14.魔窟の誓約書
二か月も放置してすみません。
あと、柊の体験はちゃんとフィクションですからね。
中途半端な時間になったのと、他の教師たちへの説得を考えるために自習にするのもどうかと思う。なんだかんだと担任教師だって俺達のクラスに適性があるのではなかろうか。いい加減なところとかさ。
「初日の一限目から自習とか、前途多難だな」
「私としては、初日から教師と対立するような事態になるなんて思わなかったわ」
「僕達らしいと思うけどねー」
「私としては不名誉が増えたような気がするなー」
「因果応報だ、馬鹿め」
俺を含めて勉強する気が一切ない。そもそも担任が教えるのは歴史。暗記でどうにでもなるし、俺を含めて一年の頃の成績からして問題のない連中ばかり。むしろ、成績上位者が多いんだよな。このクラスは。
「成績さえ良ければ、多少の問題には目を瞑ってくれるからね」
「今回の問題が多少のなのかしら?」
「大問題だろうな」
間違いなく、この高校始まって以来の事件だっただろうな。そして、三階から飛び降りた理由が何となくというもの大概ふざけているとしかいいようがない。他の教師を納得させる言葉を担任は見つけられるだろうか。
「失敗するに一票」
「僕は他の教師がやってくるに一票。委員長は?」
「複数形になる。はい、次は奈子」
「教頭あたりが参戦。柊」
「私が跳ぶ」
「それは駄目だと思うよ」
蘭も修も随分と染まってきたな。柊の行動や、初日から教師と馬鹿な問答をやったおかげで距離感が近くなった感じはする。まだ馴染めていない面子もいるが、このクラスだと時間の問題のような気がする。
「実際、柊君は本気で実行するつもりだったのかい?」
「骨折までなら許容できるよ」
「柊なら無傷でやりきると思えてしまうんだよな」
柊の発言に悟もドン引きである。そして柊の生態を知っている奈子の感想がこれである。俺も無傷で生還する方に一票だ。下手なフラグを立てなければ、大体無傷なのが不思議なんだよな。
「俺としても、これを人間扱いしていいのかどうか迷う時はよくあるな」
「酷くない? 私だってれっきとした人間だよ」
「普通に過ごしていたら絶対に聞かない言葉よね」
人間性を疑うとか聞くような機会はないだろう。しかも、精神的な部分ではなく身体的な部分でだ。数メートル吹っ飛んで、掠り傷程度で済んでいるのを目撃していると疑ってしまうのだ。
「骨折、脱臼、打撲とかもしたことあるんだよ」
「そもそも今の年齢でそれらを経験しているのが異常だと察しろよ」
どれか一つだけならまだ分かる。三つ以上となるとどんな生活を送っていたらそうなるのか不思議に思うだろ。当たり前の日常とは程遠い物を想像してしまうのだが。
「田舎だとよくあるはず」
「一つ聞いておくが。柊以外にそこまでの怪我をした人物はいたか?」
「うーん? いなかったね」
やっぱり柊が異常なので正解だな。不注意なのか、不慮の事故なのか、それとも馬鹿な真似をした結果なのかは分からない。知りたいとも思わないな。ただ、言えることは運が悪かったのだろう。
「やっぱり、僕としては柊さんを何かの作戦に参加させるのは遠慮してもらいたいね」
「何で私だけ?」
「行動が全然読めないし、絶対に僕の言うことを聞いてくれない気がするから」
「勘で動く珍獣だからな。いや、害獣か」
「皆して当たりきつくない?」
「むしろ、ここまで言われて怒ったりしない柊さんが信じられないわ」
「柊の沸点は異様なほどに高いからな。私と総司でも柊がキレた場面は一度だけしか見たことがない」
苦虫を嚙み潰したよう表情をしている奈子は、当時を思い出したのだろう。多分、俺も同じ表情をしていると思う。あの時の様子を一言で表すなら、金輪際見たくないだ。感情のリミッターが壊れたのか、泣き笑いながら相手をフルボッコにしていた様子は俺と奈子が本気で止めるほどだったからな。奈子曰く、その脅威度は俺に並ぶほどだったと。
「キレるような場面に遭遇したくないな。特に総司と柊は」
「あー、あれは私も多少やり過ぎたと思ったよ」
「因果応報じゃないか?」
「救急車を呼ぶ羽目になったのを許容できるほど私は愚かじゃない」
聞き耳を立てていたクラスメイト達すらもドン引きしている。蘭と修も表情が引き攣っているし、悟は冷や汗を流している。取り扱いを間違えると劇毒になるから注意が必要だ。何で俺まで同列に扱われているかは謎だが。
「物騒な話をしているな」
「言い訳は考えついたのかな? 先生」
