16.ルールの裏側にあるものは?
さて、校長室から解放された俺達が向かうのは当たり前だが我らがクラスだ。呼び出されたのは最後の授業が終わった直後だから普通なら他の連中は帰っているだろう。
四人の誰もが絶対に一人も欠けていないと確信していたけどな。
「諸君! 祭りの開催が決定したよ!」
「「うぉぉぉー!!!」」
「高校を全部使っての二チーム対抗戦!」
「「わぁぁーー!!!」」
「完膚なきまでに相手を本気でボコってやろうじゃないか!」
「「しゃぁぁーおらぁーー!!!」」
「ここは蛮族の集まりか?」
「この光景を見たら否定できないわ」
「おい、隣のクラスが全力で逃げ出していったぞ」
奈子の声に廊下へ顔を出すと確かに隣のクラスの連中が我先にと下校していく。更にそれが伝播していったのか他の奴らまで駆け足で逃げて行っている。俺達のクラスが気合の入った声を出すとこうなるのかよ。
「参謀ー。体育会系はいいけど、俺達技術屋はやることないのでは?」
「罠の設置を許可すると言ったら?」
「よっしゃ! 部材の仕入れだ!」
高校を魔改造するのは止めてもらいたいのだが。確かにただの乱闘騒ぎなら体育会系の連中しか全力を出せない。それだと裏方連中が暇になってしまうのだから、罠や妨害の工作はやらせるしかないよな。
「沖田君。芸術や芸能関係はどうしたらいいの?」
「騙して拉致って拷問。いや、実験材料にでもしたらいいんじゃないか?」
「鬼畜ねー。OK。方向性を考えてみる」
これも許可を出すしかない案件。捕縛されたら何をされるか分からないのは不安でしかないが、今回の祭りは全員のリミッターを解除させるのが目的でもある。誰がどのような特性を持っていて、どこまでやっても大丈夫なのかを把握するために必要な行事だ。
「非戦闘員で技術も役に立てそうにない私達はどうすればいいのー?」
「視聴覚室にお菓子持参で観戦していろ」
「ポップコーンとコーラの準備しておくねー」
「カメラの設営は得意な奴に任せる。あとは実況も必要になるか」
「任せろ!」
撮影用のカメラは校長が用意してくれる手筈だ。でもただ映像を流すだけでは物足りない。俺達の声も収録されるだろうが、やっぱり解説役の実況は必需品だろう。適任者もいるのだから使わない手はない。
「語部。相方を頼むな」
「仕方ないわね。やってあげるわよ」
男女ペアの実況は聞きごたえがあるだろう。本当に何でこのクラスには個性豊かな連中が揃っているのか。むしろ、一つの高校にこれだけの面子が揃うのも珍しいと思う。教師たちにとっては悪魔の世代だろう。
「開催日はGW初日。全員動きやすい服装で参加だよ。掃除や片付けは当日と次の日までを予定しているからそのつもりで」
あまり効果のない釘差しではある。散らかし過ぎると片付けが面倒だと暗に言っているのだが、その程度で躊躇する連中でもない。初の開催でもあるからやる気は有頂天だろう。
「さてと、それじゃ細かいルールを決めていこうか。進行は僕と総司で行うよ」
「まず一点。校内の備品などの破壊を禁じる」
メリットとデメリットの両方があるが、単純に被害を出すと教師たちの心証が悪くなるから。仮に壊したとしても修繕すれば問題ないのだが、直せないものだってあるだろう。これを公言しておかないと絶対に誰かはドアを蹴破るからな。
「次は僕から。特定の三名までをスタート開始時間を五分間延長する」
「それに何の意味があるんだよ?」
「だって、初手から奈子が突っ込んで来たら相手側が不利になるじゃないか。でも特定の一人だけだと不公平だからね」
言っていることは分かるのだが、それは自分が有利になるルールではなかろうか。奈子は絶対に悟と敵対する勢力を選ぶ。最初の進行を遅らせれば、対応できるだけの時間を稼げると考えているのだろう。
