そこまで黙々と付いて来た鈴華だったが

「私を撒くつもりなの?」

 と、思わず問い掛けずにはいられなかった。

「そんなつもりはない。ここが俺の家だ」

「嘘でしょ」

「嘘を吐いてどうする? 茶ぐらいは出す」

 蒼礼は勝手にあの名前を出して付いて来たのはお前だと、小屋の戸を開けた。中は意外としっかりしていて、簡素な机と椅子、それにベッドがある。火を使えるのは外しかないが、これはこれで快適なものだ。

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