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03.席替えにも一匙の騒動を

三話目にして自己紹介タイム。


 始業式は滞りなく進み、終わりを迎えようとしていた。心配していた馬鹿達も特にこれといった行動を起こすこともない。訂正、何人かがこっそりと抜け出していくのを確認した。


「無視でいいか」


 ハンドサインで知り合いに問題なしと合図を送っておく。そうしないと好奇心で動く奴もいるからな。終わり頃に抜け出すということは何かしらの準備でもするつもりなのだろう。


「流石に初日は様子見に徹するか」


「警戒されているのが分かっているからね。教師たちの誰かが常時、こちらを監視しているからさ」


 悟の言う通り、要注意クラスに認定されているような監視体制だ。抜け出した奴らは人を盾にして気づかれないように動いていたけどな。真面目にどうしてそんな動きができるのか疑問だ。


「さて、終わったことだし教室に戻ろうか」


「それで悟は何をしようとしているんだよ?」


「単純に席を決めるだけだよ」


 最初の席順は名前の五十音順になっていた。俺としては不満がないのだが、その他の連中にとって席の場所というのは重要な意味を持っている。主に逃走経路を確保するために。


「それでは第一回、席決めオリエンテーションを開始する!」


 悟の言葉と同時に半分以上の生徒が沸き立つ。なぜそこまで興奮するのかが分からない。話し合いやくじ引きで決めるようなことはしないだろう。やるとしたら勝負ごとになるだろうな。


「好きな席を指定して、最初は人数も多いだろうからジャンケン。勝てば席を確保。負けたのなら次の席を賭けてカードゲームだね」


 いたってまともな勝負方法だな。喧嘩をするとしたら次点のカードゲームか。短時間勝負だから、ババ抜きとかではない。ポーカーやブラックジャックあたりが候補となるか。


「俺には関係ないけど」


 混む場所は把握している。だから人気のない場所の席をしていて勝負をしない方向を俺は取った。全体が見通せて、なおかつそれなりに動きやすい場所。中央後方の席。運よく誰も指定しなかった。


「やっぱり、総司はそこか」


「奈子だって似たような理由でそこを選んだろ」


 俺の席の左後方。そこを奈子は選んだようだ。似たような理由ではあるが、奈子の場合は少しだけ違う。幼馴染である瑠々を見失わない為に選んだはず。あれが被害を起こすとなぜか奈子も巻き込まれるからな。


「朝と変わり映えがしないね」


「自分がそこの席を確保したいだけでこれを企画しただろ、悟は」


「何のことやら」


 俺の真後ろが悟。朝に集まっていた面子としては勇実だけが足りないのだが、あいつは激戦区に乗り込んでいった。幼馴染だからといって、いつも一緒というわけではないからな。


「ほら、あそこを見てごらんよ。負けた腹いせに机でちゃぶ台返しをしているよ」


「蹴り返されているけどな」


 机と一緒に吹っ飛んでいく馬鹿なんてこのクラスの人間くらいだろう。ちなみに蹴ったのは俺の幼馴染である。勇実の身体能力も侮りがたい。敵側に回ると結構厄介なんだよ。


「勇実君は前方廊下側を確保できたみたいだね」


「ジャンケンとかの勝負であいつが負けるわけないからな」


 勘がいいというか、運がいいというか、この手の勝負で勇実が負けることは殆どない。そもそも廊下側を選ぶ連中は食堂や購買へのスタートダッシュを狙っているのだ。弁当持参の勇実には関係ないはずなんだけど。


「えーと、ここは空いている?」


「誰も指定していないな。勝手に座れば、確保となるんじゃないか」


 俺の左隣。そして奈子の前に見知らぬ女子生徒が座る。悟と奈子にアイコンタクトを送ったが、どちらも知り合いではないらしい。眼鏡を掛けたセミロングの髪。真面目そうな雰囲気の彼女だが、どうしてこのクラスに選ばれたのか。


「及川蘭です。これからよろしくお願いします」


「沖田総司。敬語とか別に必要ないから」


「新垣奈子だ。これから苦労するだろうが、よろしく頼む」


「加賀悟だよ。いやー、貴重な真面目役が来たね」


 見た目は確かにそうだが、このクラスだとそれが擬態だと疑ってしまう。裏表がハッキリしている奴が多い中で、本性を隠しているかもしれない奴が潜伏している可能性だってある。油断なんてできない。


