表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/44

第2話 悲鳴

 蒼礼は自分がどう思われているかよく解っている。

 そして、町の人たちが想像するそのほとんどが合っていることも知っている。

「どうせ人間らしく生きたことなんてないんだ。隠れて静かに暮らせているだけでも、十分すぎるほどだ」

 蒼礼は山道に入ったところで、思わずそう呟いてしまう。

 今の生活でさえ、許せるものではないと思う者は多いだろう。どうしてお前は生きているんだと思っている者も多いだろう。

 それは当然だと蒼礼も思う。しかし、どうにも死ぬ踏ん切りが付かないから、こうして細々と生きている。特に自分の身体に大きな秘密を抱えているとなれば、そう簡単に死んでいいのかも解らない。

「俺はなぜ生きている?」

 思わず問い掛けても、答えてくれる人も、答えを知っている人もいない。蒼礼はまた黙々と歩き出す。だが

「っつ」

 何かが聞こえて立ち止まった。辺りを見回し、集中して聞き耳を立てると

「きゃあああ」

 女の悲鳴が聞こえた。

 厄介だな。そう思ったが、無視するのも寝覚めが悪い。蒼礼はそちらに足を向けた。

 森の中、響き渡った悲鳴の主は、袴を穿いて男装しているものの、明らかに少女だった。背中に剣を括り付け、ここまでは勇猛果敢だったようだが、さすがに五人もの山賊に追われては悲鳴も上げてしまう。

「逃げんなよ」

「そうだぜ。その剣を置いていけば、身の安全は保証してやるぜ」

「ああ。女郎屋に売るのは止めといてやるぜ。金持ちのじじいにしておいてやるからよ」

 追い掛ける山賊たちは下卑た笑いを浮かべながら、そんなことを言っている。

 少し離れたところにいる蒼礼は、吐き気がするなと顔を顰めた。

 何時の時代も、女を売る価値のある物品としか見なしていない輩はいるものだ。それは何も今の山賊たちが言う意味合いだけではなく、身分のある人間ですら考える利用価値という意味もあり、蒼礼は何度も胸くそ悪いと思ったものだ。

 そしてそれを何度利用しただろうと考えて、余計に気分が悪くなる。

 と、今はそんなことを考えている場合ではない。

「きゃっ」

 足をもつれさせて倒れた少女は、咄嗟に背中にあった剣を抜いた。一体どれだけの腕前か不明だが、どのみち多勢に無勢だ。蒼礼は距離を詰めつつ、助けに入る機会を窺う。

 山賊たちは追い詰めたという余裕と、少しいたぶってやろうという気持ちからか、にやにやと笑って少女を見下ろしている。

 そもそも、なんでこんな山の中に少女が一人でいるのやら。見る限り、それなりに身分のある娘のようだし、男装してわざわざこんな山の中を通る必要はないだろうに。

「面倒そうだな」

 そう思ったが、ここで見捨てるのも寝覚めが悪い。とっとと片付けて自分も去ればいいかと、蒼礼は懐に手を入れる。昔からの癖で、色々な物を常に身につけているのだ。

「ひひっ、まずは俺から味見させてもらおうかな」

 山賊の一人がそう言って少女の足を掴んだ時

「っつ」

 その男の目の前に呪符が飛んできた。と、それを認識すると同時に呪符が爆発する。

「ぎゃああ」

「な、なんだ」

「ぎゃあああ」

 最初の爆発に驚いた男の目の前にも呪符が現われ、次々と爆発する。その様子に、それまで剣を構えて震えているだけだった少女は、目を丸くした。

「凄い」

 そして素直にそう思う。と同時に、どうやら目的の人が近くに居るらしいことを知った。

 この呪符を用いた爆発術は、明らかに奏呪のもの。火薬の臭いが一切しないのがその証拠だ。

 少女の目がすっと細くなる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