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04.生贄は一人で十分

主人公がまともな訳がありません。


 席替えは無事とは言い難いが、滞りなく終わり。残ったのは残骸や、コテンパンに叩きのめされたイカサマ野郎だけ。このクラスの生徒でイカサマを見逃すような奴はいないと思う。見逃したとなると、相手がマジシャンだった場合だな。該当者いるけどさ。


「お前たち、席替えするなら事前に言え」


「先生が遅かったのが悪いんだよー」


「お前たちの担任を決めるのに今まで掛かっていたんだ!」


 担任がやってくるの遅かった理由はそれかよ。あれか、二学年の担任同士で押し付け合っていたとかそれか。そこまでして俺達の担任になりたくなかったのか。いや、心情は理解しているけどさ。


「あと、そこのお前。ちゃんと席につけ」


「ちゃんと座っているじゃないですか」


「床に直座りは着席とは言わない」


 馬鹿の一人が床に直接座り、目の前に机はない。机の代用として椅子があるのだが、普通はそっちに座るべきだろう。何で椅子を代用にしようと思った。ちなみに机は脚が折れて、教室の隅に投棄されている。


「何で始業式から問題を起こしているんだよ!」


「先生が来るの遅かったからじゃないですかー」


「責任転嫁するな!」


 全くである。机を壊した奴も自己申告しろと言いたいが、やったのは勇実だからな。あえて、担任から視線を外している時点で自白しているようなものだ。ちゃぶ台返しを返した時の威力を間違えやがって。


「こんな奴らと一年も一緒にいないといけないとか貧乏くじだ」


「決め手は何だったんですかー?」


「くじ引きだ」


「運命力にバンザーイ!」


「うるせー!」


 これが教師と生徒の会話には思えないよな。前方に騒がしい連中が集まっているのも悪いのだが。奴らがそこを選んだ理由は目立ちたいとか、構ってほしいとかそんなところだろう。教師なら存分に可愛がってくれるさ。いや、生徒が教師を弄るほうか。


「これからお前たちの担任になる佐藤直哉だ。頼むから一年間、大人しくしていてくれ」


「ここは嫌でーすと答えておく場面かな?」


「建前で分かりましたと言っておくべきじゃないか?」


「その後すぐにやらかすのが定番だよな」


「言えてる」


 ワイワイガヤガヤと本当に前の方が喧しい。担任が早々に頭を抱えているぞ。それに対して後方組は一切関知しないことにしている。だって、関わったら世話係を任命されそうだから。


「沖田! 新垣! お前たちが抑え役だろ!」


「えっ、嫌です」


「同意見」


 何でそんな面倒臭い役割を引き受けないといけないんだよ。普通に断るぞ。それは奈子だって同じだ。あくまで頼みであって、強制力はない。大体、俺達が鎮圧していたのは知り合いがそれに関わっていたからだ。そして一緒に叱られていたのだから、無関係な連中を抑えようとは一切思わない。


「お前たち二人以外に誰がこの連中を鎮められるんだよ!」


「それが教師の役目じゃないですか」


「生徒に全部任せるのは職務放棄では?」


 正論を返されてぐぅの音も出せないようだ。俺達を口で言いくるめるなら悟位の芸当を要求されるぞ。こちとら問題事に関しては百戦錬磨だ。それから避ける行動だって熟知している。つまり、見て見ぬふりをすればいい。


「だったら、どっちかが学級委員長をやれ!」


「そういうのは立候補式では? または推薦とかが妥当だと思います」


「私達以外にも適任者がいるかもしれないな」


 立候補するとしたら、それはこのクラスの脅威度を把握していない愚か者だな。そんな馬鹿がこの中にいるとは思えないが。担任が立候補を募るが、当然ながら誰も挙手する生徒はいなかった。


「仕方ない。推薦にするか。順当にいけば沖田だろうな」


 なぜそこで俺が第一候補になるのか。このクラスにいる連中の半分以上は顔を知らない。だが、何をしていたのかは半分以上知っている。つまり、俺が何をしていたのかも知られているのだろうな。それでも俺はこのクラスの生徒達を信じている。無駄な結束力を見せるのは今しかない。


「学級委員に相応しいと思う人物を全員指差せ!」


 俺の号令と共に全員が指差した人物はただ一人。そして俺を指差しているのもたった一人だけ。本当に無駄な結束力でしかないのだが、馬鹿達が俺を選ぶわけがない。誰が自分の脅威となる奴を世話係に選ぶのだ。


「わ、私!?」


「頑張れ、蘭。お前こそが委員長に相応しい」


「ちょっと待って! 何を基準にして私を選んだの!?」


「「「見た目」」」


「はあぁーー!?」


 それが全員の総意である。ちなみに俺を指差したのは蘭だけ。奈子や良識派が俺を選ばなかったのは、いざという時に協力してほしいからだろう。学級委員で拘束されていたら自由に動けないからな。