「お前ほど頭の回転がよろしくないんだよ。色々と考えて思ったんだが、どこまでがお前の筋書だったんだ?」
「えー、信用ないな。僕も」
信用できる相手じゃないのは悟を知っている生徒の総意なんだよ。偶に関係ない事柄でも裏で手を引いていたんじゃないかと話に出てくる場面だってある。だから腹黒なんて呼ばれるんだ。
「今回に関しては僕はノータッチだよ。むしろ、この面子を制御できる方法を知りたいくらいだからさ」
「本当かよ?」
「無理無理。だって、三人中二人は僕を絶対に信用していないし、一人なんてそもそも行動が読めないよ」
「「悟だしな」」
「従ったらいい様に利用されそうだから、何かヤダ」
俺と奈子は今まで悟が何をしていたのか知っているから拒否するし、柊は嫌な予感がするからという訳の分からない理由で従わない。それが正しいんだけどな。善意で動いているように見えて、実際は自分の為である場合や、高みから見下ろして楽しんでいる場合もある。性格が悪いんだよ、こいつも。
「共通の目的のためには協力してもいいが、それ以外だとな」
「変な敵が増えそうだから、私も同意見だな」
「指揮を無視して裏ボス直行は?」
「裏ボスは悟だからな。いや、味方と見せかけて敵であるから殲滅対象か」
「こんな連中を利用しようとしたら碌な目に遭わないから僕としても願い下げだよ」
基本的に俺と奈子は悟と敵対するし、柊は俺達に協力してくれる。というか、柊は遊撃として場を混乱させるのが役目になるか。俺達は耐性があるから簡単に受け入れられるが、他の面子なら正常な思考を取り戻すまで僅かながら時間もかかるだろう。
「お前たち、仲がいいのか悪いのか分からないな」
「プライベートなら面白い話が聞けるから僕としては大歓迎だよ」
「偶に知恵を借りる場合があるから、プライベートなら構わないな」
「総司を通して検閲してもらえるのであれば、私もプライベートでなら」
「何でプライベートを強調しているんだよ、お前らは」
それ以外だと争いしか生まれないからだよ。常識派の俺達と、愉悦派の悟側では意見が合わないのなんて頻繁だ。仮に目的が一致した場合は脅威が格段に上がるとは誰の意見だったか。俗称、アニキだったかな。
「それで上手い言い訳が思いつかなくて僕の知恵を借りに来たのかな?」
「不本意ながら正解だ。どうやっても他の教師を納得させられる考えが思いつかない」
「そんなの簡単だよ。要は僕達がいじめなんてしていないと証明すればいいのだから」
全員が職員室に乗り込むとかじゃないよな。教師たちが勘違いして全面戦争とかになりそうな気がする。俺達もそこまでやるつもりはないのだが、何人かはノリでやってしまいそうな気がする。
「誓約書を書くよ。それに全員が署名をすれば解決さ。僕達はいじめをしていないし、これからもそんなことをするつもりはないと」
「どうせ何か問題が発生した場合はクラス一同協力して解決するとかの条項も追加するつもりだろ?」
「流石は総司。その通りだよ」
俺からはあえて何も言わないぞ。これに納得するかどうかは担任次第だ。俺から忠告するつもりはないが、気づいている奴は何人かいるはず。これが採用された場合、教師たちから許可を得たと合法的に認めさせられるのだから。
「確かにそれなら納得してくれそうだな。しかし、本当に全員が署名してくれるのか?」
「別に問題がある署名でもないのだから、協力はしてくれるはずさ。皆もいいね?」
悟の訴えに全員が頷いたり、声を上げて賛同してくれた。これで悪魔の契約は成立してしまったか。問題が起きた場合、全員が本気で解決に乗り出すとか正気の沙汰ではないのに。
「いいのか、総司?」
「担任がいいのなら、いいんじゃないか?」
「私、なぜか寒気がしたのだけれど」
「いやー、今年は波乱万丈の一年になりそうだね」
「生き残れるのかな、僕」
「ふっふっふ、悪巧みのし甲斐があるね」
それぞれで戦々恐々としつつ、それを楽しもうとしているという混沌の一帯。中立が俺と奈子、柊。常識派、蘭と修。愉悦、悟。ある意味で各勢力が揃ってしまっているのが、何とも言えないな。
教師たちにとって、地獄の一年が始まってしまった。
臓器にひび割れが発生するとか初めて体験しました。
おかげで回復するまで時間がかかるし、何ならまだ完治しておりません。
庶民の頃もそうですが、連載開始すると体調を崩す呪いにでも掛かっているのでしょうか。
とりあえず、何とか生きています!




