弟は絵を描いた
朗読用に書いた作品です。
ある所に仲の良い二人の兄弟がいました。兄はケンカが強く、弟は落書きが上手で、兄弟揃っていたずらっ子でした。
「おらおら、僕に勝てる奴は今すぐかかってこいやぁ。」
「なんだとーやっちまえ」
兄は近所の子ども達にしょっちゅう喧嘩を仕掛けておりました。近所の子ども達も負けじと戦うのですが、兄には勝てません。
「ひええ、まいった。まいったよ。」
近所の子ども達はたまらず降参してしまいました。
「兄さん、今日はそれくらいにしておこうよ。」
「おう、今日はこのくらいにしておくか。」
弟は兄よりは大人しい性格だったので落書きを書く手を止めて、よく兄を宥めておりました。
そんなある日、二人の兄弟は近所の八百屋で働いている八百屋のお兄さんが「戦争」で亡くなったという話を聞きました。
「ええ、八百屋のお兄さんが死んじゃったの!?」
「そんなの...嘘だ!!!うわーん」
八百屋のお兄さんは時に厳しく、時には優しくいたずらっ子な兄弟のことを可愛がっていました。そんなお兄さんが亡くなったと聞いて2人はわんわん、わんわん、沢山泣いてしまいました。
しばらくの間、泣いていましたがふと兄は泣き止んでこう言いました。
「ぼくが。ぼくが八百屋のお兄さんの敵をとる。」
弟は兄の強い言葉に驚いてしまいました。弟は兄までいなくなって欲しくありませんでした。しかし兄があまりに真剣に話すので弟は結局何も言えませんでした。
それ以来、兄はケンカをしなくなりました。身体を鍛えながら家で勉強ばかりしていたのです。両親は喜びましたが、弟は兄のことが心配でした。
「兄さん、大丈夫かな。」
弟は1人で近所の塀に落書きをしながら兄のことを考えていました。
「おいこら、ウチの壁におしりなんて描くな。」
「ご、ごめんなさーい。」
弟のおしりの落書きは家主のおじさんに直ぐにバレてしまい、しっかりと怒られてしまいました。弟は1人で怒られながらも兄が隣にいないことにどこか寂しい気持ちになりました。
時は過ぎ、2人の兄弟は大人になりました。兄は力が強かったので戦争をする「軍人」に、弟は落書きが上手だったので絵を描く「画家」になりました。
そして、兄も八百屋のお兄さんと同じように戦争に行くことになりました。
「兄さん、行かないでくれよ。」
弟は兄が八百屋のお兄さんと同じように戦争でいなくなってしまわないかとまた不安になってしまいました。
「心配してくれてありがとう。だが止めないでくれ。必ず勝って帰ってくる。」
「兄さん...。」
兄は弟や家族に微笑みながら、そう言うと戦場に向かうために家を出て行きました。
それから何年かすぎて、戦争は終わりました。しかしとうとう兄が帰ってくることはありませんでした。
恐らく、戦争で亡くなってしまったのでしょう。
弟は兄が帰ってこないことにショックを受け、子どもの時のようにわんわん泣きながら、近所の川に行って叫びました。
「兄さんのバカやろうーーーーー。帰ってくるって行ったじゃないかぁーーー。今すぐ帰ってこいやぁーーー。」
叫んでみても、兄や八百屋のお兄さん、戦争で亡くなった人達が帰ってくることはありません。
しばらくの間、泣いていましたがふと弟は泣き止んでこう言いました。
「ぼくが。ぼくが世界中の戦争を止めてみせる。」
泣いている内に弟は気付いたのです。戦争は国同士のケンカであり、自分の国にも相手の国にも自分と同じように身近な人を亡くして悲しんでいる人がいるという事に。そして別の国ではまた別の戦争が起きているという事に。
弟は兄のように勉強も運動も得意にはなれませんでしたが、絵だけは誰にも負けない自信がありました。
「ぼくの絵でみんなに戦争すると悲しむ人が増えるという事を伝えよう。」
それから弟は筆を握り、沢山の絵を描きました。兄の絵、両親の絵、八百屋のお兄さんの絵。おしりの絵、綺麗な街の絵、そして戦争でボロボロになった街の絵。
弟はとにかく描いて、描いて、描き続けました。次第に弟の絵は世界中の人々に見られるようになりました。弟は絵を通して、人々を時に笑わせ、時に泣かせながら「戦争の悲惨さ」そして「平和の大切さ」を生涯に渡って世界中に広めたのでした。
〜おしまい〜
如何でしたでしょうか。
とある絵本作家の方をモチーフに創作した物語です。日本自体は平和な国ですが、昨今はアフガニスタンでも内戦があり、まだまだ世界中で戦争は起きているのが実情です。
私自身に戦争経験はありませんが、反戦の意思を込めて書きました。(政治的な意図はないです。)
もしお手隙であれば星1から星5、どれでも構いませんので評価ボタンと感想の方、お願い致します。創作の励みになります。
お読みいただきありがとうございました。