02.まだ平和な朝の風景
去年のクラスからの付き合い、学校外での知り合いなどに挨拶をしていたら意外と知人が多いことに気付いた。むしろ、何でこれだけの変人どもとの付き合いがあるのか謎でしかない。
「っしゃー! 遅刻回避!」
「新学期初日から遅刻は不味かったな」
「お前らはどこに目が付いているんだよ」
勇実と奈子が教室に入ると同時に罠が発動。今回は両側から黒板消しが襲ってきたのだが、普通にキャッチしやがった。真横なんて何となくしか見えないはず。それとも誰かから教えてもらっていたのか。
「このクラスにそんな親切心がある奴はいないか」
誰も止めない時点で犠牲者を望んでいる奴ばかりだろう。俺も悟もせっせと罠を設置している奴を咎めたりしなかったからな。どうせ、そんな奴の末路は決まっている。
「「で、犯人は?」」
「「あいつ」」
「秒でばらすのかよ!?」
勇実は俺と同じように投げようとフェイントを絡めて、身体を一回転させて遠心力を乗せた黒板消しが馬鹿の顔面に命中する。同じような手だと避けられる可能性があるからな。現に馬鹿は避けるモーションをしていたし。
「私は無難に拳骨だな」
「待て、奈子!? お前の力だと頭蓋骨が割れる!」
「誰が馬鹿力だ!」
ゴスッと鈍い音を響かせて、諸悪の根源の頭蓋骨が爆発四散、するはずもなく椅子から転げ落ちながら悶絶しているな。他の連中はチラリと絶叫している馬鹿を見て、すぐに視線を外した。薄情な連中ばかりだ。
「しかし、何だ。勇実から勢揃いだと聞いていたが教師たちは何を考えているんだ」
「奈子の疑問ももっともだが。教師というか校長の差し金じゃないか?」
「僕も総司と同じ意見かな。ひとまとめにしようなんて普通は考えないよ。担任の精神が持つかどうか疑問だからさ」
「私は面白くなりそうだから歓迎だよ」
やっぱり俺の幼馴染は頭のネジが数本吹っ飛んでいるな。確かに退屈はしないだろうが、騒ぎに巻き込まれるのは確定しているんだぞ。教師から目を付けられているのに、更に評価を下げてどうするのか。
「校長は何を狙っていると思う?」
「大騒ぎを起こさせて問題児を退学させるとか?」
「僕としては管理が面倒だからまとめただけだと思うよ」
「「それだな」」
俺と奈子も悟の意見に賛同する。変わり者が揃っているクラスなのだが、その高校をまとめ上げている校長もそれなりに変わっている部類に入る。そうじゃなかったら、何人かは退学になっているはずだからな。
「入試のときに一発芸を披露して、校長が気に入ったら入学決定という噂は真実だと思うか?」
「聞けば分かるよ」
「入試で一発芸を披露した人、挙手!」
勇実の声に、何人かが手を挙げたのは驚愕を通り越して呆れるしかなかった。馬鹿達が集まったのはある意味で必然だったのかもしれない。よくそんな校長の元でまともな生徒が巣立っていったな。
「というか、お前はよく聞けるな」
「聞くのはタダじゃん」
「そういう問題ではない」
初対面の生徒が多いのに、全く物怖気しないのは勇実の長所であり、短所でもある。気が合わない人間とは一生合わないが、気の合う人間とは意気投合し騒ぎに巻き込んでしまう。竜巻みたいなのが勇実だな。
「そもそもどこで一発芸を披露していたんだ? そんなの見なかったぞ」
「校長室だったらしいよ。毎年噂を信じて突撃する馬鹿が何人かいるらしい」
その馬鹿がこの教室に集まっているのは間違いないな。しかし何で高校側はちゃんと説明しないんだ。そんな行為は無駄であり、迷惑になるのだから止めろと言えるだろうに。
「ちなみに面白かったり、有用だと判断されたら加点。つまらなかったら一発不合格らしいよ」
「普通なら死地だよな。常識的に考えて入試の段階で校長室に突撃するような馬鹿は頭がおかしい」