「それと特定の組み合わせを禁止にしようか。例えば奈子と瑠々の組み合わせを禁止にするとか」
その二人を組み合わせると瑠々に対する対抗策が無くなってしまうから構わないか。それでも奈子が前線で戦っていれば、必然的に瑠々への対応が出来なくなってしまう。あっても意味のないルールのような気がする。
「要するに対抗策はどちらにもあるようにするためだよ。もちろん、総司と勇実の組み合わせも禁止だよ」
「なら俺と奈子の組み合わせは?」
「総司と瑠々の組み合わせにすると確殺がまかり通るから、そっちの方が脅威かな」
何で俺と瑠々が共闘した場合の戦法を知っているんだよ。俺が前衛で瑠々がサポートとなれば、相手の体勢を崩して一撃を入れるのは容易い。奈子相手でも勝率は三割くらいは確保できる戦法だ。並の相手なら狩り放題だな。
「勝敗は各陣営の本部に置かれているボールを回収して、自陣に持ち帰ることにしようか」
意外と長期戦になりそうな気がするな。最初はどちらも攻めに回らないといけないから屍が増えるだろうし、ボールを奪取したとしても持っている奴が集中的に狙われる。犠牲が絶対に生まれるルールだな。
「私から質問いいかしら?」
「何かな、委員長」
「人員の振り分けはどうするの?」
「自由でいいんじゃないかな。その後に人数の調整をすればいいからさ」
というわけで教室の半分に分けてチームを結成したのだが、意外なほどにそれほど人数の調整をする必要がなかったな。調整する前に観戦側に回ってしまったから。相手を見て逃げたともいえるか。
「予想通りかな。それじゃ僕達は総司、奈子、柊さんをスタート延長させてもらうよ」
「それじゃ私の方は勇実、瑠々、ゴリラを延長ね」
「ちょっと待てや!」
悟と蘭の判断は正しい。一番厄介であり、進行を遅らせるという目的を達成できる。悟にとって一番の懸念材料は柊だろうな。罠を張ったとしても柊はどんな方法で突破してくるか分からない。
「何でゴリラは声を荒げたんだ?」
「俺の呼び方は酷すぎないか!?」
「名は体を表すというだろ。顔も体格も毛の濃さもまさにゴリラだろ」
「ちなみに他のクラスでもその通称が浸透している」
「クソがっ!」
瑠々の情報だから間違いないだろうな。誰がそれを広めたのかはこの際、隠しておこう。だって俺の幼馴染だから。しかし、彼を侮ってはいけない。パワーは本物のゴリラと遜色ないほどあるから、奈子も力押しだけでは勝てない相手だ。
「俺達の呼び方もそれぞれで決まってきたよな。俺は兵装か」
「総司の場合は共闘する機会が多いから補佐役として広まっているのだろう。私は女番長から女帝に変わったな」
「私なんて他のクラスの子からも普通に委員長呼ばわりされているわよ。むしろ、本名を覚えられていないわ。しかも教師まで」
あまりにも仲間内での呼び方ばかりしているから他のクラスも真似し始めたし、それで覚えられているんだよ。一番悲惨なのは蘭か。校内放送で委員長と職員室に呼び出されたのはあまりにも可哀そうだった。
「はーい。まだルールを伝えきっていないのだから脱線しない」
「ゴリラの所為だな」
「そうね。ゴリラの所為ね」
「今回の祭りで絶対に俺の呼び方を訂正させるからな!」
一度呼ばれ始めた通称はそう簡単に変わらないはず。だが通称が一人に一つだけとは限らない。柊なんて狂人以外にもこの一か月だけで色々な呼ばれ方をして、本人だって把握していないんだぞ。
校内の生徒が全員帰ろうとも俺達のルール説明は続き、様子を見に来た教師の帰れの言葉で解散となった。そして各自での祭りの準備は着々と進むであった。
本名を考えるよりも通称の方が楽なのはどういうことなのかな?
あと消防と警察車両で道が塞がれて本日の予定がパァーになりました。
だから書けたのもありますけどね。
今年の雪は多いですねー。




