15.悪化したのなら粉砕しようか
第一回魔窟抗争編、始まります。
始業式からそれなりの日数が経過し、時はGW手前まで進んだ。それまで何の問題もなかったと聞かれれば、そんなことがあるわけもなく。日々、馬鹿をやる者達と鎮圧する連中の不毛な争いが続いている。
そして、なぜ俺達は校長室に集合させられているのか。
「それではこれより、対策会議を始めます」
「校長先生。それは本来、教師がやるものではないのでしょうか?」
委員長のツッコミは正しい。俺達はただ校長室にやってくるように言われただけで、会議の趣旨や内容も教えられていない。この面子が集められたのなら、俺達のクラスに対する対策であろうことは予想できる。
「教師だけでは解決策が思いつかなかったの。よって、毒の扱いを心得ている者たちに頼ろうと思いましてね」
「おい、校長が俺達のことを毒と言ったぞ」
「これって録音していたら交渉材料にならないかな?」
「私はまだあのクラスに馴染んでいないのに」
「諦めろ。委員長。私なんて何でこの面子に加わっているのか全く分からないのだから」
招集されたのは俺、悟、蘭、奈子の四人。俺だってどうしてこの面子に加わっているのか分からないのだ。集めるのだったら、愉悦の中心人物の悟と、鎮圧班班長の蘭だけでいいはず。
「最近の君たちのクラスは度を越していると教師陣から報告が上がっています」
「なるべく私達だけで処理しているはずですが」
「それとは別件です」
日常的な争いや、馬鹿の騒ぎはクラス内で対処しているから教師に迷惑を掛けているわけではない。呼び出されて報告している蘭が疲弊していっているのはあれだが。俺達だって手伝ってはいる。
「あまりにも授業中の雰囲気が悪すぎて教師たちの胃が悲鳴を上げ始めているのよ」
「「「「あー」」」」
思い当たる節がありすぎる俺達は何とも言えない声を出す。そもそも原因の発端は目の前にいるそれなりにお年を召した校長先生の所為なのだが。困った表情をしながら、内心では状況を楽しんでいないか。この女性は。
「鎮圧側があまりの戦力差にキレ始めたのは?」
「二週間くらい前ね。そこから中立側も加勢してくれるようになったけど」
「今度は僕達側が不利になって苛立ち始めたね」
「私と総司が加わっただけで敗走を始めるのは楽でいいのだが」
「「鎮圧の仕方が過激すぎる」」
代表者二人から指摘されてしまったが、俺達としては手っ取り早くすませる方法を取っているだけだ。つまり、動けなくさせてしまえばいい。奈子渾身のローキックで暫く行動不能にしてるだけなのだ。
「前に奈子が居て、逃げようとすると背後に総司がいるのよね」
「巧みに退路を塞いでいるよね」
だって、そうでもしないと奴らは懲りないから。次の日には全てを忘れて行動を開始するのは逞しい根性だと思うぞ。朝から登校する不審者をスルーすれば、その後に待っているのは惨劇。ガスボンベを担いだ二宮金次郎は流石に教師が止めていたな。
「貴方たちのクラスはちょっとやり過ぎね」
「校長先生。あれはちょっとではありません」
「私の予想では一回くらい全校生徒を相手にしての戦争が勃発すると思っていたわ」
この校長は本当に大丈夫だろうか。一体俺達に何を求めているのかさっぱり分からない。この際、校長の真意を確認しておく必要はあるか。それで何かが変わるわけでもないのだが、知っているのと、知らないのでは心構えに違いが生まれる。というわけで会話の主導を委員長からもらう。
「校長先生。何で俺達を一クラスに纏めたんですか?」
「その方が面白くなりそうだったからに決まっているじゃない」
この高校、本当に大丈夫かよ。俺と奈子は呆れているし、蘭は頭を抱えている。悟だけはニコニコと状況を楽しんでいる。高校の最高責任者が愉悦側に傾いているとか、明らかに禄でもないことになりそうだ。
「でも、実際このままでは学級崩壊も秒読みじゃないかしら」
「確かに最近のクラスのギスギス具合は看過できないものがある」