全くの無駄な行動じゃないのもおかしいけどさ。やっぱりこの高校はどこかおかしい。家から近いという理由だけで決めたのだが、ここまでの問題児が一か所に集まっているのも間違っている。
「それよりも総君。酷いじゃん。私を置いていくなんて」
「寝坊したのに、日課のトレーニングを始めたお前を待つ義理はない」
「あれをやらないと調子が出ないんだから仕方ないじゃん。それよりもちゃんと起こしてよ」
「冷水をぶっかけるのは師匠から禁止されてしまったから、他の手を模索中だ」
「布団が汚れるから止めろと言われたよね。それよりも私の心臓が止まるかと思ったよ。普通、氷水をか弱い少女にぶっかける?」
「それで風邪も引かない奴のどこがか弱いんだよ」
ぶー、と頬を膨らませる勇実は外見だけなら可愛い部類に入るだろう。中身があまりにも問題があり過ぎるし、赤ん坊の頃からの付き合いであるために恋愛感情なんて全く生まれない。感情としては手のかかる妹だな。
「いちゃつくのは別に構わないけど。一部の男子からきつい眼差しを受けているの気が付いている?」
「気づいているがあえて無視している。手のかかる妹を相手にしているだけだからな」
「冗談はよしてよ、総君。私がお姉ちゃんだよ」
「あ”っ?」
「おっ、やるか。この野郎ー」
「お前たちが暴れると被害甚大だから止めろ」
奈子の仲裁により俺と勇実の喧嘩は未然に防がれてしまった。お互いに本気ではなかったが、仮に喧嘩を始めた場合、奈子も参戦してしまう。それだと初日から職員室直行だからな。師匠と母さんのコンビに俺達が殺される。
「君達って突発的に喧嘩を始めるよね」
「人生は刹那的に行動しないといけないんだよ。悟君」
「僕はじっくりコトコト計画を練る派だからね」
秒で計画を練って、即実行する奴が何を言っているのやら。でも問題児を集めたといってもそれぞれに対抗する人材も揃っているともいえる。悟に対して奈子を相手にさせるように不利な相手がいるから。
「しかし、個性豊かといってもそれに当てはまらない人もいるのはやっぱり当然なのかな」
「悟としては誰が一般人だと思う?」
「彼女とかかな」
悟が指さした人物を見て、俺と奈子は揃って溜息を吐いた。あれを普通という概念に入れるのは無理がある。相変わらず悟は人を見る目がない。だから偶に失敗したりするのだ。
「黒板消しの罠を二つとも受けたのは彼女くらいだよ。判断としては間違っていないと思うけどね」
「悟がそう思っているのならそれでいいが。俺からは何も言わない」
「見た目は普通であるのは同意しておく。あそこまでチグハグな奴を私は知らないけど」
そもそもこれだけ賑やかな教室で爆睡している人物が普通だと思うだろうか。周りを一切気にしていないのはちょっとばかり変わっているだろう。他の連中なんてそれなりに周りを気にしているというのに。
「君たちの知り合いなのかい?」
「それなりに親交はあるな。こっちが巻き込んだというか、あっちから巻き込まれに来たというか」
「私の喧嘩に巻き込んだのは正しいな。不運というか、危機感が足りないというか」
「それは彼女にとっては災難だっただろうね」
どうなんだろうな。あの時の彼女の表情は喧嘩に巻き込まれた恐怖よりも、面倒だといった感じが強かった。何より、人質に取られてあんな発言と行動するのが普通かと問われれば、あり得ないと答えるだろう。
「そのうち、嫌でも分かるか」
「そうだな。彼女が普通のまま過ごせるとは思えないな」
俺と奈子は確信している。彼女は確実に何かをやらかすと。ただし、それはこのクラスの中にいる誰もが該当することでもある。そして始業式が始まる為に全員が移動する。頼むから式の間は大人しくしていてくれよ。
各キャラクターの名前などは次話にて。
本格的な騒ぎが起こるのは五話目なので、それまでは少々まったりするでしょうか。
コメディーというジャンル自体が初めてなので慣れない部分もありますが、ご容赦を。