「抑え役か?」


「多分そうだろうね。彼女一人でどうにかなるほど甘くはないけどさ」


「本人を目の前にしてそういうことを言うな」


 裏表がない後ろの二人に小言を飛ばしておく。これから隣の席になるというのに最初から関係を壊すわけにはいかない。気まずい雰囲気になったらどうするんだよ。


「良かった。隣の席の人がまともそうな人で」


「「えっ?」」


「おい、そこで意外そうな顔をするな」


 俺はいたってまともな人間だ。そりゃ友人関係の問題で揉め事に巻き込まれるケースは多いが、俺から騒ぎを起こすようなことは少ないんだぞ。火消し役担当だということを忘れるな。


「総司がまともかどうかは置いといて」


「置くな」


「及川さんは何かやっちゃって、このクラスにやってきたのかな?」


「左遷させられたみたいに聞くなよ」


「何かした覚えはないのだけれど。それと私のことは蘭でいいわ」


 やらかした人間は皆そう言うんだよな。自覚がないからこそ、記憶から出てこない。後で情報屋にでも聞けば、彼女の経歴について知ることはできる。予想から言えば、彼女は本当に何もしていないと思うけどな。


「あの、私からも聞きたいのだけど。何でこの周りだけ誰も来ないの?」


「「「こいつ等がいるから」」」


 全く同時に俺達が喋り、お互いに心外だという顔をする。知略で群を抜いている悟、力での制圧で他者を圧倒する奈子。あとは噂とかだろうな。そんな二人に俺も含むのは止めてもらいたい。


「負けた、負けた。というわけでお邪魔するよ」


「柊。お前もここに来るのかよ」


「私が来たら邪魔だった?」


 悟が一般人だと思っている女性。そして俺と奈子にとって親交のある柊が悟の隣に座る。むしろ、これで安心はできるか。奈子と柊に両側を抑えられたのであれば、悟でも容易には抜け出せない。


「ついでに哀れな子羊も連れてきたよ。安全地帯な場所なんてここくらいだったから」


「草壁修です。よ、よろしくお願いします」


 柊が連れてきたのは小柄、童顔、容姿が中性的といった属性てんこ盛りの男子生徒だった。そういった部類が好きな人にとっては格好の的だな。しかし何で怯えているのだろうか。人相的に怖そうな人物はここにいないのに。


「大丈夫、大丈夫。噂の三割くらいは誇張だから」


「七割が真実とか、殆ど本当ということにならないか? というか、柊は草壁と知り合いなのか?」


「初対面だよ」


 相変わらずこいつの行動が読めない。朝は他人に興味無さそうにしていたのに、今だと積極的に関わろうとしている。普段の行動は普通で良心的な行いもするのだが、自分に無頓着なところが短所である。


「私としても知り合いがいる方が安心できるから」


「お前と一緒とか、私としては安心できないのだが」


「間に挟まれている僕はどうなるのかな?」


 何とかなるだろ。柊と奈子が犬猿の仲というわけではない。関係としては良好だし、外で遊んでいるという話も聞く。問題があるとしたら、柊の体質というか、行動だな。


「私、ここを選んだことを後悔した方がいいのかしら」


「後悔するの早すぎないか?」


 蘭が不安がっているが、それは早計だ。この面子が物理的に大暴れする機会など滅多にない。やるとして他の面子を抑え込むために協力するときくらいだろう。悟はどうだか分からないが。


「あっちは賑やかなのに、こっちは落ち着いているよね」


「イカサマでもバレたんだろ」


 前列の方で乱闘騒ぎが起こっているのだが、誰も止めようとしない。柊はあれを察知して逃げてきたのか。そりゃ、哀れな子羊を伴って来るわけだ。その行動だけは褒めておこう。

遂に登場、今作の問題児筆頭。その名も『柊 志穂』

モチーフが作者でありながら、ここまでやらかすキャラになるとは予想だにしませんでした。

ただ私の体験を、追体験させるキャラが欲しかっただけなのに。

あとがきが言い訳で埋まる日も遠くありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 柊お嬢様登場!! 言い訳=文量増量なのである!もっとやって下さい!! [気になる点] 担任教師はまだ生きているのかな?
[一言] よくよく考えたら沖田総司って名前新撰組と同じじゃないか( ˘ω˘ ) そして柊氏女性だったのか……(ずっとなんとなく男性だと思ってた)
[気になる点] 新垣奈子ではないか
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