授業中の雰囲気とか最低最悪だからな。おかげでやってくる教師たちがあまりよろしくない汗をかきながら授業を進めている。それが負担になっているのは分かっていたが、根本的な解決方法はまだないんだよな。
「そこで解決策を貴方たち四人が用意することはできないかと思って」
「校長が破滅を望んでいるがどうする?」
「僕としては策を用意できるけど、これを実行するには高校側の許可が必要なんだよね」
「あの、校長先生。止めたほうがよろしいのでは?」
「あー、そういうことか。私は瑠々対策の人員か」
一人だけ別のことを考えていたようだが、俺も蘭も悟が考案しようとしている作戦に不安しか感じない。だが、現状のクラスをどうにかしたいとも思っている。あのクラスが爆発しようものなら本当に高校を巻き込んでの戦争になりかねない。
「校長。一つ確認したいのですが?」
「何かしら、総司さん?」
「何で他の教師を同席させなかったのですか?」
これも確認なのだが、ここにいるのは生徒四人に対して校長だけ。本来であれば、担任が同席していても不思議ではないのだが。どうして他の教師たちと情報を共有しようとしないのか。
「これからの発言次第では他の方々は難色を示すか、止めようとしてくるじゃない」
「流石は入試に一発芸を取り入れる人だよ」
呆れるしかないのだが、俺達のクラスとの親和性は高いな。そりゃ教頭の頭髪が薄くなっていくはずだ。上の人が自由過ぎて、下の人が頑張らないといけないと思うだろう。あの頭は頑張りの証だな。
「俺は悟の作戦に参加してもいいかな」
「総司君。本気?」
「逆に聞くけど、蘭は現状を穏便に解決できる方法を提案できるか?」
「それができていたら苦労していないわ」
内情としては末期のようなものだから。どこで爆発するか分からないし、俺と奈子がいなければ乱闘騒ぎに発展しそうな時だってあった。遊びの喧嘩ならいいのだが、本気の殴り合いは止めないとマズい。
「僅か一か月で崩壊するようなクラスもおかしいとは思うけどな」
「それだけ皆、何かしら抱え込んでいるし、我慢できないものがあるんだよ」
「その原因を作っている人は誰よ」
「解決するのが私達というのも末期だな」
愉悦、鎮圧、中立が一個として機能した場合を何というか。混沌だろうな。悟の作戦がどのようなものであろうとも、俺達らしくやろうじゃないか。つまり、盛大な祭りを開催しようじゃないか。
「覚悟は決まったかしら?」
「それじゃ悟。作戦をどうぞ」
「抗争をしようじゃないか」
あっ、蘭が後悔し始めた。争いを止めるために、争いを始めるとかどう考えてもおかしいよな。亀裂が広がり始めたところを、ハンマーで更に叩くようなものだぞ。木っ端微塵に砕け散りそうだな。
「ほら、殴り合ったら友情が生まれるようなものだよ」
「その理屈が通るのはドラマや漫画の中だけよ」
「俺から言わせれば何かしら我慢しているのだから、発散させるのが目的なんだろうな」
「本気を出していない連中も日々不完全燃焼だし、鎮圧側だってどこまで加減して抑え込めばいいか分からないからな。私としては悪くないと思う」
反対が一人。賛成が三人なのだから決行されるのは確定だな。後は日程や、高校側の許可さえ取れれば問題ないだろう。ただ、抗争を引き起こそうとするのを高校側が容認するとは思えないよな。普通なら。
「映像は記録させてもらうわよ」
この校長が反対するとは最初から思っていなかったさ。この場にストッパー役なんているわけがない。教師の誰かがいたのならば、校長を止めてくれるかもしれないが誰も呼ぼうとはしない。
「高校の施設を借りる許可はOKと。流石に破壊行為は禁止にしないとね」
「他の生徒の迷惑にならないよう、休日開催だな」
「清掃作業は各自で執り行うようにするわよ」
「細かいルールは総司と悟に任せる」
クラス総動員の最初のイベントは抗争に決定だな。後にこの映像を見た教師陣から俺達のクラスはある言葉で呼ばれるようになる。魔物の巣窟、通称『魔窟』と。
本当に自分で書いておいて何をやっているのかさっぱり分かりません。
通称持ち増える原因の一端なんですけどね。
さて、どこまで構想が持ってくれるかな。