「それじゃ、学級委員長は及川で決定だな」


「先生! 私はまだやるとは言っていません!」


「諦めろ。こういったのは理不尽であろうとも何かしらの理由で決めとかないと誰もやらないんだ。それにクラスの総意であるのに間違いはないからな」


 担任の言葉と共に盛大な拍手が教室に響く。先導したのは俺だけどな。今日という日は蘭にとって忘れられない記念日になるだろう。悪夢の方だけど。それが分かっているから、俺を滅茶苦茶睨んでくるんだろうな。


「先生! 私一人だけでは役不足なので副委員長を任命させてください!」


「悪いな、及川。副委員長という役職はないんだ」


 蘭が愕然としている理由は何となく察する。なぜか教師までもが敵側に移ったように感じているのだろう。ここまでの展開ならば、教師が譲歩して蘭の言い分を聞いてくれても不思議じゃないからな。この担任は人を見て、判断を決めている節がある。つまり、俺と奈子を敵に回したくないのだ。


「私一人でこのクラスをまとめられるわけないじゃないですか!」


「大丈夫だ、蘭。お前なら何とかできるはず」


「そうだな。私達からも応援だけは送っておく。ファイト」


「口じゃなくて、手を貸して!」


 それは状況次第だろうな。俺の場合は勇実が、奈子の場合は瑠々が問題を起こした場合、自動的に参戦する構図が出来上がっている。そしてこの関係は他の連中にも適用される場合がある。


「言っておくけど、俺と奈子にだって対応できないものはある。問題を解決するなら適任者を味方につけるのが重要だぞ」


「私なら瑠々。総司なら勇実やその他三人のようにな。柊は手が空いている方が処理する形になるか」


「何でそこで私が出てくるのかな?」


「「過去を振り返ってから言葉を出せ」」


 腕を組んで首を捻っているが何も出てこないあたりが本当に厄介である。自覚なく馬鹿な行動をするものだから、こっちの予測が間に合わない。対処が後手に回ってしまうから、全て事後処理になってしまうのが柊の特徴である。


「やっぱり、二人の方がこのクラスのことを知っているのだから。委員長の適任者じゃない」


「俺はこのクラスの連中を半分も知らないぞ」


「私は半分以下だな。逆に私のことは大体の連中が知っていそうだが」


 全体を把握しているのは悟だろうな。問題はこいつに解決の協力を求めると、違った問題に発展してしまう可能性が高い。だから、候補から除外される。それに真面目な奴だっているはずだ。そういったのに協力を求めるのが最適解かな。解決できる見込みは立たないが。


「馬鹿たち以外は総司を選ぶと思っていたのに」


「噂程度なら知っているから除外したんだろ。俺のやり方は様々だからな」


「罠にハメる、力業で解決する。他人を利用したりもしていたか。正攻法が通じるような連中でもないから仕方ない」


「貴方たちは一体、何をしていたのよ」


 基本的に俺と奈子は共闘することが多かったから、お互いに手の内を知っている。だからこそ、敵対した場合は厄介なんだよな。誰を味方に付ければいいのか、何をすれば相手が嫌がるのかを熟知しているから。よほどのことがない限り、俺と奈子が争うことはないけどな。


「俺達の情報を知らない蘭が珍しい存在だよな。箱入り娘的なものか?」


「おかげで私達が選ばれなくて済んだ。身代わり、ご苦労様」


「ちょっと! 私はまだ納得していないわよ!」


「納得していなくても決定だ。これ以上の引き延ばしは教師として許さないからな。ということで、さっさと帰れよー」


 教師すら蘭を見捨てたな。颯爽と教室から去っていく教師に対して、信じられないような顔で蘭が見送る。予定調和の現実に絶望しているのかもしれない。談合を疑われるような決定だが、一切の協議は行われていないのだ。


 そして、これで始業式が終わったと誰もが思っただろう。騒ぎは小さく、肩透かしを食らったような雰囲気になっている。その油断が致命的で、騒ぎの元凶はこれから行動を起こすと誰も予想だにしていなかった。

視点は現在、総司ですが場面によっては他のキャラになる場合もあります。

この作品において、誰が主人公なのかは決めておりませんので。

全員の癖が強すぎるのが原因ですけどね。

次回、問題児が遂に動きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、拍子木がチョーンチョーンと高らかに響き、半鐘がかき鳴らされる。 半鐘の音が消えたら? すでにあたり一面焼け野原。 救いは無いんですか!!
[一言] ついに動き出してしまうか……
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